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 カキ殻の土木材料への再資源化
  宮本正規* 谷口克也** 山田幹雄*** 端新四郎****
    *化学食部 **北川ヒューテック(株)

能登半島に位置する中島町及び穴水町は日本海側で最大のカキ養殖産地である。地場産業の振興を図る上からも多量に発生するカキ殻の再資源化が大きな課題となっている。本研究では,土木分野へのカキ殻の再利用を目的に,カキ殻の特性を活かした利用法を検討した。室内試験の結果を踏まえ,軟弱地盤が多い中島町の道路拡幅工事等に試験施工した。得られた結果は以下のとおりであり,破砕したカキ殻を土木材料に応用できることを確認した。
(1) 細孔を有するカキ殻は細粒化するほど吸水性が向上するので砂の代替化が可能である。
(2) カキ殻と安定剤との併用により,一軸圧縮強度の相乗効果が期待できる。
(3) 試験施工においてもカキ殻の吸水性効果によって強度が改善されることが確認された。
キーワード:カキ殻,一軸圧縮強度,CBR,含水比

Reuse of Oyster Shell Resources as Civil Engineering Materials

Masaki MIYAMOTO, Katsuya TANIGUCHI, Mikio YAMADA and Sinshiro HANA

One of the biggest oyster farms on the side of the Japan Sea are Nakashima-machi and Anamizu-machi, both located in the Noto Penninsula, Ishikawa Prefecture. With a view to promoting the industries of Ishikawa Prefecture, the reuse of large amounts of oyster shell resources has become an important issue. This study was carried out for the application of the oyster shell resources to civil engineering materials. Based on our laboratory experiments, oyster shell was used as a field test in a road broadening construction at Nakashima- machi whose soil is soft in its great part. The following results, confirming that oyster shell could be applied as civil engineering materials, were obtained
(1) The moisture absorption ability of oyster shell increases as it is milled into small pieces because of its micro-pores.
It suggests the effective way of the addition of oyster shell to soft soil.
(2) The unconfined compressive strength is improved by the use of oyster shell and hardening material.
(3) In the field test of the road construction, the improvement in the mechanical strength by the moisture absorption effect of milled oyster shell was recognized.
Keywords:oyster shell, unconfined compressive strength, california bearing ratio, water content


1.緒  言
石川県中島町及び穴水町は,日本海側で最大のカキ養殖産地として知られている。特に,中島町は全体の90%を占めており,約8億円のカキを出荷しており,町の主要産業の一つである。
 カキはほとんど剥き身で出荷するため,毎年3〜4千トン1)発生するカキ殻を一般廃棄物として町の共同保管場に一時保管して有機物を分解させた後,これまでは圃場整備事業として,カキ殻の形状を利用し,暗渠排水のろ過材に利用されてきた。しかし,その圃場整備事業も平成11年度の終了に伴い,漁業振興の観点からも大量に発生するカキ殻の再資源化が大きな課題となっていた。
***国立福井工業高等専門学校 ****中島町役場
 国内の主要なカキ養殖産地は広島,三重,宮城各県等が挙げられるが,全体で年間20万トンを超えるカキ殻の一部が飼料,土壌改良材,暗渠排水のろ過材に利用されているに過ぎず,そのほとんどは野積み状態となっているのが現実である。再資源化を目指した研究には水処理材2)や土木分野ではサンドコンパクションパイル工法による砂の代替化3)及びアスファルトフィラー4)への適用性が挙げられる。
 カキ殻は炭酸カルシウムであり,我が国で自給できる唯一の鉱物資源であることを踏まえて,その再資源化計画として 1)大量使用が可能であること 2)廃棄物の再資源化に理解があること 3)地域限定型で輸送コスト及び加工コストを最小限に留めること。この3条件を再資源化の前提条件とした。
 本研究は産学官連携による能登地域未利用資源活用事業の一環で行い,前述した前提条件を基に金属精錬材料への応用と土木材料への応用に絞り検討した。最初に石灰石の代替原料にカキ殻を用いた金属精錬を操業炉(アーク炉)で実証実験を行い,金属精錬材料に利用できることを既に報告した。5)
土木材料への応用を検討した背景には,中島町周辺の地盤が極めて軟弱で土質改善に関心が強くしかも地元で発生するかき殻の再資源化に理解が深いことが挙げられる。そこで基礎実験で細粒化したカキ殻を砂状骨材として利用して,カキ殻自身が軟弱土中の水分を取り込み見掛け上の含水比を低減させる効果のあることを確認した。その基礎試験の概要と2002年3月に中島町西谷内地区にある町道呉竹線拡幅工事でカキ殻を路床材に応用した試験施工の概要について報告する。

