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 イシル(魚醤油)の香気成分について
 食品加工技術研究室 ○道畠俊英
 石川県農業短期大学 矢野俊博 榎本俊樹

研究の背景
 石川県能登地方には,イシルと呼ばれるイカやイワシを原料とする魚醤油が古くから造られている。魚醤油は独特の呈味と香気を持ち,近年エスニックブームと相まって生産量が増大の傾向にある。イシルも例外ではなく,1990年代に入って大きく生産量をのばしてきている。我々はこれまでにイシルの一般成分や呈味成分について報告してきた。そこで今回は,イシルの特徴の一つである香気成分について検討を行った結果を報告する。

研究内容
 市販のイカイシル5点(SQ-1〜SQ-5),イワシイシル(SA-1〜SA-5)を入手し,これらのヘッドスペースガスについて,TCT(thermal desorption cold trap)を用いたGC-MS法によりイシルの香気成分について分析を行った。
 イシルのヘッドスペースガスには多くのピークが検出され,そのうち51成分について同定を行った。イカ,イワシにかかわらずイシルの香気成分として特徴的な成分は,アルデヒド類(2-methylpropanal,2-methylbutanal,3-methylbutanalなど),ケトン類(2-butanone,3-methyl-2-butanoneなど),ピラジン類(pyrazine,methylpyrazine,2,5-dimethyl-pyrazine,2,6-dimethylpyrazineなど),アミン類(trimethylamine,dimethylamine),含イオウ化合物(dimethyldisulfide,dimethyl-trisulfide)などで,この他2-furanmethanolも多量に検出された。アルデヒド類,ケトン類,ピラジン類は,アミノ酸や脂質が加熱などによる酸化反応で生成したものと推定され,また他の魚醤油にも多く検出されていることから,魚醤油全般の特徴的な香気成分であると考えられる。魚醤油の特徴的な臭いとされているtrimethylamineは,イシルにおいてSA-3,SA-4,SA-5で比較的高い値が得られたが,他の魚醤油と比べ全体的に低いレベルであった。これは,イシルは他の魚醤油よりもpHが低い傾向にあるため,trimethylamineの揮発性が抑えられているものと考えられる。
 また,他の魚醤油において揮発性有機酸(acetic,butanoic,3-methylbutanoicなど)が特徴的な香気成分と報告されているが,イシルではこれらの有機酸はほとんど検出されなかった。乳酸含有量の高いSQ-4,SQ-5,SA-5においては,アルコール類(2-methyl-1-butanol,3-methyl-1-butanolなど)が多量に検出されており,これらのイシルにおいては熟成の過程で乳酸菌などの微生物の影響が推察される。

研究成果
 イシルの香気は多くの成分により構成されており,他の魚醤油のような腐敗臭(揮発性有機酸に起因)の成分はほとんど含まれていなかった。また,一部のイシルに含まれるアルコール類は,イシルの熟成過程での耐塩性微生物の関与が推定される。


論文投稿
 Biosci. Biotechnol. Biochem. Vol.66, No.10, 2002, p.2251-2255.




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