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イシル(魚醤油)中のポリアミン含量について

■食品加工技術研究室 道畠俊英
■石川県立大学 加藤大亮 矢野俊博 榎本俊樹

研究の背景
 石川県能登地方には,イシルなどと呼ばれるイカの内臓やイワシを原料とした魚醤油が古くから造られている。イシルは伝統的手法で製造されているため,1〜2年間と非常に長い生成期間を必要とし,この生成過程中に,生成したアミノ酸が酵素的脱炭酸によってポリアミンを生じることが予想される。ポリアミンのうち,ヒスタミンやチラミンなどはアレルギー様食中毒,高血圧,偏頭痛の症状を引き起こすことが知られており,食品中のポリアミン量を把握しておくことは重要である。そこで,市販のイシルについて7種類のポリアミンを分析し,さらにイシル生成過程におけるこれらポリアミンの変動について検討を行った。

研究内容
  市販イシルのポリアミン量は表に示すように,製品間でかなりのバラツキがみられるが,イカイシルではスペルミジン,ヒスタミン,イワシイシルではヒスタミン,チラミン,スペルミジンが多く含まれている傾向がみられ,またヒスタミンはイカイシルよりもイワシイシルの方が多量に含んでいた。ここで,特に問題となるヒスタミン,チラミンのイシル中の含有量はそれぞれ13〜120mg/100ml,0〜49mg/100mlであった。ヒスタミン,チラミンの発症量はそれぞれ70〜1000mg(1回の食事当たり),500mg(空腹時)であり,調理にイシルを利用する場合には少量しか使用しないため,イシルが原因で食中毒などを発症する可能性は極めて低いと考えられる。
  イシルの生成過程におけるポリアミンの変動では,イカイシルの場合,カダベリン,アグマチン,スペルミジンが約8ヶ月まで経時的に減少し,それ以後はほぼ一定値を示した。その他のポリアミン類は生成期間中ほぼ一定の値を示した。一方イワシイシルでは,ヒスタミンが6ヶ月まで経時的にわずかに増加するものの,イワシイシルにおけるポリアミン量は生成期間中ほぼ一定の値を示した。これらの結果より,イシルにおけるポリアミン量は仕込む原料魚のもつポリアミン量に深く関与し,ヒスタミン生成菌などの微生物の作用はほとんど受けていないものと推定される。

(表 市販イシル中のポリアミン含量(mg/100g))

研究成果
 市販イシルおよびイシルの生成過程におけるポリアミンについて検討を行った結果,以下のことが明らかとなった。
(1)市販イシルの主なポリアミンは,ヒスタミン,スペルミジン,チラミン,プトレシンであったが,濃度的には特に問題となる量では無かった。
(2)生成過程におけるポリアミン変動については,問題となるヒスタミン,チラミンについては経時的な変動がほとんどみられず,原料に含まれる量にその大部分が依存しているものと考えられる。

論文投稿
 日本食品科学工学会誌. 2006, vol. 53, no. 6, p. 337-343.