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 超臨界二酸化炭素によるイシル(魚醤油)粕からの脂質の抽出
  道畠俊英* 松田喜洋* 佐渡康夫** 守田弥栄*** 馬医理加***
    矢野俊博*** 榎本俊樹***
    *食品加工技術研究室
    **能登北部保健福祉センター
    ***石川県農業短期大学

 石川県能登地方では,イカやイワシを原料としたイシル(魚醤油)が作られているが,その製造の際にイシル粕が生じる。そのイシル粕から超臨界二酸化炭素(SC-CO2)による脂質の抽出及び成分について検討した。その結果,抽出時間8時間,抽出温度45℃,抽出圧力25MPaの条件でイカイシル粕及びイワシイシル粕からそれぞれ約55%,17%の脂質が得られた。抽出条件については,抽出温度はイシル粕からの抽出率にはほとんど影響を及ぼさないが,抽出圧力を増加させると抽出率も増加した。更にSC-CO2にエントレーナーポンプでエタノールを添加することにより,SC-CO2単独よりも短時間でイシル粕から脂質を抽出することができた。得られた脂質にはイカ,イワシいずれも多価高度不飽和脂肪酸を多く含んでおり,特にDHA,パルミチン酸,オレイン酸,EPAなどが多く含まれていた。また,イシル中の抗酸化性物質の作用によりイシル粕中の脂質は新鮮なイカの内臓やイワシに含まれる脂質とほぼ同じ脂肪酸組成を示した。
キーワード:イシル,魚醤油,超臨界二酸化炭素,脂肪酸,DHA,EPA

Extraction of Lipid from the Residue of "ISHIRU" (Fish Sauce) Using Supercritical Carbon Dioxide

Toshihide MICHIHATA, Yoshihiro MATSUDA, Yasuo SADO, Yae MORITA, Rika BAI, Toshihiro YANO and Toshiki ENOMOTO

Extraction of lipid from the freeze-dried (FD) residue of "ISHIRU" (fish sauce made from squid liver or sardine)was carried out with supercritical carbon dioxide (SC-CO2) at the conditions of 15-35 MPa and 35-70°C, and then the effect of ethanol as an entrainer was investigated. SC-CO2 extracted about 55% and 17% of lipid from the FD residue of "SQUID-ISHIRU" and "SARDINE-ISHIRU" respectively (extraction at 25MPa, 45°C; 4hr). When ethanol was added to SC-CO2, the extraction ratio of lipid showed a higher value. This result indicated that ethanol acted as an entrainer, and that the addition of ethanol to SC-CO2 was fairly effective for the extraction of lipid.
These extracts were further analyzed for fatty acid compositions by gas-liquid chromatography (GLC). The major fatty acids of these extracts were C14:0, C16:0, C16:1(n-7), C18:0, C18:1(n-9), C18:1(n-7), C18:2(n-6), C18:4(n-3), C20:1(n-11), C20:1(n-9), C20:4(n-6), C20:5(n-3), C22:1(n-11 and n-13), C22:1(n-9), C22:6(n-3). The sum of these fatty acids was more than 85% of the total fatty acids. The major poly-unsaturated fatty acids were C22:6(n-3)(DHA) and C20:5(n-3)(EPA). The amount of total fatty acids of SC-CO2 extracts showed a higher value than that of CHCl3-CH3OH extracts.
Keywords:ISHIRU, fish sauce, supercritical carbon dioxide, fatty acid, DHA, EPA


