全文(PDFファイル:337KB、4ページ)


 絵具調色システムの研究
 ― 耐酸和絵具及び無鉛和絵具データベースの開発 ―
 九谷焼技術センター ○高寛明

 本研究は,九谷焼和絵具の調色等の生産工程に正確さと迅速さを得ることを目的に,和絵具のデータベース化を検討した。具体的には,耐酸和絵具及び無鉛和絵具について,様々な条件(例えば焼成温度や加飾方法など)による色見本試料を作成し,それらの表色値や画像ファイルをデータベース情報として蓄積した。その結果,和絵具の調色や近似色選択が迅速にでき,コンピュータ上で行う商品開発などに,焼成近似色をモニタ上で利用することが可能になった。

キーワード:九谷焼,和絵具,データベース

Study on System for Preparation of Colors
- Development of database of leaded colors and non leaded colors -

Hiroaki TAKA

 In this research, in order to obtain the accuracy and quickness to the product process of porcelain colors of Kutani ware, the development of database of the preparation of colors was examined. Specifically, the color sample test pieces in various conditions (for example, the maturing temperature, painting technique) were produced for the leaded colors and non leaded colors, these color-specification and picture files were accumulated as the information on the database. As a result, this database made possible the rapid preparation of colors and rapid selection of approximate colors, and it was enabled to use these colors in the product development on a computer.

Keywords:kutani ware, porcelain colors, database


1.緒  言
 現在,九谷焼で使用されている和絵具は,花器等に使用されている有鉛和絵具と,食器等に多く使用されている耐酸性が高く鉛溶出量が少ない耐酸和絵具及び当場で開発を行った無鉛和絵具の3種類である。
 和絵具の調合は,一般的に上絵付職人が試験調合を経験と勘で行っている。和絵具の色を目的とする発色にするには,和絵具は絵具材料を調合した色と焼成した色が違うため,複数回の調合と焼成を必要とするのが現状である。特に商品開発での試作品は近似色を得るまでに焼成を複数回行っている。
 和絵具焼成色のデジタル化ができれば,商品開発時の絵柄色に合致した絵具の調色や近似色選択が迅速にでき,コンピュータ上で行う商品開発のデザイン作業に,和絵具の焼成近似色を利用することが可能になる。
 本研究は,最も多く使用されている耐酸和絵具と,業界へ技術普及を進めている無鉛和絵具の2種類のデータベース(以後DB)化を行った。

2.試験内容
2.1 DBソフトの検討
 使用するDBソフトは,Windows OSとMacintosh OSの両プラットフォームに対応する条件で検討した。DB情報は,色に関する項目としてマンセル値, L*a*b*値,デジタルサンプル色,色見本の写真画像などを検討し,データ情報項目として絵具名,焼成温度,絵具種類,加飾方法などを検討した。

2.2 和絵具の色見本試料の作成
2.2.1 耐酸和絵具の色見本試料の作成
 耐酸和絵具の色見本試料は,下記の条件で作成した。色見本の作成は,転写紙に30×33mmのサイズでスクリーン印刷を行った。印刷条件は,和絵具に対して外割りで60wt%のスクリーンオイルを添加したものを混練して使用した。刷版は,100メッシュのポリエステル紗に,50mmの感光乳剤フィルムで製版した。
 九谷焼の和絵具は焼成後の透明性が高く,透明性の状況を目視で判断しやすくするため,一部分に黒色の線描呉須の印刷を行った。絵具厚による明度や色合いの変化を確認するために,3段階の印刷絵具の厚みとし、印刷を1回刷りから3回刷りまで行った。転写紙に印刷した和絵具は,40×50mmのタイル状白素地にスライド転写,乾燥を行った。
 焼成は電気炉を使用し,耐酸試験を行うため760,790,820℃の3段階で焼成した。790℃が試験している耐酸和絵具の標準焼成温度であり,焼成温度による鉛溶出量の影響と焼成色の変化を観察するため上下に30℃変化させて焼成した。各焼成温度とも240分で昇温させ,15分の温度保持を行った。冷却は自然冷却である。図1に耐酸和絵具の色見本試料を示す。

