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 ガスクロマトグラフィー法による分散染料の昇華特性評価
  沢野井康成* 新保善正* 田畑功** 久田研次** 堀照夫**
    *繊維部 **福井大学工学部

研究の背景
分散染料の蒸気圧や昇華熱(蒸発熱)は,環境負荷の低減を図る転写捺染法および超臨界炭酸ガス染色法の研究にとって重要な情報となる。しかし,色素のように蒸気圧が小さい化合物の場合,Knudsen分子流出法,Knudsen流出回転法や気体流動法など特殊な方法によらないと,蒸気圧を精度よく求めることは容易でない。本研究では,ガスクロマトグラフィー(GC)法を用いて,分散モデル化合物および市販分散染料の蒸気圧測定とそれによる昇華熱(蒸発熱)の算出を行った。この方法で得られた蒸気圧および昇華熱値と従来法によるものとの比較を行い,ガスクロマトグラフィー法を用いた分散染料の昇華特性評価について検討した。

図 染料蒸気圧のアレニウス
プロット例
(p-ジメチルアミノベンゼン)

研究内容
実験にはアゾ系,アントラキノン系の分散モデル化合物および市販分散染料計13種を,装置はデュアル流路方式のガスクロマトグラフ装置を使用した。また,蒸気圧の測定では,内径3mmのガラスカラムに60/80メッシュのガラスビーズを充填し,揮発性溶媒に溶解した高濃度の試料を多量に打ち込むことで,カラム内で試料飽和蒸気を発生させ,そのクロマトグラムの高さから蒸気圧を求めた。測定した蒸気圧へのアレニウスプロットは,すべての染料について,図に示すように融点前後で良好な直線関係が得られた。融点以下と融点以上の傾きは,それぞれ昇華熱と蒸発熱であり,直線の傾きから,Clausius-Clapeyronの式より融点以下で昇華熱が,融点以上で蒸発熱値を算出できた。これら値と従来法によるものと比較した結果,特に大きな差は見られないことがわかった。一方,蒸気圧値については従来法によるものと若干差のあるものが見られた。GC法による昇華熱と蒸発熱の差から求めた融解熱と,示差熱量測定(DSC)法により直接求めた融解熱との比較結果から,測定時の結晶構造の違いによるものと考える。すなわち,DSC法では明らかに固体つまり結晶状態からの融解熱が求められるのに対して,GC法では,一旦溶媒に溶かした状態で試料を注入するため,染料によっては非晶状態やあるいは結晶形態が定まらない。先の従来法はDSC法と同様に,結晶化した状態から染料の蒸気圧測定を行っている。また仮に結晶形態が定まったとしても,染料の精製や溶解に使用する溶媒によっては,結晶の形態が異なる可能性があると考えられる。

研究成果
 ガスクロマトグラフィー法は,昇華性色素の新しい蒸気圧測定法として有効な方法であることを確認できた。また,この方法で得られた蒸気圧の温度依存性から算出した昇華熱(蒸発熱)を用いて,色素の昇華特性を評価することは可能であると考えられる

論文投稿
 Dyes and Pigments 2002 Vol.52 No.1 p.29-35



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