全文(PDFファイル:270KB、4ページ)


 グループ協調作業に基づく知識共有手法の研究
 電子情報部 ○加藤直孝 上田芳弘 林克明

 本稿では,組織におけるグループ協調作業の支援を目的に,Webコンテンツ等の電子化されたドキュメントを利用して,個人が持つ知識の表出化および共有を可能とするシステムの開発について述べる。
具体的な実現方法として,Webページの内容に対する補足やコメントなどの二次的情報を文字や図的表現を用いて断片知識としてWebページ上に空間配置するWebアノテーションによって,ユーザ間の実際的な知識共有を促進する。また,本手法の有効性を示すために基本的な機能を持つWebメモシステムを設計,試作し,応用例としてホームページのデザインレビューへの適用可能性を検討した。
キーワード:協調作業,知識共有

A Study of Support Method for Knowledge Sharing in Intellectual Collaborative Work

Naotaka KATO , Yoshihiro UEDA and Katsuaki HAYASHI

In order to improve the efficiency of intellectual collaborative work, we developed a system in which personal knowledge can be externalized and shared using electronic documents such as web contents.
Concretely, the system has several functions of editing web annotation that displays supplemental explanation and comments on websites as a secondary fragmentary knowledge by means of text or diagrams. As a result, the system can be expected to facilitate knowledge sharing among users in practical use. We have designed and developed a web memo system with basic web annotation functions in order to evaluate the availability of the proposed method. As an example of application, reviewing of website designs was examined.
Keywords:collaborative work, knowledge sharing

1.緒  言
 インターネットやイントラネットの普及に伴い,企業あるいは組織内の情報化が急速に進んでいる。また,グループウェアの普及により,コミュニケーションの効率化と共に各種ドキュメントの電子化やデータベース化も進み,コンピュータ端末からWebブラウザを利用してドキュメントを検索,参照し,組織内知識として活用する傾向にある。知識の共有という観点からは,個人が持つ知識やノウハウを組織内で共有するコミュニケーション支援システムの利用への期待が高まっている1)。
従来からドキュメント中に知識の断片を書き残す方法として,メモ書きや付箋等が用いられている。また,重要な文章にアンダーラインあるいはマーカを引く方法もよく使われる。このように何らかの方法で原資料に付記される情報は,文字や図的表現として原資料上に空間配置する二次的情報と定義され,アノテーション2)と呼ばれている。以下,Webコンテンツ上で用いられるアノテーションをWebアノテーションと呼ぶことにする。
 そこで,本研究では,Webブラウザで閲覧可能な電子化されたドキュメントに対して,付箋やマーカ感覚でコメントや補足情報をWebアノテーションとして付記し,離れた場所にいる複数人の利用者が,コンピュータネットワークを利用して,これらのWebアノテーションを参照し合うことで知識の共有を支援する手法を考案し,システムを試作した。
 本報告では,2章で試作したシステムの概要と特長について述べる。次に3章でシステムの適用事例について説明し,最後の4章で結論をまとめる。

2.内  容
 2.1 システムの動作環境
Windowsパソコンに標準搭載されているWebブラウザの使用を前提に,JavaScript3)言語をベースにシステムを設計した。Webブラウザについては,その種類によってJavaScriptの仕様規格に対する対応状況や,仕様の記述スタイルが異なることなどの制約から,Internet Explorer 6.0以降を推奨ブラウザとした。したがって,Internet Explorer 6.0および Java Scriptの実行環境が整ったWindowsパソコンであれば,試作したWebアノテーションプログラム(以下Webメモシステムと呼ぶ)を実行することができる。

 2.2 システムの利用の流れ
図1に試作したシステムの利用の流れを示す。自ら作成したHTMLファイル形式のほか,インターネット上の任意のHTMLファイル形式の電子化ドキュメントが利用できる。
イントラネット内のファイルサーバにこれらのWebページのHTMLファイルを保存しておき,クライアントPCのブラウザからそのファイルを指定することでWebページを表示し,アノテーションを付与したり,編集することができる。アノテーションデータはWebページとセットになっており,Webページを表示する際に同時に読み込まれ,重ね合わせて表示される。また,これらのファイルはファイルサーバ上に保存されるので,複数の利用者が参照し,アノテーションデータを編集することもできる。

