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中高齢者ニーズに対応した快適衣料の研究開発

■繊維生活部 杉浦由季恵 餘久保優子 守田啓輔 志甫雅人 梶井紀孝

 本研究では,高齢化社会に向けた快適な中高齢者衣料の開発を目的に,県内合繊素材を用いた機能性(軽さ、ストレッチ等),ファッション性に富んだ婦人中高齢者衣料について検討した。その結果を基にコンセプトを設定し,中高齢女性嗜好別4タイプ([1]ロマンチック,[2]ゴージャス,[3]シック,[4]ナチュラル)の提案,製品試作を行った。
キーワード:ユニバーサルファッション,中高齢者,快適衣料

Research and Development of Comfortable Clothing for Middle-age Needs

Yukie SUGIURA, Yuko YOKUBO, Keisuke MORITA, Masahito SHIHO, Noritaka KAJII

In view of the aging of our society, we focused our research on the development of comfortable clothing for middle-aged women. We examined functional clothing made of synthetic fabrics manufactured in Ishikawa Prefecture, with characteristics such as lightness, stretchability, and fashionableness.
We established a concept based on the result, and suggested four types of taste ([1]Romantic, [2]Gorgeous, [3]Chic, [4]Natural) for middle-aged women. We then produced clothing that corresponded to these types on an experimental basis.

Keywords:universal fashion,middle age,comfortable clothing

1.緒  言
団塊世代の高齢化に向け,中高齢者衣料の快適性はより重要な開発課題となっている。そのため,県内繊維関連企業と工業試験場が連携し,平成16年度に「いしかわユニバーサルファッション研究会」を発足した。現在、研究会には,織編物製造業,縫製業,ファッションデザイナー,教育機関等に所属する8名が参加している。ここでは,婦人中高年齢者を対象に,生活をより豊かにする衣料の機能性やファッション性について検討を行い,そのニーズに合った県内合繊素材による快適な婦人衣料の研究開発を行った。

2.内  容
2.1 コンセプトの設定について
工業試験場では,中高齢女性の嗜好やファッショントレンド情報等の資料文献1-3)をもとに,いしかわユニバーサルファッション研究会のメンバーと意見交換を重ね機能性やファッション性のニーズ調査とその分析結果により,次のデザインコンセプト(表1)を設定した。
(表1 デザインコンセプト)

2.2 嗜好別デザイン提案
2.2.1 嗜好の分類
機能性やファッション性の調査結果をもとに,中高齢女性の嗜好について分析した。まず,座標軸の縦軸を「自然−人工」,横軸を「質素−華やか」とし,各象限にあてはまるデザインイメージを検討したところ,以下の形容語が求められた。
[1]第1象限:自然で華やか=ロマンチック
[2]第2象限:人工的で華やか=ゴージャス
[3]第3象限:人工的で質素=シック
[4]第4象限:自然で質素=ナチュラル
次に,それぞれの形容語に対する色,柄,テキスタイル素材,ファッションスタイル等のビジュアルイメージを選定し,各象限に貼り込んだ。このように嗜好を分析し,イメージマップ化したものを図1に示す。

(図1 嗜好の分類(イメージマップ))

2.2.2 嗜好別デザイン要素
  各嗜好にマッチする色あいや素材などについて,研究会メンバーとディスカッションを繰り返しながら,各象限に適するデザイン要素を抽出した。
[1]「ロマンチック」(図2)
・色あい/パステルカラーや暖色中心のペールトーン DIC1版 P-1,P-355,P-592,P-486
・素 材/透け感や柔らかな風合い
(図2 ロマンチック)
[2]「ゴージャス」(図3)
・色あい/ビビットカラーやゴールドなど華やかなカラー DIC1版 P-688,P-767,P-795,P-421,P-827
・素 材/光沢感や金属糸を用いた素材、サイケを思わせるようなプリント素材
(図3 ゴージャス)
[3]「シック」(図4) 
・色あい/モノトーンや古びたシックなカラー DIC1版 P-742,P-995,P-1000,P-355
・素 材/ツイード素材のように,シンプルで目の詰んだ正統派素材
(図4 シック)
[4]「ナチュラル」(図5)
・色あい/中間色を基調としたベージュやオフホワイト DIC1版 P-961,P-827,P-901,P-573
・素 材/表面感の凹凸が自然界の砂や石の表面のように粗野で心地よいもの
(図5 ナチュラル)