2.実験方法
2.1 カキ殻
 貝殻はいずれも結晶性炭酸カルシウムであるが,その結晶相は生息する海域の水温,水深等の外的要因でなく貝殻の種類で決定される。例えば,カキ,ホタテは方解石であり,赤貝やアサリ等は霞石である。カルシウムよりもイオン半径の小さいマグネシウムや亜鉛等の2価陽イオンを含む炭酸塩は方解石となり,ストロンチウムやバリウムのようなカルシウムよりもイオン半径の大きい2価陽イオンを含む炭酸塩は霰石となる。
図1に示すカキ殻のX線回折プロファイルから方解石であることがわかる。
図1 カキ殻のX線回折パターン
表1 カキ殻の化学組成    (mass%)
I.L SiO2 Al2O3 Fe2O3 CaO MgO R2O P2O5 SO3
42.7 2.95 1.27 0.36 50.5 0.49 0.76 0.09 0.43

 カキ殻の化学組成は表1より主としてIg Loss(脱炭酸と有機物)とCaOであるが,カキ殻の表面は凹凸が激しいので一部土が付着しており,土を構成する珪酸塩が少量含まれている。MgOはSiO2及びAl2O3との比率から予想されるよりも多く含まれている。
図2 カキ殻の表面構造(SEM写真)

 カキ殻の外表面は図2に示すSEM写真から薄片状の隔壁がカードハウス構造になっており,毛管現象による吸水性が高いことが推察される。
 基礎試験に用いたカキ殻は七尾西湾漁協から入手し,3段階に分けて粉砕したカキ殻の粒度別の諸物性を表2に示す。基礎試験に用いたカキ殻の平均粒径は,大:5mm,中:1.2mm 小:0.2mmであった。
   表2 カキ殻の諸物性


含水比とは水とカキ殻の重量比率を示し,粒径が細かくなる表面積が大きくなるため,吸水量が3倍強増加していることがわかる。

2.2 対象土
 基礎試験及び試験施工に用いた土は含水比率の異なる各地域から土を採取した。
基礎試験
 低含水比土:石川県能美郡辰口町
 中含水比土:石川県河北郡津幡町
 高含水比土:石川県鹿島郡中島町浜田地区
試験施工
 高含水比土:石川県鹿島郡中島町塩津地区
中島町周辺の地盤は極めて軟弱で地表面下0.3〜0.6mで自然湧水があり,深さ約8mまでシルト層(0.074〜0.005mm)となっている。地面の強さは標準貫入試験(JIS A1219)で地面から75cmの高さから63.5kgの鉄の重りを落下させて中空パイプを地面下30cmまでに貫入させるために要する打撃回数(N値)はわずか2以下に過ぎない。 
上記に示す対象土の粒径分布及びJIS法で評価した諸物性を図3及び表3に示す。
   図3 各地域の土の粒径分布 

低含水比土である辰口の土は砂質>>シルト質>粘土質の順に構成されている。一方,高含水比土である浜田地区(中島町)の土はシルト質>>砂質>粘土質の順になっている。更に西谷内地区(中島町)の拡幅工事で施工した土は塩津地区(中島町)の道路改良現場から搬出した土でシルト質>>粘土質粘土質>砂質の順で平均粒径からは粘土質に近いシルト質であることがわかる。
表3 各地域の土の諸物性

浜田土の自然含水比は液性限界の79%を遙かに超えており,形が保持できないほど高含水比の土であることがわかる。
浜田土(中島町)は辰口,津幡土と比較してシルト質であるにも関わらず顕著に含水比が高いのは,腐植質が多いために増加した土粒の隙間への毛管水によるもので締め固め特性の最大乾燥密度からも推察することができる。腐植質が多い土はフミン酸に変化するためpH(KCl溶液)が他の土と比べて極度に低くく,4.86であった。
西谷内地区で試験施工に用いた改良対象土の諸物性を表4に示す。浜田地区における改良対象土と比較すると,シルト,粘土分が更に多い。
   表4 試験施工に用いた改良土

2.3 安定剤
基礎試験では高・中含水比土の土質が粘性土であることから,安定剤にセメント系固化材(アサノクリーンセット)を用いた。一方,中島町浜田地区の宅地造成地及び呉竹線拡幅工事の試験施工には太平洋セメント(株)製でセメント系固化材(ジオセット10 軟弱土用)を用いた。