2.3  実装方法
Webアノテーションを貼付するWebページに対して,あらかじめそのHTMLファイルのヘッダー部分にWebアノテーション用JavaScriptプログラムを起動するステートメントを埋め込んでおくことで,そのWebページをブラウザで表示すると同時にWebアノテーション編集機能が有効となる。この起動ステートメントの埋め込みは,ユーティリティプログラムにより自動的に行われ,既存のHTMLファイルやインターネット上に既に公開されている任意のWebページのHTMLファイルをそのまま利用できる点が特長の一つである。ここでWebアノテーションをJavaScriptのオブジェクトとして扱い,オブジェクトの生成,移動,削除などの操作にはDOM (Document Object Model)4)を利用した。DOMは,ブラウザに動的な表示効果を与えるために定義された仕様規格であり,Webページのデータ構造に対するアクセスや編集操作をJavaScript言語を利用して行うことができる。また,これらのWebアノテーションをWebブラウザに表示する際に,CSS(Cascading Style Sheet)5)と呼ばれるWebページのレイアウト定義を利用した。このCSSは,文字のサイズやフォント,あるいは色,背景色,表示位置マージンなどを含め,HTMLで記述する文書内容およびレイアウトと分けて指定することができる規格である。本システムでは,Webアノテーションを表示する際のレイアウト調整および編集や保存などの各コマンドのメインメニューやサブメニューウインドウのスタイル設定等に用いた。

2.4 Webアノテーションの機能
Webアノテーションの種類として,円,四角形,矢印,文字,画像,半透明マーカ,取り消し二重線などを採用し,また,画面に表示されないプロパティ情報として以下のデータを持たせた。
1)アノテーションの種類(図形,文字,画像他)
2)アノテーションの識別名

(図1 システムの利用の流れ)

3)ユーザ識別名
4)グループ識別名(個人,グループ,全体)
5)貼付位置の二次元座標値
6)生成時間,更新時間
7)コメントテキスト
8)外部ファイルへのリンク先
 図2にWebアノテーションの例を示す。図中には,HTML化された原稿ページ上に3種類のアノテーションが置かれている。すなわち,「協調作業」の用語の位置にマーカ形式のアノテーション,その下の図示部分に指アイコン形式のアノテーション,挿絵の一部を囲む円形式のアノテーションが表示されている。また, Webアノテーションにマウスカーソルを重ねることで,図中の円形式のアノテーションのように,入力しておいた説明コメント文が一時的にボックス表示される。このコメント文は,アノテーションとセットでWebページ上に常に表示させておくように指定することもできる。

(図2 アノテーションの例)

Webページ上に貼り付けたアノテーションは,マウスでドラッグすることにより任意の場所に移動でき,ページスクロールにも対応している。

(図3 アノテーションの編集メニュー例)

(図4 アノテーション情報の一覧表示例)

また,アノテーションをマウスで右クリックすることで,図3のようにプロパティ編集メニューが表示される。アノテーションのサイズの変更,変形,色の変更,コメント文の編集,コメント文の表示・非表示,カテゴリ(ユーザ名,グループ分類,重要度)の設定,他のWebページや任意のファイルへのリンク設定およびそのリンクファイルの表示,そしてアノテーションの削除なども容易に行える。
さらに,カテゴリ設定を行うことで,ユーザ別,グループ別,重要度別にアノテーションをフィルター表示させることができるほか,一斉に表示・非表示を切り替えることもできる。
このほか,アノテーションの配置履歴に基づくプレイバック表示機能やアノテーション情報の一覧表示機能がある。図4に同一ページに貼り付けた複数のアノテーション情報を一覧表示する画面例を示す。この一覧表示は,画面インタフェース向上のため,別ウィンドウを生成させており,ウィンドウ間のイベント通信およびオブジェクトの認識にプログラミング上の工夫を施した。

