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バインダレスcBN工具を用いた生体用チタニウム合金の高速ミーリング加工―β型合金の加工における工具逃げ面損傷機構―

■機械金属部 廣崎憲一
■金沢工業大学 新谷一博 加藤秀治
■金沢医科大学 兼氏歩

研究の背景
 近年,人工股関節用ステム等に用いられる外科用インプラント材料は,生体適合性の観点からバナジウムフリーチタニウム合金が採用されている。さらに最近では従来から用いられてきたa-β型合金の力学的適合性が指摘され,弾性率が低く,その値が皮質骨により近いβ型チタニウム合金が適用されようとしている。そこで本研究では,β型チタニウム合金の加工能率の向上を目的に,これまでにa-β型合金において高速ミーリングの実用性が示されたバインダレスcBN工具をβ型チタニウム合金の高速ミーリング加工に適用した。

研究内容
 β型合金の加工におけるバインダレスcBN工具の切削性能について調べるため,ラジアスエンドミル工具による45°の傾斜面加工を行った。ミーリング工具は,99.9%以上のcBN粒子から構成されるバインダレスcBN材料を用いた直径8mmの丸駒形状チップを作製し,外径20mm, コーナー半径が4mmの専用工具ホルダに取り付けて使用した。被削材は,バナジウムフリーβ型チタニウム合金であるTi-15Mo-5Zr-3Al合金を用いた。さらに, a-β型合金であるTi-6Al-2Nb-1Ta合金も切削性能評価の比較対象材料として実験に供した。加工実験は工具寿命試験を行うとともに,工具損傷の観察と加工プロセスにおける切削抵抗の動的挙動を測定し,その測定値に基づいて工具刃先の損傷に及ぼす凝着剪断抵抗の影響について考察した。

(図1 β型合金における工具逃げ面損傷の成長)
(図2 切削抵抗の動的挙動の違い)

研究成果
 (1)a-β型合金であるTi-6Al-2Nb-1Ta合金の場合の工具損傷は,切れ刃のすくい面にマイクロチッピングが生ずる形態であるのに対し,β型合金のTi-15Mo-5Zr-3Al合金の場合ではそれと同様のチッピングの発生に加え,切れ刃の逃げ面に剥離が生ずる形態を示した(図1)。そのため,β型合金の工具損傷速度は,a-β型合金に比べて大きくなった。
(2)β型合金では工具逃げ面に凝着剪断抵抗が負荷されることにより,刃先離脱付近において切削抵抗比(主分力/背分力)が急激に高くなる現象が現れた(図2)。この状態を境界条件とする工具刃先の応力分布について有限要素法を用いて検証した結果,工具逃げ面に負荷される凝着剪断抵抗が逃げ面の剥離損傷に大きく影響していることがわかった。

論文投稿
 精密工学会誌. 2006, vol. 72, no. 2, p. 219-223.