2.4 試験方法
2.4.1 供試体の作成方法
 基礎試験に用いた土は2.5mmフルイで礫等を除去した後,次に試料を均一に混合した後,含水比を測定した。
 設定含水比(試験含水比)はその土が自然状態で通常存在する中でかなり高含水比の状態(軟弱な状態)を想定するため,それぞれの土の液性限界に近い含水比とし,低含水比土は30%,中含水比土は50%及び高含水比土は80%とした。
 混合した試料の土をビニール袋に密閉し,室温で1週間以上養生した。試験に供する前に再度混合し,
含水比を測定して設定含水比の±2%以内(低含水比土は±1%以内)であることを確認した。
2.4.2 供試体の評価方法
一軸圧縮強度(JIS A1216):円柱状試料(d:50mm, L:100mm)を一軸圧縮試験機にセットした後,毎分1%の圧縮ひずみが生じる割合で連続的に供試体を圧縮させて応力−ひずみ曲線を作成する。 供試体の一軸圧縮強度は下記の式で算出する。
ここにσ:圧縮応力(kN/m2)
   P :圧縮歪みεの供試体に加えられた力(N)
   A 0:圧縮する前の供試体の断面積(m2) 
D0:圧縮する前の供試体の直径(m)
CBR試験(JIS A1211):モールド(径150mm)内で締め固めた土の供試体に一定速度でピストン(径54mm)に荷重をかけて土に2.5mm貫入させた時の荷重と標準荷重(13.4kN)との比率で表示される。     
CBRは土の支持力を示す重要な指標として道路の設計・施工する際に必ず求められる項目の一つ。一級国道の設計CBRは20%以上となっている。

3.結果と考察
3.1 基礎試験
3.1.1 カキ殻の吸水性
 カキ殻が土木材料に適しているか基礎試験を行った。試験は2mm以下に破砕したカキ殻の吸水性の有用性を確認するため,内径70mm,高さ190mmの円筒形状のアクリル樹脂容器の底に礫分を取り除いた2mm以下の土(含水比26.6%)を入れる。次に2,000μm以下に破砕した乾燥したカキ殻を投入し,再び同じ含水比土を入れたその上に質量400gの重錘を乗せた。各層の高さを100mmとした。上部開口部をラップフィルムで密封してカキ殻の吸水性を評価した。
 その結果,上下部の土の含水比は22.8%,22.5%となり,試験前と比較して含水比が4%減少した。一方,カキ殻の含水比は17.0%まで上昇したことから,カキ殻が吸水性に優れている素材で土の最大乾燥密度を改善できることが確認された。
3.1.2 カキ殻の添加効果
中粒度に調整したカキ殻の添加率と一軸圧縮強度との関係を図4に示す。いずれもカキ殻の添加率を高めるにつれて一軸圧縮強度は増加する。しかし,軟弱土におけるその添加効果は30%が限度である。
一方,低含水土(辰口町)の一軸圧縮強度はカキ殻30%添加で1,000kN/m2を超え,無添加の約3倍強と
なり,高含水比土より低含水比土が顕著な添加効果が確認された。
3.1.3 安定剤の添加効果
 高含水比土における安定剤の添加率と一軸圧縮強度との関係について,カキ殻無添加と20%添加したデータと比較した。

図5より安定剤の添加率を高めることにより,一                             軸圧縮強度はいずれも向上するが,カキ殻の添加効果は安定剤の添加率が高いほど大きく現れる。
 図6は低・中含水比土それぞれのCBR値を模式的に表したもので,カキ殻のみでは大きな強度改善が期待できない。しかし,安定剤と併用した場合には,カキ殻・安定剤それぞれ単独で用いた場合より,大きく相乗効果が認められる。
3.1.4 カキ殻の吸水による強度改善効果
 対象土の含水比を横軸に,縦軸にはカキ殻を20%添加と無添加における一軸圧縮強度比との関係を図7に示す。
 七尾市以北での路床改良や浅層地盤改良では,大半対象となる軟弱土の含水比の範囲(30〜80%)に入っている。そこで対象土の含水比がわかれば図7より増加する一軸圧縮強度を概略推定することができる。


 図7 対象土の含水比によるマスターカーブ

 カキ殻は図2のSEM写真より多孔質構造になっているので,粉砕物の吸水性は粒度が細かいほど高まる。軟弱土と混合した際にこの細孔への吸水により土相の含水比を下げることにより,強度が2〜7倍改善される。