 2.5 Webアノテーションのデータ出力形式
Webアノテーションのデータは,Webページのファイルとは独立に別ファイルとしてXML(eXtensible Markup Language)6)形式で出力される。XMLは,インターネット上で扱われる文書やデータの意味あるいは構造を記述するための言語の一つであり,ユーザが独自に定義できる特定の文字列による「タグ」を用いて,データ構造を比較的容易に記述できるため,Webアノテーションのデータ記述に適している。
また,Webページをロードすると,既にそのファイルに対するWebアノテーションがXML形式でファイル保存されていれば同時にロードされ,前回保存した時の状態をブラウザ上に再現する。このあと,引き続きWebアノテーションの編集を継続することができる。これらのファイルアクセスについては,JavaScriptがファイルアクセス関数を持たないため,VBScript言語の該当関数を利用して実現した。

2.6 Webアノテーションデータの検索
XML形式で保存されたWebアノテーションデータは,データベース化し,検索機能を持たせることで再利用の効率性が高まる。そこで,今回はXSLT (eXtensible Stylesheet Language Transformations)7) を用いて検索機能の一部を実装した。XSLTは,XMLデータの構造をもとにデータを変換,整形して画面表示,あるいはデータの並び替え,絞り込み操作が行える言語である。さらに高度な検索機能を持たせるならば,WebアノテーションのXMLデータをリレーショナルデータベースに蓄積する方法がある。また,高速性が必要なければ,XMLデータ形式のままデータベース化可能なフリーウェア版のネイティブXMLデータベースの利用が考えられる。

3.適用例
 試作したWebメモシステムの試用例として,ホームページのデザインレビューへの適用を検討した。図1に示したシステム構成で,2台のクライアントPCにWebメモシステムをセットアップし,当工業試験場研究報告のホームページデザインのレイアウト変更に関する模擬レビューを試みた。図5にサンプル画面を示す。図中にはレイアウトや表記方法に関する意見や要望などが書き込まれており,利用者間でこれらの情報を共有できる。利用効果として,ホームページの原稿ファイルを直接編集することなく,検討が必要な箇所を指定して意見やコメントを書き残すことができ,自分用のメモ書きや相手への説明の用途,あるいは関連知識を共有する手段として有効と考えられる。

4.結  言
 本稿では,Webアノテーションを用いた知識共有の方法と試作したWebメモシステムについて述べた。本システムは,非同期での利用に限られるが,スタンドアローンでの個人利用のほか,イントラネットのファイルサーバ上に保存したWebコンテンツを対象にすることで複数のユーザで利用できる。適用事例としてホームページのデザインレビューの場面を検討した結果,利用効果が期待できることを確認した。
今後の実用化に向けた課題として,WebサーバアプリケーションおよびJavaアプレットへの移行とWebアノテーションのデータベース化が挙げられる。これらの改良により,非同期での利用に加えてリアルタイムな画面共有によるコミュニケーションや知識の共有がインターネット上で可能となる。また,応用分野として,遠隔会議,e-ラーニング,技術相談,ヘルプデスクなど様々なアプリケーションを考えられるが,利用効果に対する客観的な評価を行う必要がある。

(図5 ホームページのデザインレビュー例)

謝  辞
 本研究の遂行に当たり,ご助言を頂いた北陸先端科学技術大学院大学教授 國藤 進 氏に感謝します。

参考文献
1) 國藤進, 加藤直孝, 門脇千恵, 敷田幹文. 知的グル−プウェアによるナレッジマネジメント. 日科技連出版社. 2001.
2) 伊藤禎宣, 角康之, 間瀬健二, 國藤進. Smart Courier:アノテーションを介した適応的情報共有環境. 人工知能学会論文誌. Vol.17, No.3, 2002.
3) 大藤幹, 半場方人. 詳細HTML&CSS&JavaScript辞典. 秀和システム. 2003.
4) DOM(W3C勧告:和訳版)
http://www.doraneko.org/misc/dom10/, 1998.
5) CSS(W3C勧告:和訳版)
http://www.doraneko.org/webauth/css1/, 1996.
6) XML(W3C勧告:和訳版)
http://www.fxis.co.jp/xmlcafe/rec-xml.html, 1998.
7) XSLT version1.0(W3C勧告:和訳版)
http://www.infoteria.com/jp/REC-xslt-19991116-jpn.htm, 1999.




* トップページ
* 研究報告もくじ

概要のページに戻る