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高速織機の振動騒音低減化手法の開発

■繊維生活部 森大介 土定育英
■機械金属部 新谷隆二 高野昌宏
■金沢大学 喜成年泰
■津田駒工業株式会社 平井淳 米島芳之

 近年,環境やオペレーターの健康面等への配慮から工場内外の振動及び騒音の防止について,多くの関心が寄せられている。繊維産業においては,過去にシャットル織機の代替としてジェットルームが普及したことで,シャットル音が無くなり織機の低騒音化が図られた。しかし,ジェットルームの高速化に伴い,その織機回転数は普及当初の倍以上となっており,織機から発生する振動及び騒音が再び問題となってきた。
  そこで,本研究では織布工場におけるオペレーターの作業環境を改善することを目的として,織機の振動・騒音の要因を調べ,織機構造やたて糸開口部の改善を行うことにより,織機から発生する振動と騒音の低減を図った。
キーワード:ジェットルーム,音響インテンシティ,有限要素法

Development of a Method for Reducing Vibration and Noise of Jet-looms

Daisuke MORI, Ikuei DONJYOU, Ryuji SHINTANI, Masahiro TAKANO,
Toshiyasu KINARI, Atsushi HIRAI and Yoshiyuki YONEJIMA

In recent years there has been a lot of concern about the influence of vibration and noise in and around the factories on the health of operators and on the environment. In the textile industry, noise caused by weaving machines was reduced when jet-looms replaced shuttle-looms and the noise of the shuttle was eliminated. However, the problem of vibration and noise caused by weaving machines has recently become serious again, because the rotation speed of the current jet-looms is more than twice that of early model in the development.
In this study, vibration and noise caused by jet-looms were reduced through improvement of the jet-loom structure and of the shedding machine.

Keywords:jet-loom, acoustic intensity, FEM

1.緒  言
  石川県はナイロンやポリエステル等の合成繊維の長繊維織物を中心とした産地であり,繊維機械,糸加工,織物,染色等の企業が集積している。石川県の工業統計1)によると,平成17年度の石川県の繊維関連工業出荷額は約2000億円で,全工業出荷額の約8%を占めており,繊維産業は依然として石川県の主要産業の一角を担っている。
  一方,中国に代表される東南アジア諸国の追い上げにより,石川県の繊維産地は厳しい状況下にある。今後,より一層の生産性の効率化を図ることが必要であり,東南アジア諸国との競争に打ち勝つためにも,最新織機への更新を常に図っていくことが不可欠である。
  繊維産業においては,過去にシャットル織機の代替として水や空気でよこ糸を飛走させるジェットルームが普及したことで,シャットル音が無くなり織機の低騒音化が図られた。しかし,ジェットルームの普及当初の織機回転数は約400rpm(r/min)であったが,その後,ジェットルームの高速化が図られ,現在では,1300rpmを越えるようなエアジェットルームがITMA ASIA 2005展で出品されている2)。近年,このジェットルームの高速化にともない,織布工場における実用の織機回転数においても,ジェットルーム普及当初の倍以上となっており,ジェットルームの騒音に加えて振動も対策が必要となっている。
織機の騒音に関する研究は以前から多く行われており,時田3)らは,シャットル織機から発生する騒音の特徴を調べ,その具体的な対策を述べている。また,梅田4)らは,シャットル織機から発生する騒音と吸音材の減音効果との関係を調べ,織機への応用効果について述べている。
  本研究では,生産性や汎用性から今後も技術革新が期待されるエアジェットルームに着目し,エアジェットルームから発生する振動と騒音の要因を調べ,効果的な振動騒音低減対策について検討したので報告する。

2.織機の騒音
2.1 対象織機
  本研究では,津田駒工業(株)製エアジェットルームZAX(図1)を測定の対象とした。この織機に仕掛けられている織物の仕様を表1に示す。

(図1 エアジェットル(ZAX))
(表1 織機及び織物の仕様)

2.2 騒音測定方法
  織機から発生する騒音の主要因を調べるため,平均的な音の強さや方向性を調べることができる音響インテンシティ及び織機動作と連動したマイクロフォンによる騒音測定を行った。測定対象である織機の周辺に200×200mmの格子からなる測定面を設定し,各格子の交点を測定点とした。各測定点において計測プローブの音響中心を合わせ,測定プローブ軸方向を測定面に垂直な方向に固定して測定を行った(図2)。

(図2 騒音の測定方法)

2.3 騒音の測定結果
  音響インテンシティ及び織機動作と連動した騒音測定結果をそれぞれ図3と図4に示す。図3に示す正面及び左右方向の騒音測定結果から,織機のたて糸開口部の音が大きくなっていることがわかる。また,図4より,たて糸が開口された直後,周波数が10kHz以上の大きな音が発生していることがわかる。これは,織機のたて糸開口部において,製織時に織物組織に応じてたて糸を開口させた時に,綜絖と綜絖ロッドの衝突音が発生していると考えられる。

3.騒音低減対策とその効果
3.1 部分防音カバーの試作
  たて糸開口部から発生する綜絖と綜絖ロッドの衝突音を低減するため,たて糸開口部に限定し,且つ,オペレーターの作業性を損なわない部分防音カバーの試作開発を行った。試作部分防音カバーの装着例を図5に示す。これは,左右に配置されたエアシリンダーにより上下に移動させることができ,内側には吸音材が貼り付けられている。

(図3 織機回りの騒音測定結果)
(図4 織機の騒音測定結果(織前))
(図5 部分防音カバーの装着例)