2.2.3 嗜好別の試作提案
  前述のデザイン要素を参考に県内の合繊織編素材による婦人中高齢者用のスーツ,スカート,ブラウス,セーター等を試作した。
[1]ロマンチック(図6)
優しく包み込むような暖かさを感じさせるキュートなマダムへの提案
・備長炭入り生分解生素材を用いたスーツ
・スカーフは,ふくれジャカードにプリントを施した素材
・ボタンを留め具としたスカーフは,ジャケット風に着用
(図6 ロマンチック)
[2]ゴージャス(図7)
ハリウッドの女優のようにセクシーでパワフルなマダムへの提案
・伸縮性に富んだラメ糸によるニットセーター
・襟は,取り外しが自在にでき,クセサリー感覚で使用
・オーガンジ素材のスカーフと組み合わせ,華やかな演出
(図7 ゴージャス)
[3]シック(図8)
50年代のレトロモダンを感じさせる,品の良いマダムへの提案
・ポリエステル糸による伸縮性に富んだニット
・ニットスーツは,使用箇所に応じた伸びを取り入れた編地を使用
・スカートは,ミニ・ロング自在に変型
・スカーフは,オーガンジ素材により,カジュアルにもエレガントにも演出
(図8 シック)
[4]ナチュラル(図9)
自然の中で穏やかな時を過ごし,先人の知恵や文化を大切にした暮らしを愛するマダムへの提案
・ブラウス素材は,伸縮性のあるジャカード織物
・スカートは,中空糸を使用し,暖かく軽い素材
・スカーフは,カットジャカードにより,羽織物やスカートに重ねて使用
(図9 ナチュラル)
また,「着回し」「楽しい」「華やかさ」「温冷調整」「体型補正的効果」といった着用者の要望に応えるアイテムとして,スカーフの試作も行った。
(図10 スカーフの着用方法)

2.3 評価と改良
  試作した衣料について,おしゃれに関心の高い中高齢者10名に試着をして頂くとともに,商品化に向けて改良を加えるためのアンケート調査を行った。調査内容は,年代,既製服のサイズ,好みの素材,ゆとりサイズ,着心地,購入先,価格等であり,平成17年9月5日に小松市三日市商店街「おけいこ座」において調査を実施した。
(図11 試着アンケート)
  アンケート結果を踏まえ,商品化を想定したスカーフ5点,ニット1点を改良試作した。改良については,人気のあったカットジャカード素材を用いたスカーフの固定方法には、ボタンホール(図12)を施し,類似素材によるバリエーションをつけた。また,オーガンジ素材のスカーフは,折り紙のようなしわ加工(図13)を施し,持ち運びがしやすくコンパクト性を追求した。
着やすく,手作り感が好評だった[2]ゴージャス嗜好のラメ糸使いの手編みニットは,価格を抑えるため,カットソー(ニット素材を裁断,縫製する工業製品)に置き換えた。(図13)
(図12 ボタンホール)
(図13(左)しわ加工のスカーフと手編みニットセーター(右)改良したカットソー)

3.結  果
  試作・改良を行った製品をさらに,商品化へと進める取り組みとして,以下の展示会やアンテナショップで展示した。
・第18回石川県中小企業技術交流展
(H17.5.19-21) 
・第41回全国繊維交流プラザ(H17.11.12-13)
・第9回繊維総合見本市 (H17.12.7-9)
ジャパンクリエーション2006
(株)繊維リソースいしかわブース(図14)
・婦人服専門店「サンムロヤ」でのアンテナショップ(H18.5.13-6.23)(図15)
(図14ジャパンクリエーション)
(図15 サンムロヤ)

謝  辞
  本研究を遂行するにあたり,御協力を頂きましたいしかわユニバーサルファッション研究会,サンムロヤ,株式会社繊維リソースいしかわの皆様に感謝します。

参考文献
1)WOMN WEAR FASHION MESSAGE.AW/2005-06.
SS/2006.プルミエールヴイジョン展報告.ダイヤ・ファッション・プランニング株式会社.
2)2005-6/AW 2006/SSレディースウエアーカラー.社団法人日本流行色協会.2004.P16
3)高見俊一編,シニアマーケットを読む.繊研新聞社.2002.P133