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 県産材の高機能化とインテリア空間への応用
 −スギ,ヒバの圧密木材を利用した新商品開発−
 製品科学部 ○志甫雅人 梶井紀孝
 石川県林業試験場 木村保典

 スギ,ヒバなどの県産材の有効活用を目的に,工業試験場,林業試験場,県内関連企業が一体となって県産材高度活用研究会を形成し,圧密による木材の材料改質と評価,今日のインテリア・ニーズに対応した具体的な家具,建具,内装材等のデザイン開発と製品試作を行った。その結果をまとめると,次のようになる。
(1) 県産材の圧密木材を利用して19種類の製品を試作し,商品化の可能性について検討した。その結果,材料として木材を多く用いる木製サッシの製作などが有効であることが明らかになった。
(2) 商品化に向けての技術的な課題として,圧密木材の形状安定性の向上があるが,その対策として,加工条件を最適化した圧密装置の研究開発が必要である。

キーワード:スギ,ヒバ,圧密,製品開発,家具,建具,内装材

Stiffening Regional Wood and Application to Interior Design
- Development of New Products Using Hot Pressed Wood of Cedar and Noto-Hiba -

Masahito SHIHO, Noritaka KAJII and Yasunori KIMURA

 For the purpose of practical use of the regional wood of Cedar and Noto-Hiba, a joint research collaboration with Industrial Research Institute of Ishikawa, Ishikawa Forest Experiment Station and the regional enterprises were inaugurated. In this research group, the hot pressed wood was prepared and the physical property was examined. Moreover, the new products such as the furniture, the fittings and the interior materials using the hot pressed wood were manufactured and evaluated. The obtained results were as follows:
(1)The 19 kinds of new products using the hot pressed regional wood were manufactured experimentally. As a result, we confirmed that the products using many wood such as the window sash had the high possibility as commercial end.
(2)The shape instability of hot pressed wood was one of the technical problems for commercial end. Therefore, it is important to develop the new hot pressing apparatus which improve stability.

Keywords:Cedar, Noto-Hiba, hot press, product development, furniture, fittings, interior materials


1.緒  言
 石川県の林業統計1)によれば,県内人工林の総面積に対して,スギが72%,またヒバが12%を占めている。現在,これらのスギ,ヒバの多くは,木材として利用できる伐採期を迎えている。しかし市場への安定供給性の悪さやそれに伴うコスト高が原因で,石川県における木材需要の約2割程度を供給するに止まり,県産材が十分に有効活用されているとは言い難い状況である。
 また,県産材の大半を占めるスギは,軟質材であり表面に傷がつきやすいため,これまで家具や建具,床材などへ利用されることは少なく,用途が限られてきた。
 そこで石川県工業試験場と石川県林業試験場との共同研究により,県産材の有効活用を目的に,スギやヒバを圧密加工によって硬質化させてその用途拡大を図り,具体的な製品開発を行った。その内容及び経過について報告する。

2.木材利用の意義
 木材は,軽くて丈夫で加工しやすい素材として,我が国では,古くから建築物や家具等,様々なものに利用されてきた。
 一方,地球規模での環境問題への取り組みが大きな課題となっている今日,木材は,環境への負荷が小さい素材として見直されている。例えば,1m3の素材を製造する際に必要なエネルギーを比較すると,木材は,アルミニウムの340分の1,鉄の80分の1と格段に小さい。したがって,他の素材に替えて木材を利用することにより,消費エネルギーを少なくすることができる。また,木材を住宅や家具に利用することで,光合成による大気中の二酸化炭素の固定を長く維持することができる。さらに,木材が住宅に利用される場合,その高断熱性能による冷暖房の省エネルギーが達成されることも期待できる。
 また我が国は,木材総供給量の8割を外材に依存しているが,これを国産材あるいは県産材を活用することで,輸送にかかる消費エネルギーを少なくすることができる2)。

