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レーザ下穴利用マイクロドリリング技術の開発

■機械金属部 舟田義則 廣崎憲一 中島明哉

 近年,精密機械産業や電子産業,医療機器産業では,直径1mm以下の微細な穴を高速に,かつ形状寸法や加工位置がともに高精度に加工可能な技術の開発が求められている。本研究では,セラミック材料を対象に,レーザ加工と小径回転工具とを用いた機械的ドリル加工を組み合わせてレーザ複合マイクロドリリング加工を試みた。まず,YAGレーザにより板厚1mmのアルミナセラミックスの穴加工実験を行った結果,加工時間1秒で穴径0.16mmの加工を,加工時間10秒で穴径0.7mmの下穴加工が可能になった。さらに,この下穴を利用することにより従来よりも高速な0.25mm/sの送り条件で小径回転工具による仕上げ穴加工が可能になった。一方,本実験条件では工具の損耗は防げなかったが,マイクロドリルに比べてマイクロボールエンドミルは穴周囲の欠けを抑えることができた。
キーワード:マイクロドリリング,マイクロドリル,マイクロエンドミル,レーザ穴加工

Development of Micro-drilling Method Combined with Laser Pre-hole Processing

Yoshinori FUNADA, Kenichi HIROSAKI and Akiya NAKASHIMA

In the precision-machinery, electronics and bio-medical industries, there is a need to develop a micro-drilling technique for accurate and high-speed processing of a micro-sized hole with a diameter of 1mm or less. In this report, a complex micro-drilling technique, which combines mechanical drilling using a micro tool with laser piercing, was examined, and the following results were obtained. For an alumina ceramic plate with a thickness of 1mm, laser piercing could be used to prepare pre-holes of 0.16mm and 0.69mm in diameter within 1 second and 10 seconds respectively. Mechanical drilling using a micro ball endmill and a micro drill finished those pierced pre-holes at a feeding speed of 0.25mm/s ― much higher than the speed achieved with ordinary mechanical drilling. The micro ball endmill didn’t cause chipping around the holes more effectively than the micro drill, even though chipping and wearing of tools could not be prevented.

Keywords:micro drilling, micro drill, micro ball endmill, laser piercing

1.緒  言
  近年,精密機械産業や電子産業,医療機器産業において直径1mm以下の微細な穴加工を必要とする部品や製品,機器が多く製造されている。例えば,電子制御燃料噴射装置に使用されるノズルでは,直径0.2mm以下でアスペクト比10以上の深穴加工を必要としている。一方,積層型高密実装プリント基板では,層間の導通を図るための微細穴を高密度で加工することが求められている。さらにその検査には,数千個の微細穴加工を施したセラミックス板がジグとして使用され,形状や位置決めが伴にミクロンレベル精度の加工が求められている。
  現在,微細穴加工は小径の回転工具を高速スピンドルに取り付けて使用する機械的なマイクロドリル加工が主流である。形状精度が高い反面,ワーク素材がセラミックスなどの高硬度材料に対しては,工具の摩耗や欠損,穴ピッチ精度の低さ,加工能率の低さが問題視されている。そのため,放電加工や超音波加工,レーザ加工など様々な加工方法について開発が進められている。例えば放電加工では,微細な深穴加工が容易であるが,絶縁材料では加工能率が低い1)。超音波加工では,セラミックスなどの高硬度材料を高精度かつ表面粗さを極めて小さく加工することができるが,同様に加工に時間が掛かりすぎる欠点がある2)。レーザ加工では,高硬度材料であっても高速に加工可能であるが,形状精度が低いことが難点である3)。いずれの方法も長所短所を合わせ持ち,微細穴加工において単独での最適な方法がないのが現状である。
  本研究を始めるに当たり,各種加工方法の複合化による穴加工技術の検討を試みた。マイクロドリル加工における工具の欠損や穴ピッチ精度の低さは,「食い付き性」の低さによる工具先端の歩行現象が原因していると言われている4), 5)。何らかの方法で適正なピッチで下穴加工が施されていれば,工具への負担を小さくでき,欠損や摩耗を押さえながら加工時間を短くできると推測できる。下穴さえ高速に加工できれば,全加工時間の大幅な縮小が期待できる。この場合の下穴は,位置精度は十分考慮する必要はあるが,形状精度はあまり重要でない。そのため,下穴加工にはレーザ加工が最も適していると考えられる。
  そこで本報告では,レーザ加工により下穴加工と小径回転工具による仕上げ加工を組み合わせた複合マイクロドリリング技術を提案し,セラミックス材料における微細穴加工の高速化と高精度化に対する同手法の有効性を試作機により検証した。内容は以下のとおりである。