2.2.2 無鉛和絵具の色見本試料の作成
 無鉛和絵具の色見本の作成は,40×50mmのタイル状白素地に20×20mmのサイズで塗布した。図2に無鉛和絵具の色見本試料を示す。
 絵具の厚さによる明度や色合の変化を確認するための絵具の塗布条件として,20×20mmの面積に塗布絵具量を0.1g,0.2g,0.3gとする3種の調合重量で行った。(以後,0.1g,0.2g,0.3gの名称をM1厚,M2厚,M3厚とする。)
 塗布は絵具に対して若干の水溶性オイルと水を添加し,ガラス板上で混練して使用した。塗布後は,自然乾燥を行った。
 焼成は電気炉を使用し,820,850,880℃の3段階で焼成した。850℃が試験している無鉛和絵具の標準焼成温度であり,焼成温度による焼成色の変化を観察するため、前記耐酸和絵具と温度幅を同じくし上下に30℃変化させて焼成した。各焼成温度とも270分で昇温させ,15分の温度保持を行った。冷却は自然冷却である。

(図1 耐酸和絵具の色見本試料)

(図2 無鉛和絵具の色見本試料)

(図3 DBの選択画面(一部))

2.3 混色調合
 耐酸和絵具,無鉛和絵具の色見本作製を以下の条件で行った。
 色見本試料には,青(緑色),紺青,黄,紫の基本の和絵具を混色調合して絵付けした。青―紺青,青―黄,青―紫,紺青―黄,紺青―紫,黄―紫の6系統である。各混色系統で混色割合を5段階にして色見本を作製した。なお1色に3段階の絵具厚で,焼成温度は3段階である。
 上記の条件により,混色5段階×6混色系統×3絵具厚×3焼成温度で,270点の色見本を作製した。基本和絵具の4色は,3絵具厚と3焼成温度の条件で36点作製し,合計306点とした。

2.4 測色
 色見本試料は,分光測色計(ミノルタ(株)製CM-3600d)で測定した。測色は,1試料の絵具部分の3ヶ所を測定し,数値を平均した。DBに入力する項目は,工業製品分野の色彩管理で多く使用されているL*a*b*表色系(JIS Z 8729)と,色相還による分類を行い理解しやすいと思われるマンセル表色系(JIS Z 8721)の2種類とした。
 L*a*b*表色値の,L*は明度で,値が大きいほど明るくなる。a*は赤と緑の色合の変化値で,プラス値が大きくなると赤方向でマイナス値ならば緑方向である。b*は黄と青の色合の変化値で,プラス値が大きくなると黄方向でマイナス値ならば青方向である。
 マンセル表色値は,色相H・明度V・彩度Cで,HV/Cの形式で表記する。色相Hは,色合をBG(青緑)やB(青)等に10分割し,個々の色合(例えばBG)の中で0〜10の値(例えば6.7BG)で表記する。明度Vは値が大きいほど明るく,小さいほど暗い色となる。彩度Cは,値が大きいほど鮮やかになる1)。

3. 結果及び考察
3.1 DB構造

(図4 4基本色と6混色系統のa*b*値)

(図5 絵具厚とL*a*b*値(黄-紺青))

 DBソフトはWindowsとMacintoshの両OSに対応していることを条件に,ファイルメーカーPro Developer Edition v5.5(ファイルメーカー(株)製)を選定した。このソフトは,アプリケーション形式でDBプログラムの配付が可能である。なお,このDBプログラムは,配付先がそれぞれの状況に応じてデータの入力や削除ができ,自社のオリジナル和絵具を加えてDBを充実させることも可能である。

3.1.1 画面形式
 DBの画面は,スタート画面,単票画面,一覧表画面,選択画面の4つである。
 起動時に表示されるスタート画面には,DBの簡易的な使用法を表示した。単票画面には,単一色の全データ項目を表示する。一覧表画面では,入力された和絵具色データの一覧ができる。選択画面では,和絵具色データを焼成温度3段階と混色6系統の18種類に分け,1クリックで選択可能なボタンを作成した。DBの選択画面の一部を,図3に示す。

3.1.2 デジタルサンプル色
 デジタルサンプル色は,測定したL*a*b*表色値をもとに画像処理ソフトのフォトショップv6(アドビシステムズ叶サ)で作成した約8KバイトのJPEG画像である。これは,表色値の数値のみでは色の感覚をつかみにくいと予想されるため,該当する表色値の画像を作成して,項目として載せることとした。