3.県産材高度活用研究会の開催
 本研究では,工業試験場,林業試験場,業界が一体となって県産材高度活用研究会を形成し,圧密による材料改質と評価,今日のインテリア・ニーズに対応した具体的な家具,建具,内装材等のデザイン開発と製品試作を行った。
 分担としては,図1の研究の体制で示すように,林業試験場が圧密による材料改質及び評価を担当し,工業試験場がインテリア・ニーズの調査及びデザイン開発を担当した。また当初から関連業界企業が参加することによって,業界ニーズを反映した製品開発と業界への成果普及を狙った。今回は,県産材を住宅や家具等へ積極的に利用している“ひと住まい環境ネットワーク北陸”や“白山スギの会”のメンバー企業8社が参加した。

(図1 研究の体制)

4.圧密による材料改質及び評価
 スギ,ヒバの圧密加工は,林業試験場が担当した。圧密装置は,石川県林業試験場石川ウッドセンター(河内村)にある薄板材全層圧密方式のホットプレス装置(図2),富山県林業技術センター木材試験場(小杉町)にある板材表層圧密方式の加熱ロールプレス装置(図3),柱材全層圧密方式の蒸煮圧縮成型装置(図4)を用いた。表1は各圧密装置の加工条件をまとめたものである。

(図2 ホットプレス装置)

(図3 加熱ロールプレス装置)

(図4 蒸煮圧縮成型装置)

(表1 圧密装置の加工条件)

(表2 圧密木材の表面硬さ(ブリネル硬さ))

 製品試作では,それぞれの圧密装置の特性を活かして,部材として必要な圧密木材を加工した。
 また圧密木材の物理的特性評価として,ホットプレス装置を用いて圧密加工したスギ,ヒバの表面硬さについて,林業試験場でブリネル硬さ測定(JIS Z 2101)を行った。その結果を表2に示す。硬質材のイタヤカエデと比較しても,圧密加工により,スギ,ヒバが硬質化したことが分かる。

5.デザイン開発
 圧密木材を用いた製品試作のためのデザイン開発を,研究会参加企業と工業試験場との共同で行った。参加企業がそれぞれに自社製品として開発したい製品を決定し,工業試験場がコンピュータグラフィックス画像(図5)などを用いてデザイン開発の技術支援を行った。
 デザイン開発の前提となるインテリア・ニーズについては,研究会で協議を行った。各社に共通する項目をまとめると次のようになる。
(1) 近年,シックハウス問題など住まいに対する健康ニーズが高まる中,防カビの薬品処理がされていない県産材を積極的に使っていこうとする動きがある。
(2) スギはヒノキ,ヒバに比べ臭いが柔らかく,特にシックハウス経験者に好まれる。
(3) 現在販売されているフローリング用の圧密スギ材は,ナラ材と比べるとコスト的に割高感があるが,圧密によるうづくり風(凸凹)の素材感と足触りで人気がある。
(4) 柱,壁,床等にふんだんに木材を利用することによって,足が冷たくない,足触りが良い,カビ,ダニ類の繁殖を防ぐ,室内湿度を快適に保つなどの利点がある。
(5) 近年,学校や郵便局など公共建築での木造化が積極的に進められている。また木製の机と椅子が導入された小学校での調査で,授業中の児童の様子が良い方に変化したとの報告がある2)。
また,参加企業のデザイン開発のコンセプトをまとめると次のようになる。
(a) 極細の圧密角材と圧密薄板材の網代編みで構成される軽量の照明器具の開発
(b) 1〜2mmの圧密薄板材を用いた小物の指物製品の開発
(c) 圧密板材の素材感を活かした本棚,CD棚,引出しなど家具の開発
(d) 木製サッシ(窓枠)の開発
(e) パラフィン乾燥材を圧密加工した撥水性のウッドデッキ材やフローリング材の開発

(図5 開発製品のCG画像)

(f) 圧密の超薄板と和紙を組み合わせた照明器具とタペストリーの開発
(g) 床タイルの感覚で施工可能な腰板材の開発
(h) 1〜2mmの圧密薄板材を用いた曲物製品の開発
(i) 圧密によるエンボス加工木材の開発
(j) 学校用,オフィス用の机と袖机,ワゴンの開発