3.2 試験施工
 最初の試験施工は平成12年10月に浜田地区の宅地造成地でカキ殻の添加効果を確認するため,表5に示すように5工区にわけて行った。1工区の当たりの改良面積は20m2(長さ10m×幅2m)で深さは0.4mである。なお,カキ殻及び消石灰の添加率は改良土重量に対する比率を示す。なお,試験に供した表5 のカキ
   表5 試験施工の区割り
殻はブルドーザーの転圧で粉砕したものを用い,含水比は18.9%であった。混合はスタビライザ,転圧は振動ローラ等を用いて施工した。施工3ヶ月後の現場CBRではC:17→29%,D:25→40%,E:28→56%となり,カキ殻と消石灰の併用による添加効果が確認された。土と消石灰若しくはカキ殻が反応して珪灰石化(wollastonite)しているかX線回折で確認したが,生成されていないことがわかった。
2回目の試験施工は平成14年3月に中島町西谷内地区町道で行われ,試験施工の工区割りを表6に示す。
  表6 試験施工の工区割り
各工区の長さはA工区:20m,B工区:25m,C工区:25mとし,改良厚さは各工区とも30cmとした。今回の試験施工では飽水したカキ殻と含水比を低減したカキ殻の工区を設定した。
 


図8 試験施工の手順
図9 拡幅工事現場
試験施工は図8に示す手順で行い,施工後の現場写真を図9に示す。
3.2.1 室内CBR試験
混合した試料について試験室で当日中にCBR試験供試体を作製した。7日及び28日後にCBR試験を行い,各平均値を表7に示す。  
   表7 室内CBR試験

表7の含水比は混合してから5時間後に測定しているため,セメントの水和反応に使用される水分量も少なく,各工区とも大差が見られない。乾燥密度は含水比と同様で大差ないが,工区Bでは含水比の影響でやや高くなっている。
CBRは7日及び28日強度の評価では,固化反応がかなり進んでいると考えられる。安定剤により水分が消費されるので相対的に含水比の低下したことでカキ殻の添加効果が現れている。C工区の試験結果から,飽水状態のカキ殻では添加効果は期待できないことが判明した。
3.2.2 現場密度試験
今回の試験施工は路床改良後引き続き下層路盤の施工を行うため,RI水分計で評価した。各工区とも3地点について測定した結果を表8に示す。表8より含水比及び乾燥密度は室内試験の結果と比較して含水比が低く,乾燥密度は逆に少し高くなっている。
表8 現場密度試験

施工した現場のたわみ量をFWD(Falling Weight Deflectometer)によるたわみ試験を施工2週間後と3ヶ月後に行った。たわみ量に最も差が出る裁荷直下のたわみ量は含水比が最小のB工区が最も少なく平均で1,200μmであるが,飽水したカキ殻を用いたC工区では平均で1,700μmとなり,施工条件によってたわみ量が大きく異なる。3ヶ月経過後裁荷直下のたわみ量はC工区の一部を除き900μm以下に減少したことから舗装基準をクリアしている。
 中島町はカキ殻の再資源化を積極的に進めるため,用途に応じた前処理施設を平成14年度から国庫補助事業で建設する運びとなった。同施設は発生するすべてのカキ殻を3ヶ年屋外に保管して貝に付着している塩分の除去と有機物を完全に分解させた後,所定の粒径に粉砕して土木材料,土壌改良材,金属精錬材料等に供給される。

4.結  言
(1) カキ殻を破砕した粒径が小さいほど吸水性が高く,軟弱土対策に適している。
(2) カキ殻の添加率の増加により,一軸圧縮強度は向上するが,軟弱地盤では30%が限度である。
(3) カキ殻単独で使用するより,安定剤との併用によってCBRの相乗効果が期待できる。
(4) 対象土の含水比(30〜80%)を知れば増加する一軸圧縮強度を概略推定することができる。低含水比の土質ほどカキ殻の添加効果が顕著である。
(5) カキ殻と消石灰との併用による試験施工では,3ヶ月後と直後の現場CBRの比率は1.6〜2.0となり,いずれもCBRが改善されていることが確認された。
(6) 試験施工においてもカキ殻の吸水性効果によって強度が改善されることが再確認された。

謝  辞
本研究を遂行するに当たり,真柄建設(株)技術研究所,佐藤道路(株)北陸支店,大田行政書士事務所及び七尾西湾漁業協同組合の皆様のご協力に感謝します。

参考文献
1) 石川県,石川県農林水産統計年報,(1984-1995)
2) 高崎みつる,中塚朝夫,吉川次男:カキ殻の処理・有効利用技術研究,宮城県工技センター研究報告,No.24,p.141-146,p.50-63(1993)
3) 西塚 登:SCP工法におけるカキ殻の活用事業,土木技術,Vol.50,No.2(1995)
4) 篠原俊彦,菅沼建弥,奥村雅幸:貝殻のアスファルト混合物用フィラーとしての適用性,土木学会第49回年次学術講演会,88-89(1994)
5) 宮本正規,室谷貴之,廣瀬幸雄,山田恒二,吉野了:石川県工業試験場研究報告,No.48,p.49-54(1999)



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