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素地形状の多品種化に対応するプロセス開発研究

■九谷焼技術センター 高寛明

 本研究では白素地の形状の多品種化を図ることを目的に,コンピュータ技術を利用した形状作成プロセスについて検討した。
コンピュータ利用時における作成形状の把握の容易さや形状展開の豊富さ等を検討し,断面と輪郭ラインの部品化を行い,豊富な形状の作成を可能とした。
キーワード:白素地,形状,多品種

Development of Computer Designing Process for Diversification of Porcelain Shapes

Hiroaki TAKA

In order to diversify the shapes of white porcelain, we examined the shape designing process by means of computer technology. A computer-assisted system enabled us to grasp the outline of the shapes easily and to make many variations from one standard design. Sectional planes and outlines of a piece of porcelain ware were segmented to make a variety of forms.

Keywords:white porcelain, shape, many varieties

1.緒  言
  伝統産業分野においてもコンピュータを利用した情報技術の導入が進められている。九谷焼業界においても情報技術の導入が図られており1),技術支援も望まれている。
九谷焼では白い素地に上絵付を行い製品とするものが一般的である。この半製品の白素地は窯元で生産されており,白素地の形状は現在多品種な形状が求められている。
  九谷焼白素地の形状開発では,過去の優秀な器の形状からヒントを得て変形加工する形状作成方法や,現行製品の形状にサイズ変更等の部分的な変形を加えて商品とする形状展開等が行なわれている。
  コンピュータを応用した現行製品からの変形加工は,豊富な形状展開が可能である。また導入にはソフト操作技術の確保等の負担があるが導入後は素地形状の多品種化が容易にできる等のメリットがあり導入効果も大きいと考える。
本研究では,白素地の形状の多品種化を図ることを目的に,陶磁器分野に適合しコンピュータを利活用しやすい環境について検討した。なお,陶磁器白素地の形状開発を行う場合での回転体形状は,石膏ろくろや手引きろくろで原形や試作品に迅速に対応可能なため除外し,多角形や輪花形状の製作に対して重点を置いた。

2.内  容
2.1 食器画像データベースについて
  現在の市場は多品種といわれているが,近年流通している食器についての形状種と数量について調査するため,展示会や雑誌からランダムに写真画像を収集した。
収集した画像データによる和食器を主とした食器画像データベース(以下,器DBとする)を作成し  た。この器DBは約3300件の写真画像を収納し,形状分類は作る側と使う側の分類に大別して分類項目名を設定した。使う側である割烹食器の分類として34種の形状種別に分類した。
器DBの分類項目名による検索機能については,例えば四方・亀甲・八角や梅・菊・輪花等のキーワードを単独或いは組みあわせて検索を行い,該当するレコードを選択して順次画像表示する構造とした。
器DBの種々の写真画像は,素地の新規形状開発や商品開発時の企画検討資料として,内部での技術支援で活用を図る。図1が器DB画面である。

(図1 食器画像データベース)

2.2 食器形状調査について
  図2は収集したデータから作成した形状種別グラフである。なお,収集したデータには回転体が含まれているが,回転体形状は従来技術のろくろで迅速に対応可能なため,回転体データを除外したグラフで検討を行った。
表1は,分類名を形状種として割烹種の形状を四角・多角・輪花等の形状をまとめた個数を示し,次にそれぞれの割烹種の形状の該当する個数を示す。図2では四角,多角,輪花系の形状で7割程度を占めている。上記以外の扇や動植物では,原形を手作りで製作するほうが良好と考えられる形状である。
形状種の上位を占める多角形や輪花系の形状は,コンピュータを利用した形状作成で正確に対応可能な形状であった。表1の数量上位を占める四角形・菱形・六角・八角や木瓜・梅・菊等の輪花形状を,コンピュータで形状作成するプロセスについて検討することとした。

(図2 食器形状種別グラフ)
(表1 形状種別個数)

2.3 部品化形状について
  部品化は,コンピュータのソフト操作技術に未熟な場合でも作成を行う形状が把握しやすいことや,形状作成の段階で展開数が豊富であることを条件に検討を行った。結果は輪郭ラインと形状断面との2部品化とし,この2種の組合せにより形状展開数が豊富となる。また断面形状の部品化で,作成する形状が断面から容易に把握できる形式となった。
図3が輪郭ラインである。作成した輪郭ラインは,端反り形,切立形3種,内しぼり形の5種の基本的な形状とし,28種作成した。図4は端反りの輪郭ライン形状で,高さを12種に変化させて展開している例である。図3の28種と図4の12種で変化させて336種の輪郭ラインとしている。
図5が断面図形の一部である。断面図形の角数は3,4,5,6,8,10,12,16,32で,角形から輪花形へと変化させた展開を行っている。
  形状の輪郭ラインは336種作成し,断面図形は169種作成した。輪郭ラインと断面図形の組合せによる形状展開数は,56784点となる。
形状部品の輪郭ラインと断面図形は,他の多くの3次元ソフトで使用でき,データの移行や利用がしやすいイラストレータファイルで作成した。

(図3 輪郭ライン形状)
(図4 輪郭ラインの変化形)
(図5 断面図形)
(図6 試作素地)

2.4 試作について
  3次元ソフトのFormZを使用し,5弁輪花の断面に変形を加えてフリーカップの形状データを作成した。図6(写真上)が作成したフリーカップである。
パソコン上の形状データはX,Y,Z軸を同割合で変更させる単純な拡大縮小も簡単に可能であるが,Z軸である高さ方向のみを変更することも可能である。フリーカップの形状データから高さ方向を縮小し,小皿に変形加工した形状が図6(写真下)である。このような手法での変形加工は,迅速かつ容易でありコンピュータを利用して商品開発を行う場合の大きなメリットと考える。

3.結  言
  九谷焼白素地製品の多品種化を図ることを目的として,コンピュータによる白素地形状の製作プロセスの検討を行い以下の結果を得た。
(1)食器素地の種類形状調査を行い,収集した資料により食器画像データベースを作成した。この器DBは食器形状の写真資料を約3300レコード保有し,割烹分類34種等で検索可能な構造とした。
この器DBは内部技術支援資料として,素地の新規形状開発や商品開発時に活用する。
(2)部品化による製造プロセスを検討し,基本形状データの蓄積と展開を行い,断面図と輪郭ラインの組合せによる素地形状の多品種化を可能とした。
また部品化データを変形加工し,カップと小皿の白素地を試作した。
今後,九谷焼IT活用研究会員等と連携をとりながら,形状作成プロセスの情報化技術の利活用を図る。

謝  辞
  本研究を遂行するに当たり,試作・評価にご協力を頂いた九谷焼IT活用研究会の皆様に感謝します。

参考文献
1) 高寛明, 米沢裕司, 梶井紀孝. VR技術の陶磁器分野への応用研究. 石川県工業試験場研究報告.2005, p. 77-80.