2.実験方法
2.1 レーザ下穴加工実験方法
  スラブ型ランプ励起パルスYAGレーザ加工機(コマツエンジニアリング(株)製,2×2)を用いてレーザ下穴加工実験を行った。加工の対象としたのは,アルミナセラミックス(住金セラミックス・アンド・クォーツ(株)製,純度99%以上)であり,これを厚さが1mmで大きさが25mm×25mmの板状に成形加工して使用した。
実験では,治具に固定した試料の表面に焦点距離80mmのレンズにて集光したレーザ光を照射した。このとき,下穴として要求される加工径に応じて,試料を静止させた状態でレーザ光をパルス照射するピアッシングのみによる加工と,試料を直径0.7mmで円弧運動をさせながらレーザ光をパルス照射する加工の2種類の方法で行った。
レーザ光は励起ランプにパルス状に流す電流に応じて出力される。よって,レーザ下穴加工実験では,表1に示す条件のとおり電流の通電時間(以下パルス幅)を0.1msで一定の下,電流量や繰り返し数,繰り返し速度を変えてレーザ光を照射した。なお,いずれの条件でも加工が1秒で終わるように繰り返し数に応じて繰り返し速度を調整した。例えば,繰り返し数50ショットの場合には繰り返し速度は50Hzである。

(表1 レーザ下穴加工条件)

2.2 小径回転工具仕上げ穴加工実験方法
  小径回転工具による微細穴の仕上げ加工では,レーザ加工した下穴に工具を位置決めすることが重要になる。そこで,図1に示すような最高回転速度2500s-1の高速エアモータスピンドルとCCDカメラによるモニタリング機能の付いたマイクロドリリング実験装置を製作した。
実験ではまず,スピンドルに取り付けた小径回転工具の回転中心を下方からCCDカメラで観察し,モニタ中央に表示されるように光学系の位置や姿勢を微調整した。その後,レーザ下穴加工した試料をステージに固定し,下穴を同様に下方からCCDカメラでモニタリングし,穴中心がモニタ中央に来るように試料を位置決めした。これにより,レーザ加工した下穴が小径回転工具の回転中心と同心の位置に位置決めされる。そして,小径工具を取り付けたスピンドルを2500s-1の条件で回転させながら,下方向に0.25mm/sの一定速度で自動送りすることにより仕上げ穴加工を行った。
  実験に用いた小径回転工具は,図2に示すようにダイヤモンドコートした直径0.2mmおよび1mmのマイクロドリルと直径1mmのマイクロボールエンドミルとした。また,いずれの工具の刃先もその表面はコーティングしたダイヤモンド結晶粒により凹凸が観察されている。通常,研磨によりダイヤモンドコートの表面を滑らかにして使用するが,ここで使用する工具については,この凹凸による研削効果を期待してそのまま使用した。

(図1 マイクロドリリング実験装置)
(図2 仕上げ穴加工に用いた小径回転工具)