6.製品試作
 デザイン開発したものについては,製品試作を研究会参加企業各社がそれぞれ行った。その内容は表3のとおりである。
 図6〜10に今回作製した試作品を示す。
 図6はスギの全層圧密の細い角材と薄板材の網代編みで作られた照明器具で,非常に軽量である。
 図7はスギの赤身と白太の全層圧密薄板材を用いた指物による文庫箱で,6個の箱が一組となっており,身と蓋が入れ子状に収まるものである。
 図8はスギの全層圧密薄板材を付き板として利用した家具で,引き出しには型染め友禅の加飾を施してある。

(表3 試作内容一覧)

 図9はスギの全層圧密薄板材を張り合わせた木製サッシで,県内の公共建築物で実際に施工されたものである。
 図10はスギの全層圧密薄板材を付き板として利用した机とワゴンで,特に傷がつきやすい天板と引き出し前板に用いたものである。

7.成果普及
 製作した試作品に対して,研究会で商品化の検討を行った。

(図6 照明器具)

(図7 入れ子箱)

(図8 本棚と引き出し)

(図9 木製サッシ)

(図10 机とワゴン)

 小物製品や照明器具,家具については,今後受注生産であれば商品化可能であるとの結論を得た。
 また木製サッシについては,特にスギの圧密木材を利用した製品に力を入れ,具体的な公共建築物での施工実績を上げていくこととした。
 さらにパラフィン乾燥のフローリング材と腰板については,パラフィン乾燥工程及び圧密加工工程での技術的な検討が必要であり,商品化にはもう少し時間を要すると考えられた。
 また試作品の展示を,平成14年度石川県農林漁業まつりの林業試験場ブースで行った(図11)。さらに単独の展示会を,平成15年秋に約一ヶ月間,金沢ステーションギャラリーで開催する予定であり,研究会での成果を広く普及するように努めている。

8.今後の展開
 木材の微細構造は,空隙を含む細胞(ストロー状)が集合した多孔質体であり,圧密加工することによって空隙が減少し,強度,耐摩耗性が向上する。ところが加工条件(温度,湿度,変形速度等)が不適切な場合には,細胞内部の微細構造が不安定となり,加工後,圧密木材にそりや割れ等が発生しやすくなり,加工材の歩留まりの悪化とコストの上昇につながっていた。今回の試作品の製作でも,圧密加工後の形状安定性が悪い部材がいくつか見受けられた。
 このような技術課題を解決するために,独立行政法人産業技術総合研究所基礎素材研究部門木質材料組織制御研究グループや県内木工機械製造企業との共同で,圧密木材のそり,割れの防止,歩留まりの向上,コストの低減を図ることを目的に,加工条件を最適化した圧密装置の研究開発を計画中である。

(図11 農林魚業まつりでの展示風景)

 この研究開発によって,国産材や県産材を利用した形状安定性の高い低コストの圧密木材が供給され,木製サッシ,木製デッキなどの住宅産業分野製品や木製ガードレールなどの公共事業への応用が可能になると考えられる。

9.結  言
 県産材の圧密加工材を利用した製品開発に関する本研究は,県内公設試験研究機関の共同研究として取り組んだものである。
 工業試験場と林業試験場との今回の共同研究の結果をまとめると次のとおりである。
(1) 県産材の圧密木材を利用して19種類の製品を試作し,商品化の可能性について検討した。その結果,材料として木材を多く用いる木製サッシの製作などが有効であることが明らかになった。
(2) 商品化に向けての技術的な課題として,圧密木材の形状安定性の向上があるが,その対策として,加工条件を最適化した圧密装置の研究開発が必要である。

参考文献
1)石川県農林水産部森林管理課編.平成13年度版石川県における木材需要と製材工業の動向.2001.
2)林野庁編.平成13年度森林・林業白書.2001.






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