3.2 樹脂綜絖
  たて糸開口に用いられる綜絖の材質は,通常,ステンレス等の金属が用いられている。しかし,近年,軽量性に優れることから樹脂綜絖が使用される場合があり,織機の高速化や省電に対して効果を発揮している。本研究では,(株)木地リード製の樹脂綜絖を用いた。

3.3 騒音低減効果
  試作部分防音カバー装着の有無による騒音の測定結果を図6に示す。また,織機に金属綜絖から樹脂綜絖に変更し,部分防音カバーを併用した場合の織前における騒音測定結果を表2に示す。図6と表2より,部分防音カバーを装着することにより,織前において全体的に騒音が低減し,中央部では約4dB減少している。これは,織機騒音の主要因である綜絖と綜絖ロッドの衝突音が部分防音カバー内側の吸音材で,減音されているためである。
  また,樹脂綜絖を用いた場合の結果を図7に示す。図6と表2より,金属綜絖から樹脂綜絖に変更した場合,約7.2dBの騒音低減効果があることがわかる。また,図4の金属綜絖の騒音測定結果では,たて糸の開口動作全般にわたって騒音のスペクトルが見られるが,図7の樹脂綜絖の結果では,たて糸開口直後に騒音のスペクトルが見られるだけで,それ以外は全体的に騒音が発生していない。これは,金属綜絖では綜絖ロッドとの衝突音以外に隣接する綜絖との衝突音を発生していることが原因と考えられる。
  これらの結果を基に,部分防音カバーと樹脂綜絖を併用して実験したところ,両者の効果によって10.5dBの減音効果があった。

(表2 織前における騒音測定結果)
(図6 部分防音カバーの有無による違い)
(図7 織機の騒音測定結果(樹脂綜絖))
(図8 解析モデル(ZAX))

4.織機の振動
4.1 振動解析モデル
  織機の振動の発生状況を調べるため,有限要素解析ソフト(Ansys)を用いて織機(図1,表1)の解析モデルを作成した(図8)。織機の基本構造は,左右のメインフレームと4本の梁で構成され,たて糸,ワープビーム,及び巻取りクロスロール等が装着されている。本解析では,左右のメインフレームと4本の梁の接触面については解析を容易とするため完全接触という条件で解析を行った。

(図9 振動解析結果)

4.2 振動解析結果
  有限要素法のモード解析による低い周波数(低次モード)の結果を図9に示す。図より,低次モードでは,4本の梁のみが振動するモードが発生した。このことから,左右のメインフレームは4本の梁と比較して剛性が非常に高く,織機の振動には,4本の梁の影響が大きいことがわかった。また,有限要素法解析結果を基に,織機の4本の梁の剛性等を変えて,4本の梁が同時に連動して振動するモードの発生を押さえることで,織機本体から発生する振動の低減を図った。具体的には,織機の梁の構造を改良することで,織機の織前1mの位置の床振動を約4dB低減することができた。

4.3 紡振架台の試作開発
  織機から発生する振動の床への伝搬を防ぐため,小型の防振架台を試作し,実機試験を行った。これは,従来の織機が置かれている床全面を防振するタイプであるのに対して,内部に皿バネを複数枚重ねた小型の防振架台を織機の4角に配置するものである(図10,図11)。この皿バネの剛性を変えて実機試験を行い,織機の織前1mの位置における床振動の測定結果を表3に示す。尚,防振架台の剛性は固有振動数が大きいほど剛性は大きい。表4より,防振台無しの状態の床振動68.7dBに対して,試作した防振架台を用いることにより,最大21.2dBの振動低減効果があった。また,防振架台の剛性が小さいほど床振動の低減効果が現れたが,稼働状態での織機の揺れが大きくなったため,今後,織機の耐久性や織物へ及ぼす影響を調べる必要がある。

(図10 防振台装着の概略図)
(図11 防振台装着例)
(表3 床振動の測定結果)

5.結  言
  エアジェットルームに着目し,織機から発生する振動と騒音の状況を調べ,振動騒音低減方法について検討した結果,以下のことが明らかとなった。
(1)音響インテンシティや織機の動作と連動した騒音解析により,織機から発生する騒音の要因として,綜絖と綜絖ロッドの衝突音が最も影響が大きいことがわかった。このことから,部分防音カバーと樹脂綜絖を用いることにより,織機から発生する騒音を低減する効果があることを確認した。
(2)織機の振動解析結果を基に,織機構造の最適化を図り,織機本体から発生する振動の低減を図った。また,小型の防振架台の試作と実機試験を行った結果,織機本体から発生する振動の床へ伝搬を防ぐ効果があることを確認したが,織機の耐久性や織物への影響について調べる必要がある。

謝  辞
  本研究を遂行するに当たり,実験環境を整えて頂いた津田駒工業(株)に感謝します。また,本研究の実施について終始適切なご指導を頂いた金沢大学新宅救徳教授に感謝します。また,騒音測定に関してご助力を頂いた研究実施当時に金沢大学新宅・喜成研究室の学生であった段孝幸氏と松岡真二氏及び同研究室の学生諸氏に感謝します。

参考文献
1) 石川県県民文化局. 平成17年石川県工業統計調査報告書. 2007, p. 8.
2) 西野順一. ITMA ASIA 2005 視察記. 日本繊維機械学会誌. 2005, vol. 59, no. 1, p. 59-63.
3) 時田保夫. 騒音の基礎と防止対策. 日本繊維機械学会誌. 1972, vol. 25, no. 8, p. 523-530.
4) 梅田章. 防音カバーによる織機騒音の防止. 日本繊維機械学会誌. 1975, vol. 28, no. 7, p. 399-406.