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中小企業への技術支援と県内表面改質技術の国際化および高度化を図るため,技術支援で評価の高いドイツのシュタインバイス財団を訪問し,技術移転のノウハウと,ドイツにおける表面改質技術の現状と今後の開発動向を調べた。また,イオンビームを利用した表面改質技術についてドイツの国立重イオン科学研究所と共同研究を行った。その結果,同財団は,技術課題の的確な解析と企業ニーズに合った技術移転および事業展開のプロジェクトマネージメントを行って技術移転を成功させていた。ドイツにおける表面改質技術は,物理的気相堆積法によるセラミックコーティング処理が主流で,これからは,大面積で複雑形状の部材に均一で密着性の良いコーティング処理技術の開発が求められていることが窺われた。また,共同研究の結果,イオン注入を利用した表面改質技術で次世代コーティング膜である硬質炭素膜の硬さや密着性の向上が図れることが明らかになった。
キーワード:シュタインバイス財団,ドイツ国立重イオン科学研究所,表面改質,イオン注入,硬質炭素膜
Report of the International Research Exchange Program with the Industry,
University and Government Cooperation
-Research Exchange on Surface Modification Technique Using Ion Beam in
Germany-
Yoshinori FUNADA
The technological support performed by Steinbeis foundation has a good
reputation for the medium and small sized companies in Germany. The knowhow
needed to perform the technology transfer and the tendency of the surface
treatment technology were investigated at Steinbeis foundation. Furthermore,
the advanced surface modification technique using the ion beam was researched
in cooperation with Gesellschaft fur swerionenforschung (GSI). The results
of the investigation show that the exact analysis of the problems, the
proper transfer of technology and the project management are important
in performing the technology transfer. In Germany, the ceramics coating
by the physical vapor deposition is used the most frequently and it is
hoped to develop the surface modification techniques to coat the works
with adhesive films uniformly. As the results of the research, it is found
that the hardness and the adhesion strength of the super hard carbon film
can be improved by using the high energy ion implantation technique.
Key Words:Steinbeis Foundation, Gesellschaft fur swerionenforschung, surface
modification, ion implantation, super hard carbon film
1.緒言
工業試験場では,中小企業の技術の高度化,国際化を支援するため,ドイツ・シュタインバイス財団とその関連研究所に職員を派遣する海外研究交流を平成9年度より実施している。前年度の交流事業では,同財団の優れた技術支援体制と工作機械業界に対する技術指導例を調査した。その中で,大学などが有する先端技術の中小企業への技術移転に数多く成功していることが報告されている1)。
そこで,同財団の下部組織である表面技術トランスファーセンターを訪問し,技術移転に関する事例やその取り組み方についてのノウハウを調査した。また,県内の表面改質技術の高度化および国際化を支援するため,ドイツにおける表面改質技術の動向を調査するとともに,高エネルギーイオン注入技術を利用した表面改質技術について,ドイツ国立重イオン科学研究所(Gesellschaft
fur Schwerionenforschung:以下GSI)と共同研究を行ったので,以下に報告する。
2.シュタインバイス財団における技術移転
シュタインバイス財団の下部組織である表面技術トランスファーセンターは,主に機械部品の摩擦・摩耗や各種表面処理に関する技術課題を担当し,企業への技術移転などの技術支援を行っている。図1は,アルミ缶成形企業に対して以下に述べる理念で先進の表面処理技術を技術移転し,製造コストの低減を図った事例である。
(1)技術課題の的確な解析
技術移転でまず最初に行われるのは,技術課題の解析である。図1の例では,技術課題の慎重な解析の結果,製造コストの低減には,成形金型の長寿命化と加工速度の増加が効果的であり,そのためには,強靱かつ高強度な金型素材の選定と表面処理による金型表面の耐摩耗性向上が必要と判断された。
企業が抱える課題は,技術的要素だけでなく,それを取り巻く組織的,教育的,経営的問題が相互に関わる場合が多い。また,その解析は,後の技術移転の内容や成否を大きく左右するため,それらを考慮した的確な解析が求められる。
(2)企業ニーズに合った技術移転
技術移転によって提供される新技術は,技術課題の解析によって明らかにされた問題を効率よく解決できなければならない。図1は,金型の長寿命化と加工速度増加を図るため,粉末工具鋼技術とチタンアルミコーティング処理技術に関する研究成果の移転を示す。 このように,技術移転を踏まえた研究開発を行うときに重要なのは,技術仕様の単なる高度化ではなく,企業にどのように役に立つか,また,企業が抱える課題を解決できるかどうかである。このように,企業側に立脚した視点で研究開発や技術移転が進められることが重要である。
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図1 アルミ缶製造コスト低減のための技術移転事例 |
(3)プロジェクトマネージメント
技術移転に関わる基礎実験や実証化試験の実施には,技術を提供する研究機関と企業の協力が重要であり,その活動は長期間にわたる。したがって,技術移転を成功させるには,これをプロジェクト化し,その活動を逐次,厳重に管理および評価するプロジェクトマネージメントが必要である。
図1の例では,各研究機関と企業が共同で,金型寿命試験や対アルミ摩擦摩耗試験などの基礎実験と実際の製造ラインに組み込んだ実証化試験を実施した結果,金型の寿命向上と加工速度を増加させることができた。さらに,製造コスト低減の達成だけでなく,製造ラインの安定や製品の品質向上を図ることができた。
以上の理念のもと,表面技術トランスファーセンターは,年間20件以上の技術支援プロジェクトを取り扱い,技術移転において多くの成功を納めている。
3.ドイツの表面改質技術動向
県内の表面改質業界における技術の国際化を支援するため,表面技術トランスファーセンターにおいてドイツにおける乾式表面処理技術の現状と今後の開発動向を調査した。表1は,ドイツの乾式表面処理における処理技術や適用分野,コーティング膜種類などを市場占有率で整理した結果である。
ドイツでは,機械,電子,精密工業分野での乾式表面処理が全体の70%以上を占め,処理方法としては,PVD法が最も多く,全体の60%近くを占めている。PVD法は,CVD法に比べて処理温度が低く,処理部材に与える熱影響や寸法変化は少ない2)。したがって,工業製品の小型化,高機能化が進む現在,部材の寸法を高精度に維持するために,PVD法が多く利用されているものと考えられる。また,乾式表面処理のほとんどがセラミックスコーティングによるものであることから,その目的は,部材の耐摩耗性向上や防食にあると考えられる。
さらに,ドイツでは,大面積かつ複雑形状の部材に対して,均一で密着性の良いコーティング技術の開発が求められており,この方面での技術開発を行えば,県内表面改質企業による欧州市場の開拓が進むことが期待できる。
表1 ドイツの乾式表面処理市場動向(1996年度)
分類 | 項目 | 占有率% |
適用分野 〔ドイツ経済研究所調べ〕 |
機械工業 電子工業 精密・光学機械工業3 プラスチック工業 その他 |
43 18 13 9 17 |
処理方法 〔VDI技術センター調べ〕 |
PVDコーティング技術 CVDコーティング技術 その他 |
59 36 5 |
膜種類 〔表面技術トランスファーセンター調べ〕 |
チタン系セラミック膜 クロム系セラミック膜 その他 |
91 5 4 |
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