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食品残さ等ゼロエミッション技術開発

■繊維生活部 笠森正人 山名一男 木水貢 森大介 神谷淳 藤島夕喜代
■化学食品部 道畠俊秀 勝山陽子 西村芳典 中村靜夫
■農業総合研究センター 林美央

 食品リサイクル法の制定を受けて,食品残さの再生利用等の技術開発が望まれている。そこで当研究では,食品残さとして産業廃棄物となっているオカラを主に,その他に米糠や酒粕についても取り上げ,高温水を用いた減量化や有効成分の抽出,抽出液の食品への応用について検討を行った。オカラ等の食品残さは高温水や水蒸気により減量され,温度が高いほど減量化が進むことがわかった。また,処理した液からは多くのアミノ酸が検出された。この結果より,食品残さを減量化さらにはアミノ酸等の有効成分を抽出する試作機を作製した。この装置で抽出した液を用いて豆乳や豆腐等を試作することも可能となった。さらに,これらの食品残さとポリエステル繊維屑から固形燃料を作成できることも確認した。
キーワード:オカラ,高温水,水蒸気,アミノ酸,リサイクル,固形燃料

Development of zero emission technology for residual from food processing

Masato KASAMORI, Kazuo YAMANA, Mitsugu KIMIZU, Daisuke MORI, Jun KAMITANI, Yukiyo FUJISHIMA, Toshihide MICHIHATA, Youko KATSUYAMA, Mio HAYASHI, Yoshinori NISHIMURA and Shizuo NAKAMURA

The zero emission technology of the organic wastes is studied by hot water and steam treatment. We focused mainly on bean curd refuse, which is an industrial waste, and also examined rice bran and sake lees, two other residuals from food processing. Reduction in weight and extraction of the active ingredient from these organics were considered, and we also experimented with ways of applying this extracted liquid to food. These residuals from food processing, such as bean curd refuse, were found to decrease in weight with high temperature of water or steam, and the higher the water or steam temperature, the decrease progressed. Furthermore, many amino acids were detected in the processed liquid. An experimental model for reducing and extracting active ingredients such as amino acids was created for residuals from food processing. It was possible to make food such as soy milk and bean curd using the liquid extracted with this equipment. In addition, we confirmed that solid fuel could be created from these residuals and polyester fiber waste.

Keywords:bean curd refuse, high-temperature water, steam, amino acid, recycle, refuse-derived fuel

1.緒  言
  地域におけるゴミのゼロエミッション化を目指し,廃棄物をリサイクルする環境対応型社会を構築する技術開発が求められている。国においても,循環型社会をつくるために,「環境基本法」,「循環型社会形成推進基本法」,「廃棄物処理法」,「資源有効利用促進法」を整備し,さらに「容器包装リサイクル法」,「家電リサイクル法」,「食品リサイクル法」,「建設資材リサイクル法」,「自動車リサイクル法」,「グリーン購入法」を制定している。工業試験場においても,環境安全部と「容器包装リサイクル法」に対応してペットボトル,ガラスビン,プラスチック,古紙等のリサイクル研究を行ってきた1-6)。ここでは,平成13年に施行された「食品リサイクル法」に対応した技術開発として,高温水等を利用して食品残さ等から有用成分の抽出や残さの減量化方法について検討したので報告する。

2.実験方法
 2.1 試料
食品残さの試料としては,豆腐の製造工程において大量に生じるオカラを主に取り上げた。オカラは食用や飼料にも一部が利用されているが,多くは産業廃棄物として処分されているのが実情であるが,表1に示すように,豆腐とほぼ同量の栄養素がまだ多く残っており,その有効利用が望まれている。またオカラの他に,米糠や酒粕についても取り上げた。
(表1 食品残さとその原料の成分7))