3.2 色見本試料
3.2.1 混色調合
 図4は青,紺青,黄,紫の基本の和絵具と,青-紺青,青-黄,青-紫,紺青-黄,紺青-紫,黄-紫の6混色系統で各5段階に混色した色見本試料のa*値とb*値のプロットである。混色した基本色間の5段階の測定値は,2基本色間に均等に位置するのではなく,暗い色である紺青や青の割合が多い調合は色の変化が少なく間隔が狭い。また明るい色である黄に他の基本色を調合した場合は色の変化が大きく間隔が広い。青と紫の混色において,混色した色見本試料の測定値ラインがa*値とb*値共にゼロ付近を通っている。a*値とb*値共にゼロは無彩色となり,紫70wt%青30wt%で調合した色見本試料はグレーに近い色であった。
 混色調合において,耐酸和絵具と無鉛和絵具ともに和絵具特有の鮮やかさは若干減少する傾向を示したが,透明感のある和絵具が得られた。

3.2.2 絵具厚と測色値
 図5は,無鉛和絵具の基本色の黄と紺青の2色を混色し,850℃で焼成した試料のL*a*b*表色測定値である。
 M1厚のL*値では,絵具層が薄いことと,和絵具の透明度が高いために白素地が透けている影響をより多く受けやすく,測定値は小さめで且つばらつきやすいと考える。黄と紺青の混色において明度を表すL*値の変化は,絵具厚が厚いほど差が大きくなっている。M1厚の差は約25であるがM3厚では約40の差となっている。b*値は,マイナス値は紺青側でプラス値は黄側であるが,b*値においても絵具厚が厚いほど数値幅が大きくなっている。絵具厚が厚いほど,L*値,a*値,b*値とも数値差が大きくなり,色差が大きいといえる。

3.2.3 焼成温度による絵具色
 無鉛和絵具,耐酸和絵具共に焼成した絵具表面の焼成温度による違いを目視で評価したが特に差は無かった。また和絵具の透明性も,2種の和絵具共に各焼成温度で良好な状態であった。しかし,目視での和絵具表面状態に変化が認められなくても,焼成温度が低いと和絵具に与える影響として耐酸性が劣ることが判明している2)。
 和絵具は,標準とする焼成温度もしくはその温度以上にしっかりと焼成することが重要である。

3.3 画像項目とデータファイル容量
 色見本試料の写真画像を,スキャナで取り込みした。入力解像度は,印刷を行う可能性を考えて360dpiとした。
 スキャン入力したひとつの画像のファイルサイズは約240KバイトのJPEG画像であり,DBファイルは約10倍に大きくなった。データ容量が大きくなると動作が遅くなる懸念があったが,若干動作が遅く感じるがDBの閲覧に特に支障はなかった。
 写真画像は,単一色の全データ項目を表示する単票画面で表示し,他のDB画面では負荷の軽減化を図るため表示しないこととした。
 写真画像等の表示に負荷のかかるDB項目は,ユーザが後で削除や分割して別ファイルとすることが可能なので,写真画像項目を加えて構築を行っている。

3.4 CGツールについて
 コンピュータ上で行う商品開発に利用するために,耐酸及び無鉛和絵具を測色したL*a*b*値から,フォトショップで使用する色見本ツールとイラストレータ用の色見本ファイルを作製した。

4. 結  言
 現在,九谷焼業界で流通しており,食器等に多く使用されている耐酸和絵具及び工業試験場で開発を行った無鉛和絵具を用いて調色DBを構築した。
 和絵具の青(緑色),紺青,黄,紫の4基本色を6混色系統に混色調合し,各混色系統の混色割合を5段階,絵具厚3段階,焼成温度3段階で色見本試料を作成し,L*a*b*表色法及びマンセル表色法で測色した。
 調色DBの構築により,次の結果を得た。
(1) 透明性の高い九谷焼の和絵具は,絵付した絵具厚が厚いと,L*値,a*値,b*値とも数値差が大きくなり,色差が大きくなった。
(2) 混色調合では,和絵具の青(緑色) と紫で調合した色見本試料で,L*a*b*表色値の測定値ラインがa*値とb*値共にゼロ付近を通っており,グレーに近い発色となった。
(3) 従来,和絵具の調色は調合と絵付及び焼成を複数回行っているのが現状であったが,本システムの開発により和絵具の調色や近似色選択が短時間にでき,今後の九谷焼における商品開発サイクルを短縮化できる。

参考文献
1)ミノルタ(株)計測機器国内販売部編.色を読む話.
2)高寛明.石川県九谷焼試験場報告.平成13年度,p.12-13.






* トップページ
* 研究報告もくじ

概要のページに戻る