1.緒  言
 石川県能登半島の奥能登地方に古くから伝わる,「イシル,イシリ,ヨシル,ヨシリ」などと呼ばれているイカのゴロ(内臓)やイワシを原料とした魚醤油(以下,イシル)がある1〜3)。イシルは伝統的手法により,毎年11月から翌年の5月頃までに仕込まれ,桶の中で原料のイカのゴロまたはイワシに18〜20%の食塩を加え,時々撹拌を行い約1〜2年間かけて製造される。桶の上層部には,脂質分など,下層部には生成されたイシルが溜まり,そのイシルを桶の下部に取り付けられている栓から取り出し煮沸して,タンパクを除き製品としている。イシル製造の工程で上層部に溜まる脂質分を中心とした粕は,現在産業廃棄物として処理されているだけである。
 近年の研究により,魚介類の脂質中にはEPA(エイコサペンタエン酸),DHA(ドコサヘキサエン酸)などが多く含まれることが報告されている4〜7)。このEPAには,血液中のコレステロールや脂肪が過度に蓄積されるのを防ぎ,LDLコレステロール(低比重リポタンパク)を減少させ,HDLコレステロール(高比重リポタンパク)を高める作用があり,脳梗塞などの病気や高血圧症を防ぐのに役立つとされている8,9)。またDHAには,血中脂質低下,血圧降下,抗腫瘍,視力低下抑制,学習機能向上,抗アレルギー,抗糖尿病などの多くの生理作用を持つことが明らかにされている10)。
 ところで,天然物から有用物質を抽出する方法として超臨界二酸化炭素(SC-CO2)抽出法が用いられるようになった11)。この方法は,比較的低温で操作できること,抽出溶媒である二酸化炭素に毒性がないこと,溶媒と抽出物の分離が容易なこと,酸化による品質低下がないことなどの多くの利点を有している。このような優れた特性から,大豆,アブラナ種子,トウモロコシ胚芽などの油糧種子からの脂質抽出について検討が行われ,抽出された脂質は不純物が少なく,良好な色調であることが報告されている12〜14)。
 そこで,多量の脂質を含むイシル粕からSC-CO2抽出法を利用し,EPA,DHAなどの生理機能物質を含む脂質の選択的抽出について検討したので報告する。

2.実験方法
 2.1 試 料
 工業試験場でスルメイカの内臓とマイワシを原料とし,約2年間試醸した際に得られたイカイシル及びイワシイシルの粕を48時間凍結乾燥したものを供試試料として用いた。
 一般成分の分析は,食品分析法15)及び新・食品分析法16)に準じた。水分は105℃での常圧乾燥法,灰分は550℃恒量灰化法,総窒素は窒素/蛋白質定量装置(三田村理研社製,KJEL-AUTO)によるケルダール法,粗脂肪はクロロホルム−メタノール(CHCl3-CH3OH)溶媒抽出法,リンはバナドモリブデン酸吸光光度法,過酸化物価値はヨウ素滴定法,酸価値は水酸化カリウムによる滴定法により求めた。また,粗繊維は粗繊維定量装置(三田村理研社製,FIBER MATIC)による重量法17)により求めた。

 2.2 SC-CO2抽出
 超臨界二酸化炭素抽出装置は,昭和炭酸社製SCF-1000S型(抽出槽容積1000ml,最高使用圧力40MPa,最高使用温度100℃)を使用した。
 抽出条件はイシル粕100gを用いて抽出温度を35,45,55,70℃と変化させた場合,また抽出圧力を15,20,25,30,35MPaと変化させた場合について脂質の抽出に及ぼす影響を検討した。また,抽出後の脂質と二酸化炭素との分離条件は30℃,4MPaで行った。更に,エントレ−ナ−ポンプを使用してエタノールを添加した場合についても検討を行った。抽出物中のエタノールはエバポレーターにより減圧除去した。

 2.3 超臨界抽出物の脂肪酸の分析
脂肪酸の分析は,林らの方法18)を下記のように改良して行った。抽出物をクロロホルムに溶解し,三フッ化ホウ素メタノ−ル錯体メタノ−ル溶液(和光純薬工業)を加え,80℃で7時間メチルエステル化を行った。反応終了後,冷却して水とヘキサンを加え遠心分離し,ヘキサン層をキャピラリーガスクロマトグラフィ−(GLC)で分析した。GLCの分析条件は以下のとおりである。

ガスクロマトグラフ :GC-17A
(島津製作所社製)
 カラム       :DB-WAX
            (J&W社製 0.25o×30m)
 カラム温度     :150℃→220℃
(昇温速度:2℃/min)
220℃で25min 保持
 注入口及び検出器温度:250℃
検出器   :FID
 キャリア−ガス   :高純度窒素ガス
 スプリット比    :1:50
 注入量       :1μl
 ピ−クの同定及び定量はフナコシ鰍フ脂肪酸メチルエステルの標準物(GLC-403),SIGMA社のEPAメチルエステルを用いて行った。なお,内部標準物質は金庭ら5)の報告に基づき,C23:0(SIGMA社)メチルエステルを用いた。
図2 SC-CO2抽出によるイシル粕からの抽出率に
おける抽出温度の影響(抽出圧力25MPa)