2.2 試験方法
バッチ式試験には乾燥オカラまたは米糠を用い,内層がフッ素樹脂,外層がステンレスの小型容器8)に水と一緒に充填し,所定の温度に設定した恒温槽に所定時間入れて,水に溶け出したアミノ酸を分析するとともに,重量変化を測定した。
さらに,試作した処理装置(図1)に,生オカラまたは酒粕を容器の上段に入れて,同じ容器の下層に入れた水を所定温度に加熱して発生させた水蒸気を連続で通すことにより,抽出されるアミノ酸のほか有機酸の分析と重量変化を測定した。ここで抽出された溶液を用いて,豆乳,豆腐,飲料の試作を行った。
(図1 試作装置)

3.結果と考察
3.1 高温水による減量化と有用成分の抽出
高温水によるオカラの減量変化を図2に示す。オカラは処理温度180℃,200℃では1時間の減量が60%とほぼ一定に,150℃では3時間ほどで同様の減量に達している。この減量の傾向は米糠でも同様であったことより,このような有機物の減量には限界があると思われるが,食品リサイクル法が求める20%以上の減量化を上回ることが分かった。一方,200℃,4時間での高温水処理により検出された主なアミノ酸を図3に示す。図には常温の水で処理した結果と一緒に,米糠の場合も併せて示す。左図のオカラと右図の米糠を比べると,オカラは高温水処理によりアミノ酸の種類が多く検出され,量も多くなっている。米糠は常温の水の方が多くのアミノ酸が検出されている。これは,オカラが一度加熱されているために,水による抽出が少なくなったためと考えられる。しかし,200℃,1時間における高温水処理ではオカラからのアミノ酸の抽出量は少ないが,他のアミノ酸が検出され,米糠においてはシスチンの検出量が多かった。
このことより,加熱時間が長くなるとアミノ酸の種類により分解が促進することが考えられ,抽出するアミノ酸の種類または量により最適な条件を検討する必要があると判断した。
(図2 オカラの高温水処理による残量の変化)
(図3 高温水および水により抽出された主なアミノ酸(左図:オカラ,右図:米糠))

3.2 水蒸気による減量化と有用成分の抽出
試作機による生オカラの減量化を図4に示す。最初に処理量100gで試験した場合,160℃以下では水蒸気の水分を吸収して湿潤重量は増加しているが,乾燥すると10〜50%の減量となり,200℃では湿潤でも30%の減量,乾燥では60%近くの減量となっている。さらに,処理量を400gに増加させると,処理温度が120℃から160℃に上昇するに従い,湿潤重量は10%から30%近くに減量するとともに,乾燥重量も25%から45%へと減量している。これは装置の大きさと処理量に最適な関係があることを示している。
生オカラ100gにおいて抽出された主なアミノ酸と有機酸を図5に示す。アミノ酸は160℃で最大を示し,ポリペプチドであるカルノシンも抽出されている。有機酸は温度が上昇するにつれて増加傾向にあることがわかる。また,処理温度が一定の場合,時間が長くなるにつれて抽出量も増加した。これは連続的に抽出液を容器外に取り出すために,分解が起こらないためである。処理量を400gにした場合の処理時間におけるアミノ酸と有機酸の抽出量を処理量100gに換算して図6に示す。アミノ酸の抽出率は低下するが,全体の抽出量は増加している。また,有機酸の抽出率が100分の1以下に激減しており,オカラの酸化が起こりがたくなったことを示している。
次いで,オカラと酒粕の比較を図7に示す。酒粕はオカラよりも多くのアミノ酸が抽出されており,中でもアラニンやアスパラギン,グルタミンが多くなっているほか,g-ABAもオカラよりも多いが,カルノシンは減少する。
(図4 オカラの処理温度と処理量による減量率の変化)
(図5 オカラ(100g)の処理温度によるアミノ酸と有機酸の生成量(5時間))
(図6 オカラ(400g)の処理時間によるアミノ酸と有機酸の生成量(160℃))
(図7 オカラ(130℃,160℃)と酒粕(130℃)におけるアミノ酸の生成量(3時間))

