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高圧処理したセルロース系繊維の物理特性

■繊維生活部 木水貢 守田啓輔 山本孝
■福井大学 久田研次 堀照夫

研究の背景
100 MPa(約1000気圧)以上の高圧下では,分子間相互作用,分子配列,立体配列,媒体の極性などが変化するため,高圧下で染色・仕上げを行うと,反応速度,反応性の向上や繊維表面への収着・吸着性の向上が予想され,処理液中での未反応物の低減化等で有効な対応ができるものと考えられる。本研究では,セルロース系繊維である綿とレーヨンに,100 MPaを超える圧力処理を行い,収縮とその物性等について検討した。

研究内容
100MPa以上の圧力でセルロース系繊維を高圧処理したところ,高圧により繊維が収縮することがわかった。そこで,高圧収縮と洗濯収縮を合わせて評価したところ,綿では高圧収縮が処理温度や処理圧力により減少し,高圧と洗濯で発生する収縮がブランク試料の洗濯収縮より抑制されることがわかった。また,レーヨンは高圧収縮と洗濯収縮がほぼ一定の同じ値であり,圧力や温度による影響はほとんど認められなかった。
綿では,高圧処理により相対粘度が低下し,120°C,392MPa処理での相対粘度低下はブランク試料の約半分と顕著であった。このことから,綿を高圧処理することで非晶領域において分子鎖の切断が起こり,これが洗濯等の水を含むときのセルロース分子の再配列に影響し,収縮に変化を引き起こしていると推察した。
レーヨンでは,高圧処理により動的粘弾性測定でa2分散のピークが変化し,a2分散の活性化エネルギーが処理圧力とともに増加し,処理温度を120°Cにすると圧力により活性化エネルギーが減少した。このことから,レーヨン繊維は高圧下の処理により非晶領域での分子配向が高められるが,洗濯等の水を含むときのセルロース分子の再配列により配向が元に戻りやすく,収縮率には何ら変化をもたらさなかったものと考えられる。

(図1  綿の圧力条件による相対粘度変化)
(図2 レーヨンの圧力条件による活性化エネルギー変化)

研究成果
100MPaを超える高圧下でセルロース系織物の高圧処理をしたところ,綿織物で収縮抑制が確認された。これにより,綿の高圧処理による分子量低下が水によるセルロース分子の再配列に影響したことがわかった。
レーヨンにおいても,高圧により非晶での分子配向が高められるが,水によるセルロース分子の再配列で容易に元に戻り,収縮率に影響しないことがわかった。

論文投稿
繊維学会誌 Vol. 61, No.6, 2005. p.147-152.