3.実験結果と考察
3.1 レーザ下穴加工
  ピアッシング加工によりレーザ下穴加工したときの穴断面形状をマイクロフォーカスX線CT装置(東芝ITコントロールシステム(株)製TOSCANER-32250mhd)により観察した。図3はその代表例であり,励起電流250A,パルス幅0.1ms,繰り返し数50Hzの条件で50ショットだけレーザ光をパルス照射したときの結果である。僅か1秒の加工時間でありながら,穴は裏側まで貫通している。また,穴径はレーザ光照射側で大きく,裏側で小さくなっており,穴断面がテーパ状になっていることがわかる。これは,レーザ光照射時の焦点位置を試料表面としたためである。図4は光学顕微鏡により同一のレーザ下穴の表側形状を観察した結果である。その形状は四角に近く,円形とはならないことが分かる。加工に用いたレーザ発振器がスラブ型のためにレーザスポットが四角であり,その形状がそのまま転写されたと考えられる。これらの結果から,レーザ加工により断面が円のストレート穴を得るのは難しいと言える。しかし,加工時間は機械加工に比べてはるかに短く,下穴加工方法としては十分利用可能と言える。
  レーザ下穴径に及ぼすピアッシング加工条件の影響を調べるため,穴形状を円近似し,その平均径を非接触三次元測定機(ニコン製NEXIVE-VMH300)により測定した。図5にその結果を示す。励起電流が大きい程,表側裏側の穴径がともに増加することが分かる。これは,励起電流が大きい程レーザ出力が高く,そのため加工領域が広がるためと考えられる。一方,励起電流が250A以上では繰り返し数を変えても穴径に変化がない。50ショットで十分に下穴が形成されるためと考えられる。これに対し,励起電流が200Aでは,レーザ出力が安定せず,繰り返し数を多くすると逆に穴径が小さくなる傾向にある。
以上の結果から,レーザピアッシング加工による下穴加工条件として励起電流250Aで繰り返し数50ショット(繰り返し速度50Hz)を選定した。この条件によれば,表側穴径が0.16mmとなり,裏側穴径との差が0.1mmとなることから,テーパ比1/20の下穴が形成できることがわかる。さらに同一のレーザ照射条件下で,試料に直径0.7mmの円弧運動(移動速度0.2mm/s)をさせて切断することで下穴加工を行った結果,表側穴径0.69mm,裏側径0.59mmの下穴が得られた。この場合もテーパ比1/20の穴であることが分かる。これら大小2種類の穴をマイクロドリリング用の下穴として使用した。

(図3 ピアッシング加工したレーザ下穴のX線CTイメージ(励起電流250A,繰り返し数50shots))
(図4 ピアッシング加工によるレーザ下穴表側形状)
(図5 ピアッシング加工条件によるレーザ下穴径変化)

3.2 小径回転工具による仕上げ穴加工
  最初に,レーザ切断により形成した表側穴径0.69mmのレーザ下穴に対して外径1.0mmのマイクロドリルおよびマイクロボールエンドミルを用いて,3穴分の仕上げ穴加工実験を行った。図6は,外径1.0mmのマイクロドリルを用いて連続加工した穴についての表側,裏側をSEM観察した結果である。一穴目では,表側の穴周囲に大規模な欠けが生じている。一方,裏側にも穴周囲に欠けが確認できるが,その規模は小さい。二穴目,三穴目になると表側の欠けは小さくなり,逆に裏側の欠けが大きくなっている。図7は3穴連続加工した後のマイクロドリル先端部をSEM観察した結果である。ドリル先端の逃げ面およびリーディングエッジからのマージ幅部においてコーティング膜が大規模に剥離しており,さらに,外周コーナ部も大きく摩耗している。
以上の結果から,送りが速すぎるために,試料に対してマイクロドリルが無理に押し込まれた状態であることが推測できる。一穴目において表側穴周囲が大きく欠けたのはそのためと考えられる。そして,二穴目,三穴目になるとマイクロドリルの外周コーナ部が摩耗して細くなり,下穴挿入時の抵抗が減るために表側穴周囲の欠けは小さくなる。しかし,工具としての切削性能は著しく低下しており,その結果,裏側が大きく剥離したと考えられる。
また,ピアッシング加工により形成した表側穴径0.16mmのレーザ下穴に対して外径0.2mmのマイクロドリルを使用して加工した場合,一穴目からドリルが欠損したために実験を中断した。
  図8は,外径1.0mmのマイクロボールエンドミルを使用して表側穴径0.69mmのレーザ下穴を連続加工した穴についてSEM観察した結果である。いずれの穴についても表側には欠けは見られない。裏側については極めて小規模な欠けが見られ,また,僅かであるが一穴目,二穴目,三穴目と進む中で欠けが大きくなっている。図9は,3穴を連続加工した後のマイクロボールエンドミル先端部をSEM観察した結果である。マイクロドリルに比べて著しい損傷は見られないが,すくい面と逃げ面にコーティング膜の剥離と刃先部の欠けが見られる。
  これらの結果から,マイクロボールエンドミルにおいても送り速度が速すぎるため,刃先の損耗を防ぐことができなかった。このため,一穴目,二穴目,三穴目と加工が進むにつれて切削性能が低下し,僅かであるが裏側穴周囲の欠けに至ったと考えられる。しかしながら,マイクロドリルに比べて加工性能は高いと言える。これは明らかに外径コーナ部の刃先形状の違いによるものであり,R形状であることが高負荷条件下においてもある程度の加工性を維持できた要因になっていることが推測できる。したがって,マイクロドリルよりもマイクロボールエンドミルの方が本加工方法に適していると言える
  工具の損耗防止が課題として残されたが,レーザ下穴加工と小径回転工具による仕上げ穴加工を組み合わせることで1mm厚のアルミナ材料を14秒で貫通穴加工でき,技術の可能性を示すことができた。加工時間については,特にレーザ下穴加工条件については未だ最適化の余地は残されており,時間短縮の可能性がある。一方,課題として残された工具の損耗防止については,レーザ下穴を仕上げ加工するための最適工具の検討,例えばリーマ型の工具やロッド型のダイヤモンド電着砥石などの利用を検討することで解決できる可能性があると考えている。