3.結果および考察
3.1 イシル粕の一般成分
抽出に使用した凍結乾燥イシル粕の一般成分を表1に示す。なお,凍結乾燥前のイシル粕の水分はイカイシル粕24.41%,イワシイシル粕48.12%であった。イカイシル粕は粗脂肪が68.11%と大部分を占め,灰分が15.05%,全窒素が2.50%であった。一方イワシイシル粕は灰分が37.39%と最も多く,粗脂肪が28.98%,全窒素が4.92%であった。これは,イカイシルでは原料としてイカの内臓を用いるため脂肪分が多くなり,またイワシイシルではイワシを丸ごと用いるため,魚骨残渣や未分解のタンパク質が多く含まれているためと考えられる。
表1 凍結乾燥イシル粕の一般成分
      イカイシル  イワシイシル
水 分(wt%)灰 分(wt%)粗脂肪(wt%)*粗繊維(wt%)全窒素(wt%)リ ン(wt%)  4.9615.0568.110.032.500.69 2.3237.3928.981.05  4.92  1.07
* CHCl3−CH3OH溶媒で抽出

3.2 イシル粕のSC-CO2処理
 3.2.1 脂質抽出に及ぼす抽出時間の影響

図1 SC-CO2抽出によるイシル粕からの抽出率の
経時変化(抽出温度45℃,抽出圧力25MPa)
抽出温度45℃,抽出圧力25MPa,CO2流量900l/hの一定条件のもとでイシル粕からの脂質抽出率の経時変化を図1に示す。イカイシル,イワシイシルいずれの場合も抽出開始3〜4時間まで抽出率は経時的に増加し,それ以後はわずかに抽出物が得られる程度であった。また,抽出開始1時間前後で最も抽出物が得られた。これらのことから,イシル粕の抽出では4〜5時間の抽出でほぼ定量に達するものと考えられる。
 3.2.2 脂質抽出に及ぼす抽出温度の影響
抽出圧力25MPa,抽出時間5時間,CO2流量900l/hの一定条件のもとで抽出温度を35,45,55,70℃と変化させた時の温度と抽出率の関係を図2に示す。イカイシル,イワシイシルいずれの場合も抽出温度を上昇させても抽出率はほぼ一定の値を示した。このことから,イシル粕からの抽出には抽出温度は抽出率にほとんど影響を与えていないものと考えられる。
 3.2.3 脂質抽出に及ぼす抽出圧力の影響
抽出温度45℃,抽出時間4時間,CO2流量900l/hの一定条件のもとで抽出圧力を15,20,25,30,35MPaと変化させた時の圧力と抽出率の関係を図3に示す。イカイシル,イワシイシルいずれの場合も抽出圧力の上昇に伴い抽出率も増加した。特にイカイシルでは圧力が15MPaから25MPaと高くなると抽出率は急激に増加するが,25MPa以上ではわずかに増加する程度であった。このことから,イシル粕からの抽出には25MPa程度の圧力が必要であると考えられる。

図3 SC-CO2抽出によるイシル粕からの抽出率に
おける抽出圧力の影響(抽出温度45℃)
3.2.4  エントレ−ナ−使用による抽出効果の影響

図4 エントレーナーでのエタノール添加SC-CO2抽
出によるイシル粕からの抽出率の経時変化
(抽出温度45℃,抽出圧力25MPa,エタノール
2ml/min)
SC-CO2に第三物質(エントレーナー)を溶解させ,超臨界混合ガスにすることにより選択的溶解性が著しく上昇することが報告されている19)。そこで,エントレーナーとしてエタノールを用い,その添加効果について検討を行った。抽出圧力25MPa,抽出温度45℃,CO2流量900l/hの条件でエントレーナーポンプによるエタノ−ルを2ml/minで添加した場合の抽出率の経時変化を図4に示す。イカイシル, イワシイシルいずれの場合もエタノ−ルを2ml/minで添加した場合,抽出率が著しく増加し2〜2.5時間でほぼ定量に達している。エントレーナー未使用の場合と比較して,抽出率,抽出時間ともにほぼ1.5倍の効果が得られた。

