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 強磁性材を含むカプセル化分散染料のポリエステルフィルムへの拡散
  沢野井康成* 新保善正* 堀照夫**  Ulrich Meyer***
   *繊維部 **福井大学 ***スイス連邦工科大学

研究の背景
 大量の水や多くの熱エネルギーに加え多種多様な薬剤を使用する染色工業では,環境負荷を低減する染色加工技術が不可欠になっている。筆者らは,先に昇華性染料と強磁性材を含有したマイクロカプセルを用いたポリエステルの乾式染色方法を考案した。本研究では,フィルム巻層法を応用する拡散試験方法により,分散染料と強磁性材をアクリレート樹脂でマイクロカプセル化した染料(平均粒子径:5〜15μm)について,カプセル化や強磁性材が拡散性に与える影響や染色性能の検討を行った。

研究内容
 試験には,モデル分散染料1-アミノアントラキノン(1-AAQ)と実用染料C.I.Sol.Blue 35(Blue 35)およびC.I.Dis.Red 50(Red 50)を使用した。拡散試験は,カプセル化あるいは非カプセル化染料を分散させたPVAフィルムにPETフィルムを巻層後,巻層試料を種々の温度で熱処理して行った。熱処理後,染着したフィルムの濃度分布から拡散係数Dを算出した。表1に,上記で算出したDのアレニウスプロットから拡散の活性化エネルギ(凾d)を求めた結果を示す。各染料ともカプセル化したもの(表中MC-dye)は,カプセル化しないもの(同Free)に比べて,凾dはそれほど大きくはならなかった。これより,アクリレート樹脂を用いてマイクロカプセル化しても,カプセル化による拡散性には,あまり影響しないことが確認された。また,強磁性材を含んだものとそうでないマイクロカプセル化染料で凾dを比較した結果,各染料とも両者間で有意義な差は見られなかった。一方,染色濃度は基質中に拡散した染料量で決まってくる。表2に,カプセル化しない染料とカプセル化したものについて,巻層PETフィルム中に拡散した染料量の比Free/MC-dyeの結果を示す。これより,染料をカプセル化しない方がしたものに比べて,Blue 35では約3倍,Red50では約4倍多くなった。このことから,マイクロカプセル化染料を用いて,より高い染色濃度を得るには,染料含有率が高いマイクロカプセル化染料の使用が有効であると考えられる。                                                  
 
研究成果
 実用染料と強磁性材をアクリレート樹脂を用いてマイクロカプセル化した染料において,カプセル化や強磁性材が拡散性に及ぼす影響は少ないことが明らかとなった。また,マイクロカプセル化染料を用いた実用的な染色には,カプセル内の染料含有量が重要となることを確認できた。

論文投稿
 繊維学会 2000 Vol.56 No.12 p.561-568



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