全文 (PDFファイル:13KB、1ページ)


 IBAD法により創製したBCN膜の特性
  安井治之* 広瀬幸雄** 粟津薫* 岩木正哉***
   *製品科学部 **金沢大学 ***理化学研究所

研究の背景
ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜は,摺動特性がよく,摩擦・摩耗特性に非常に優れていることから,近年注目されている材料である。しかし,DLC膜は非鉄系材料に対して非常に有効な膜であるが,鉄系材料に対しては効果が薄い。そのため,産業界では鉄系材料に対しても有効な超硬質膜の創製が望まれている。超硬質膜が産業界で使用されるためには,膜の硬さ,相手材との摩擦係数および基板との密着性といった膜の機械的性質が重要である。そこで本研究では,次世代の超硬質膜であるBCN膜に着目し,その創製方法および硬さ,摩擦試験により機械的特性を評価した。

研究内容
BCN膜の創製には,マイクロ波イオン源を備えたイオン注入部と電子ビームによるコーティング部からなるコーティング・イオン注入複合装置を用いた。本研究のイオンビームアシスト蒸着(IBAD)法は,電子ビームにより蒸着材料を気化させて蒸着すると同時に,マイクロ波イオン源によりイオン化した窒素(N)ガスイオンを試料表面に照射する方法により成膜を行った。蒸着材料としては,炭素(C)とホウ素(B)のバルク材(炭化ホウ素(B4C))を用いた。今回創製したBCN膜は,0.2〜0.4μmの範囲の膜厚である。

図 BCN膜の機械的特性
創製した膜の硬さは,超微小硬度計(Shimadzu DUH-50)を用い,試験荷重を9.8mNとし,ビッカース圧子を4.8×10-2mN/secの負荷速度で押し込み,荷重保持後の圧子の最大押し込み深さから硬さを求めた。摩擦試験は,MICRO-SCRACH-TESTER(CSEM MST)を用い,荷重1N一定,スクラッチ速度10mm/min,室温,無潤滑条件で行い,Siウェハー上に創製した各種膜と直径6mmのボールを接触させ,その荷重値と摩擦力から摩擦係数を求めた。ボールの材質は,BCN膜の用途を考えて,ベアリング鋼(SUJ2),ステンレス鋼(SUS440C),アルミニウム合金(A5052)の3種を用い,また,膜構造による結合状態は,ラマン分光法,赤外分光法(FTIR)により評価した。さらに,BCN膜の深さ方向の元素組成比をX線光電子分光法(XPS)で調べた。

研究成果
 優れた摺動特性を示すBCN膜を創製し,機械的特性を検討した結果,以下のことがわかった。
(1)BCN膜の硬さは,DLC膜,BN膜の1.5倍以上であり,非常に硬い膜である。
(2)BCN膜の摩擦係数は,DLC膜の1/3,摺動特性に優れているBN膜と同等であり,ベアリング鋼,ステンレス鋼,アルミニウム合金いずれに対しても低い値を示す。
(3)XPS測定から,BCN膜の最表面は,炭素が多いため摩擦特性は良好であり,摩耗してくると内部はホウ素が多くなり,産業界で求めている摺動特性に優れた特性を示す膜であると考えられる。

論文投稿
 Colloids and Surfaces B 2000 Vol.19 p.291-295



* トップページ
* 研究報告もくじ

概要のページに戻る