3.3 抽出液の食品への利用
オカラ等の食品残さからアミノ酸が抽出されることがわかったので,このアミノ酸が含まれた抽出液を食品に利用するために,豆乳,豆腐,飲料の試作を行った(図8)。ここでは生オカラを使用し,加熱による焦げがなるべく少なく,抽出液も多く採取できる130℃で行った。なお,減量化は含水状態で20%以上になるようにした。試作した豆乳飲料または豆腐は,豆乳に対して抽出液を加えたものと,それと同量の蒸留水を加えた比較品も作製して、食味試験を行ったが,ほぼ同等の結果が得られ,食品としての利用が可能であるとの示唆を得ることができた。酒粕からの抽出液についても飲料等の試作を試みたが,豆乳飲料では酒粕の味や匂いが強く出てしまう結果となった。
(図8 オカラ,酒粕の抽出液を用いた試作品)

3.4 固形燃料化
生オカラと米糠については,石川県内で産業廃棄物として多いポリエステル繊維屑を加えて固形化燃料化を試み,カロリーメータで熱量を測定した。
今回は主に有効成分の抽出を行ったが,200℃でもまだ処理残さが残るので,固形燃料化の検討を付加した。オカラや米糠では発熱量が低いため,表2に示すようにポリエステル繊維屑と混合して6種類の固形燃料を作製した。その結果,標準報告書9)が示す水分率10%以下,発熱量12500kJ/kg以上の固形燃料を得ることができ,この方法は高温水処理した残さにも適応可能と考えられる。
(表2 各種固形燃料の組成と物性値)

4.結  言
  食品残さ等のゼロエミッション技術開発として,高温水による減量化と抽出液の利用,固形燃料化について検討し,以下のことがわかった。
(1) オカラ等の食品残さを高温水処理することにより20%以上の減量化が達成できる。
(2) (1)の減量化工程により各種のアミノ酸が抽出され,その抽出液は食品への応用が可能である。
(3) オカラ等の食品残さとポリエステル繊維屑から固形燃料が作製できる。

謝  辞
  本研究を遂行するに当たり,終始適切なご助言とお力添え頂いた東北大学大学院教授の新井邦夫氏,金沢工業大学教授の宮野靖氏,金沢大学助教授の高橋健司氏に感謝します。また,試作及び分析にご協力頂いた(財)石川県予防医学協会,(株)アースエンジニアリング,(株)オノモリ,(株)高井製作所,(株)福光屋に感謝致します。

参考文献
1) 環境保全・リサイクル支援協議会. 石川県工業試験場. 石川県環境安全部. 廃棄物リサイクル技術の開発状況調査報告書. 1998.
2) 井上智実, 中村静夫, 伊藤敏, 田知本正夫. 生ごみ処理装置開発に関する技術支援. 石川県工業試験場研究報告. Vol. 49, 1999, p. 87-92.
3) 舟木克之, 七山幸夫, 新保善正, 松本健, 廣瀬幸雄, 山田僖幸. 古紙を原料とする発泡体の開発.石川県工業試験場研究報告. Vol. 50, 2000, p. 42-47.
4) 中村静夫, 七山幸夫, 大田剛志. 廃ガラスのタイルへのリサイクル技術に関する研究. 石川県工業試験場研究報告. Vol. 50, 2000, p. 48-53.
5) 笠森正人, 中村静夫, 森大介, 井上智実, 七山幸夫, 新保善正. ペットボトルのリサイクル技術に関する研究. 石川県工業試験場研究報告. Vol. 50, 2000, p. 54-58.
6) 石川県工業試験場, 石川県環境安全部グリーン化推進室, 環境保全・リサイクル支援協議会. 環境・リサイクル技術の研究開発成果報告書. 2001.
7) 五訂 日本食品標準成分表, 2000, p. 1194-1239.
8) 笠森正人, 舟田義則,粟津薫. GFRPの劣化を用いた処理と耐久性評価. 石川県工業試験場研究報告. Vol. 46,1997, p. 35-40.
9) TR Z0011 廃棄物固形化