次に,抽出圧力25MPa,抽出温度45℃,CO2流量900l/hの条件でのエタノールの添加量が抽出率に及ぼす影響について図5に示す。イカイシル,イワシイシルいずれの場合もエタノールの添加量の増加に伴い抽出率の増加がみられた。

図5 SC-CO2抽出によるイシル粕からの抽出率にお
けるエタノール添加量の影響
(抽出温度45℃,抽出圧力25MPa)
これらのことから,エントレーナーポンプによるエタノ−ルを添加する事によって脂質の揮発性が増し抽出されやすくなったと考えられ,エントレーナーの使用はSC-CO2単独での抽出よりもイシル粕からの脂質の抽出に更に効果的であるものと判断できる。
3.3 SC-CO2抽出物の脂肪酸
 3.3.1 SC-CO2抽出物の性質
 抽出圧力25MPa,抽出温度45℃で得られたSC-CO2抽出物とCHCl3-CH3OH混合溶媒で得られた抽出物との性質の比較を表2に示す。表からわかるように,抽出物の性質は原料の違いではほとんど差が見られず,抽出方法の違いにより差が見られた。即ち,抽出物の色は,SC-CO2抽出物は橙黄色,CHCl3-CH3OH抽出物は暗褐色であった。抽出率はSC-CO2抽出の方がCHCl3-CH3OH抽出より低い値を示したが,総脂肪酸量は逆に高い値を示した。また,リン,窒素の含量もCHCl3-CH3OH抽出の方が高い値を示した。一方,酸価値,過酸化物価値はSC-CO2抽出,いずれもほぼ同程度であり,酸価値は非常に高い値,過酸化物価値は低い値を示した。
表2 イシル粕からのSC-CO2及びCHCl3-CH3OH抽
出物の性質
      イカイシルSC-CO2 CHCl3-MeOH イワシイシルSC-CO2 CHCl3-MeOH
色抽出率(wt%)総脂肪酸(wt%)リン(mg/100g)全窒素(mg/100g)酸価値(mg/100g)過酸化物価値(meg/kg) 橙黄色54.6398.0416.00.12 1606.25 暗褐色68.1166.08126.30.891405.10 橙黄色16.8493.9718.40.16101 17.98 暗褐色28.9864.14156.92.0996 16.18
これらのことから,SC-CO2法に対しCHCl3-CH3OH法の総脂肪酸量が低い値を示したのは,リン脂質,色素などの脂溶性物質も抽出されているためと考えられる。また,イカイシル粕中の脂質は酸価値が非常に大きい値を示したことから,原料のイカやイワシ由来のリパーゼなどの作用を受け,大部分が加水分解された遊離の脂肪酸として存在しているものと推定される。
 3.3.2 SC-CO2抽出物の脂肪酸組成
表3 イシル粕からのSC-CO2及びCHCl3-CH3OH
抽出物の脂肪酸組成
脂肪酸 イカイシルSC-CO2 CHCl3-MeOH イワシイシルSC-CO2 CHCl3-MeOH
C8:0C12:0C12:1C14:0C14:1(n-9)C14:1(n-7)C15:0 anteisoC15:0C16:0C16:1(n-7)C17:0C16:2(n-4)C17:1(n-8)C16:4(n-3)C18:0C18:1(n-9)C18:1(n-7)C18:2(n-6)C18:3(n-3)C18:4(n-3)C20:0C20:1(n-11)C20:1(n-9)C20:1(n-7)C20:2(n-15)C20:2(n-6)C20:4(n-6)C20:3(n-3)C20:4(n-3)C20:5(n-3)C22:0C22:1(n-11,13)C22:1(n-9)C22:5(n-3)C22:6(n-3)C24:1(n-9) 痕跡0.16ND*5.520.37痕跡0.160.3823.325.430.230.130.230.182.8212.405.211.00 0.761.070.142.053.340.580.360.14 2.980.260.63 9.04痕跡1.20 0.620.8916.530.11 痕跡0.09ND3.290.23痕跡0.160.2315.843.330.160.080.360.112.108.893.560.690.550.740.111.52.420.280.280.102.13痕跡0.476.22痕跡痕跡1.140.7310.260.09 0.180.44ND9.221.070.120.470.4923.309.590.201.030.112.423.897.144.070.940.601.360.240.951.850.330.120.222.320.120.479.540.301.50 0.77 1.915.90 0.79 痕跡0.27ND5.790.36痕跡0.250.2714.915.880.120.690.281.572.744.162.520.550.301.180.210.771.410.270.11痕跡1.70痕跡0.337.42痕跡1.360.501.416.020.79