(図6 Ф1.0マイクロドリルによる仕上げ穴加工形状)
(図7 仕上げ穴加工後のФ1.0マイクロドリル先端)
(図8 Ф1.0マイクロボールエンドミルによる仕上げ穴加工形状)
(図9 仕上げ穴加工後のФ1.0マイクロエンドミル先端)

4.結  言
  アルミナセラミック材料を対象に,レーザ加工による下穴加工と小径回転工具を用いた仕上げ穴加工を組み合わせたマイクロドリリング技術の開発を試みた。以下にその結果を総括する。
(1) 板厚1mmのアルミナセラミックス材料に対して,表側穴径が0.16mmでテーパ比1/20の下穴を1秒で,また,同じテーパ比で表側穴径が0.69mmの下穴を10秒で形成することができた。
(2) 表側穴径0.69mmのレーザ下穴に対して外径1mmのマイクロドリルを用いて送り速度0.25mm/sの条件で仕上げ穴加工した場合,工具にコーティング膜の剥離や外径コーナ部の大規模摩耗が生じるとともに,被加工物の穴周囲に大きな欠けを発生させた。
(3) 同じレーザ下穴に対し,外径1mmのマイクロボールエンドミルを使用して同条件で仕上げ穴加工した場合,マイクロドリルに比して顕著ではないが,コーティング膜の剥離や外径コーナ部摩耗が生じた。しかし,被加工物の穴周囲の欠けを小規模に抑えることができた。

謝  辞
  本研究を遂行するに当たり,貴重なアルミナ板材をご提供頂いた住金セラミックス・アンド・クォーツ(株)に感謝します。

参考文献
1) 福澤康,毛利尚武,谷貴幸. 絶縁性セラミックス材料の放電加工. 精密工学会誌. 2005, vol. 71, no. 5, p. 541-544.
2) 精密工学会編. 新版精密工作便覧. コロナ社. 1992, p. 594-604.
3) 宮崎俊行, 宮沢肇, 村川正夫, 吉岡俊朗. レーザ加工技術. 産業図書, 1991, p. 25-50.
4) 亀井伸也, 小和田勲, 金井寛. 穴加工用工具のすべて. 大河出版. 1991, p. 60-62.
5) 中村久元. ドリル・リーマ加工マニュアル. 大河出版. 1992, p. 104-109.