平成10年度研究報告 VOL.48
海外産学官研究交流事業報告
−イタリア織布技術の調査と技術交流−


3.最新イタリア織物の調査
 イタリアの最新織物技術を把握するため,MODA INやIDEA COMO等の織物見本市を調査した。MODA INは,平成10年9月27日〜29日に,ミラノ国際見本市会場にて開催され,企業出展583社(伊420社,その他163社),来場者25,300人(伊18,600人,その他6,700人)であった。今回のMODA INは,1999/2000年の秋冬コレクション向けであり,これらの生地をもとにして,1999年の春に,同時期をターゲットとした「MODAMILANO」のアパレル見本市が開催される。
 MODA INは,[1]シャツ部門:シャツ・ブラウス用生地,[2]レジャー部門:スポーツウエア・レジャーウエア用生地等,[3]ファンシー部門:レディースアパレル用生地,プリント生地,レース生地等,[4]アクセサリ部門:ラベル,ボタン,バックル等,[5]情報部門:トレンドハウス,モード誌編集社等の5つの部門に大別される。このような見本市は,テキスタイルやアパレルメーカーにとって,重要なミーティングポイントであり,商談だけでなく,ファッションの方向性を確実に見出すワークショップとしての役割も担っている。表2に,1999/2000年の秋冬コレクションの特徴を示す。

 また,織物見本市と企業調査によって,イタリアにおける最新織物サンプル約100点の収集を行った。収集した織物サンプルについて,シルク研究所と共同で,糸種,繊度,撚数,織物組織等の製造条件(織物分解設計)の解析を行った。
 イタリアにおける織物分解設計手法は,日本との大きな違いはないが,糸の太さが,デニール式と番手式が混在して使用されている日本と比較し,いち早く標準規格のテックス式に統一されていた。また,その手順は大別して,[1]織物の表裏の判定,[2]織物の経緯方向の判定,[3]経緯糸の判定,[4]織物の経緯密度の判定,[5]織物縮度の判定の順に行われる。
 収集した織物サンプルは,絹や綿の天然素材を用いたコモ地区の伝統的な織物素材から,ポリエステルやナイロンの合成繊維100%の織物,ストレッチ性のある織物が含まれている。絹織物を中心に製造条件の解析を行ったが,それ以外は糸種の判別を中心に解析を行った例もある。図2に織物サンプルの経糸の分類割合を示す。今後,収集した織物サンプルについては,逐次,工試にて解析を行い,データベース化する予定である。織物分解設計技術は,織物サンプルの製造条件を解析し,その織物サンプルの再現及び発展を検討するものであり,今後,持ち帰った織物サンプルを,県内企業への指導に役立てることを検討している。シルク研究所で解析を行った織物製造条件と織物組織の一例を表3と図3に示す。

表2 MODA INの特徴(1999/2000年秋冬)
分野 特徴
染色 均一ではない着色で、斑のある特殊な染色加工
(例:単色であるように見えて単色ではない色、メランジュ、ビゴール等)
糸素材 異なった種類の糸を組合せた新しい糸素材
(例:天然素材と人工素材、フィラメントとカルダートの組合せ等)
表面加工 伝統的な素材の限界を超えた触感を追求した
表面加工
(例:メッキをしたような感触、フェルト調の触感等)
図2 経糸の割合


表3 織物製造条件

項目 内容
経糸 [1]絹:7.0tex  S2,300T/m
[2]絹:4.6tex  Z2,300T/m
緯糸 [1]絹:4.6tex  S2,300T/m
[2]絹:4.6tex  Z2,300T/m
織物密度 経:137本/cm
緯:42本/cm
縮度 経:13.0%
緯:9.1%
図3 織物組織図


4.その他
4.1 繊維産業界及びインスブリア大学との交流
 ミラノ市及びコモ市の両シルク研究所において,製織準備工程における自動張力制御システムや繊維廃棄物のリサイクルに関する研究成果の紹介を行い,製織準備工程における生産管理やリサイクル技術について意見交換を行った。また,シルク研究所を拠点として,コモ地区繊維産業の調査を実施した際,上記に示す研究成果や工試の業務内容の紹介を行った結果,強い関心が寄せられた。特に,ボゼリグループ代表であるピエロ・ボゼリ氏(図4)より,今後も技術交流の要望があり,さらに,インスブリア大学において,コモ地区繊維産業界が資金を提供し,その研究者を海外の研究所へ派遣する制度を利用して,将来,工試に派遣したいという提案があった。

図4 ピエロボゼリ氏(左)とともに
図5 イタリア柄浴衣


4.2 イタリアデザイン柄による浴衣の試作
 イタリアでは,近年,日本の和装に対する関心が強まっているため,工試では,イタリアデザイン柄と石川県の伝統産業である加賀友禅への応用を模索している。本事業では,平成9年度より実施している研究交流の成果の一端として,県内企業と共同でイタリア柄を用いた浴衣の試作を行った(図5)。この浴衣は,県内企業と共同で,イタリアによる染色と織布技術の調査結果を基に,工試で企画したポリエステル織物素材を用いて,イタリア柄を捺染加工して試作を行った。

5.結言
 今回,シルク研究所を拠点として,研究交流を行い以下の成果を得た。
(1)コモ地区繊維産業における織布技術について調査した結果,製織準備工程で全自動サンプリング整経等が導入されているなど,多品種少量生産体制が確立されていた。
(2)織物見本市等を調査し,最新織物サンプルの収集を行った。そのサンプルについてシルク研究所と共同で,製造条件の解析を行った。その結果,IDEA COMO等の織物見本市で出品される織物の傾向において,すでに合成繊維単独または天然繊維との複合素材が多数出展され,今後,合成繊維の比率の増加が予想されている。その理由として,世界の人口増加による食料増産の必要性から,天然繊維の耕作面積と生産量の減少が予想され,このことから,絹織物が盛んなコモ地区繊維産業界においても,合成繊維の技術に強い関心を示している。
 最後に,繊維産業の先進国であるイタリアで繊維技術者と交流を持てたことは大きな財産であり,今後この調査結果や収集した織物サンプルのデータを県内企業の振興に役立てていきたい。


謝辞
 本研究交流を遂行するに当たり,終始適切なご助言を頂いたシルク研究所のマッカンダーリ所長,コロンナ博士,マサフラ博士,バルテル氏に謝意を表します。また,本研究交流のイタリア滞在中にお世話になったジェトロ・ミラノ事務所に感謝します。

参考文献
1)木水貢:海外産学官研究交流事業報告,石川県工業試験場報告,No.47,p105-108(1998)
2)森大介:コモ滞在記,新繊維特報,第13826号,1999


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