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ミルクホエー共存下におけるセリシンの改質とそのコーティングポリエステル布帛の特性

■繊維生活部 神谷淳 森大介
■企画指導部 山本孝
■イタリアシルク研究所 C. ペルッツオ G. M. コロンナ
■福井大学 堀照夫

研究の背景
絹の有する独特の風合いや優雅な光沢等を再現するため,その感触などを模倣した各種合繊が開発されている。しかしながら,近年の衣料素材開発がヘルスケア重視の傾向となる中で,絹の持つ特性の中でも特に注目されている吸湿性や肌への優しさ(生体への適合性)等を合繊に付与する技術については未だ充分に達成されていない。また一方で,イタリアなどの絹織物産地では,その製造工程で大量に発生する絹廃棄物(セリシン)の処理が大きな問題となっている。そこで,我々はセリシンをジイソシアネートで架橋することで疎水性を付与し,高分子量化することで改質し,ポリエステルへのコーティング剤として利用することを検討してきた。本報告では,セリシンを架橋する際により親水性の高いミルクホエーを添加し,得られる改質セリシンへのミルクホエーが及ぼす影響を検討した。さらに,この改質セリシン/ホエーをポリエステル布帛へコーティングし,布帛の水分率,耐洗濯性等を調べた。

研究内容
セリシンとミルクホエー(セリシン重量に対して,33または50%の割合で添加)を水−クロロホルム混合溶媒中で,架橋剤であるTDI(toluene-2,4- diisocyanate)またはHDI(hexamethylene diisocyanate) と,45℃で2時間反応させることで改質した。ミルクホエーを共存させると,収量が最大で30%向上した。ミルクホエーの添加割合を増加させた改質セリシン/ホエーは,水にもDMF(N,N−ジメチルホルムアミド)にも溶解しやすくなることがわかった。さらに,20℃,65%RHの条件では,ミルクホエーの添加量が増えるに従い,水分率は増加した(図1)。
得られた改質セリシン/ホエーをポリエステル布帛にコーティングすると,標準状態での水分率は最大で約1%に向上した。さらに,改質セリシン/ホエーをコーティングする際の溶媒は,水よりもDMFを用いた方が洗濯堅ろう度は良かった。最も良い洗濯堅ろう度を示したのは,ミルクホエーを33%添加し,TDIで改質したセリシンをDMF溶液としてコーティングした布帛であり,洗濯20回後でも半分以上の改質セリシン/ホエーが残存していた(図2)。

(図1 改質セリシン/ホエーの水分率)
(図2 改質セリシン/ホエーをDMF溶液としてコーティングした布の洗濯耐久性)

論文投稿
  繊維学会誌 Vol.61, No.7, 2005. p.196-200.