総脂肪酸総飽和脂肪酸総不飽和脂肪酸総多価不飽和脂肪酸(n-3)/(n-6)比 98.2432.7331.5433.976.80 66.1821.9821.8422.366.19 93.9738.7328.2926.96.67 64.1424.5618.3021.287.72
* : 検出されず
 イシル粕からSC-CO2及びCHCl3-CH3OHによって得られた抽出物より調製した脂肪酸メチルエステルのガスクロマトグラムの結果から,C8:0からC24:1(n-9)まで多数のピークが検出され,その内主要な36成分を同定した。その脂肪酸組成を表3に示す。主要な脂肪酸はC14:0,C16:0,C16:1(n-7),C18:0,C18:1(n-9),C18:1(n-7),C18:2(n-6),C18:4(n-9),C20:1(n-11),C20:1(n-9),C20:4(n-6),C20:5(n-3),C22:1(n-11,13),C22:1(n-9),C22:6(n-3)であった。脂肪酸組成は, SC-CO2抽出物とCHCl3-CH3OH抽出物とでは大きな差異は認められなかった。イカイシル粕の抽出物中にはC16:0(パルミチン酸)が23.3%,C22:6(n-3)(DHA)が16.5%,C18:1(n-9)(オレイン酸)が12.4%,C20:5(n-3)(EPA)が9.0%であり,イワシイシル粕ではC16:0(パルミチン酸)が23.3%,C16:1(n-7)(パルミトオレイン酸)が9.6%,C20:5(n-3)(EPA)が9.5%,C14:0(ミリスチン酸)が9.2%,C18:1(n-9)(オレイン酸)が7.1%,C22:6(n-3)(DHA)が5.9%と特に多く含まれていた。イカイシルでは飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸は同程度の約32%程度であり,イワシイシルでは飽和脂肪酸が不飽和脂肪酸より約10%高い割合を示した。多価不飽和脂肪酸はイカイシルが約34%,イワシイシルが約27%と非常に高い割合を示しており,イシル粕から得られた脂質は多価高度不飽和脂肪酸を多く含む脂質であった。また,佐々木ら20)及び板橋ら21)の報告による新鮮なイカの内臓やイワシの脂質の脂肪酸組成と本実験のSC-CO2抽出物の脂肪酸組成を比較しても,EPAに若干の差はあるものの大きな差はみられなかった。
ここで,我々はイシル中には抗酸化性物質が存在していることを既に報告22)しており,このイシル中の抗酸化性物質の作用により2年経過したイシル粕の脂質は多価不飽和脂肪酸を多量に含んでいるにもかかわらず,酸化や腐敗による劣化をほとんど受けていない状態で保存されているものと判断される。

4.結  言
SC-CO2を用いて,イシル粕から脂質の抽出を行い,更にその,脂肪酸組成について検討を行った。その結果以下のことが明らかになった。
(1)SC-CO2によりイシル粕から脂質の抽出を行った結果,抽出条件としては,抽出時間4時間,抽出圧力25MPa,抽出温度45℃以上が必要であった。また,これらの条件によりイカイシル粕から約55%,イワシイシル粕から約17%の脂質が得られた。
(2)SC-CO2にエントレーナーポンプでエタノールを添加することにより,SC-CO2単独よりも短時間で脂肪酸を抽出することができた。
(3)SC-CO2によるイシル粕抽出物は多価高度不飽和脂肪酸を多く含んでおり,特にDHA,パルミチン酸,オレイン酸,EPAなどが多く含まれていた。
(4)イシル中の抗酸化性物質の作用により,イシル粕中の脂質は酸化や腐敗による劣化をほとんど受けず,新鮮な原料の脂質とほぼ同程度の脂肪酸組成を示した。

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