平成10年度研究報告 VOL.48
インテリア・ニーズに対応した建具デザインの指導事例


2.3 デザイン開発の方向性の検討
 インテリア・ニーズに関する調査結果を踏まえて,講師と受講者で,開発する建具デザインについて検討を行った。決定したデザイン開発の方向性をまとめると次のようになる。
(1)新素材の活用
 新しい素材を建具素材として取り入れることによって,新しいデザインを提案する。
(2)健康住宅やバリアフリーへの対応
 住宅に関する健康ニーズやバリアフリー化への要望に対応した,新しい機能をもつ建具のデザイン開発を行う。
(3)伝統建具のモダン化
 田鶴浜建具産地の組子技術や塗り技術を生かしながら,モダンなインテリア空間に合うデザイン提案を行う。
(4)新しい製品領域への挑戦
 和室と洋室の境で使う建具,窓の内側にあるブラインドの代わりとなる建具,フレキシブルに室内空間を間仕切るためのパーティションなど,従来の製品領域以外での製品開発を行う。
2.4 デザイン開発
 研修会で決定したデザイン開発の方向性に基づき,工業試験場と外部講師メンバーで,開発製品のアイディア・スケッチを作成した。その内容は次のとおりである。
(1)超軽量不燃ボード組子障子案20点
 超軽量不燃ボードは段ボールと同じ構造で,難燃性パルプとガラス繊維から成る難燃紙を用いているため,非常に軽くて汚れにくく,燃えにくい特性をもつ半透明の新素材である。この新素材にモダンな組子を合わせることによって,和室と洋室の境に使える障子とした。また空間を間仕切る吊り戸形式のパーティションとしても使えるように,従来の建具よりも高さ寸法を大きくしてある。
 またこれとは別に,受講者側からも約20点の組子のアイディア・スケッチが提出された。
(2)窓の内障子,引き戸案5点
 ブラインドの代わりに窓の内側で使う建具として,伝統的な摺り上げ障子,無双(むそう)窓付き引き戸,蔀戸(しとみど)などをモダン化し,洋室でも和室でも使えるようにした。また摺り上げ障子の上げ下げや無双窓,蔀戸の開け閉めで,建具の表情の変化を楽しめるようにした。
(3)乱れ組子透かし戸案1点
 田鶴浜建具産地の組子技術と塗り技術を生かし,従来の簾戸(すだれど)に変わる建具としてデザインしたものである。これも和室と洋室の境で使うことを意識した。
(4)多機能パーティション案1点
 室内空間を間仕切るための自立型のパーティションで,収納機能,照明機能などを併せ持つものとした。またワーロン・シートや布,組子などで,パーティション面のデザイン構成を行った。
(5)曲面組子を応用した製品案1点
 従来の組子の発展形として,二次曲面及び三次曲面の組子を提案した。これにより,組子技術を生かした曲面デザインの照明やパーティションへの展開が可能と考えられた。
 研修会では,作成したアイディア・スケッチを基に,受講者とデザインや製作技術の検討を行い,次の5種7点のデザイン案の図面を作成することを決定した。図面作成は講師側が担当した。
・超軽量不燃ボード組子障子 3点
・変則摺り上げ障子 1点
・乱れ組子透かし戸 1点
・多機能パーティション 1点
・曲面組子の照明 1点

2.5 CGによるデザイン案の検討
 工業試験場と田鶴浜町社会教育課が協力して,三次元CGを利用したコンピュータ上でのデザイン案の検討を行った。その手順及び結果は次のとおりである。
 まずデザイン案の製品モデルを,マッキントッシュの三次元CGソフト(from Z)を使って作成した。そのデータをDXFファイル形式で,シリコン・グラフィックスの三次元CGソフト(Alias)に渡してリアルなCG描画を行い,製品の高品質なCG画像を得た。このCG画像を用いて,製品試作を行う前にデザイン案の検討を行った。
 次に,建具が置かれる空間モデルとして,和室とリビングルームをform Zを用いて作成した。そして先に作成した製品モデルとこの空間モデルを,VRMLファイル形式で出力し,これらを素材として対話型アプリケーション作成ソフト(Cosmo Worlds)で編集を行った。編集したファイルを,インターネツト・ブラウザのビューア・ソフト(Cosmo Player)を介することによって,建具がインテリア空間の中に置かれている状況をインタラクティブにシミュレーションし,デザイン案の検討をさらに行った。
 図3は,建具の設置状況をシミュレーションしているコンピュータ画面である。

図3 建具の空間シミュレーション


2.6 製品試作
 講師側が作成した図面を基に,受講者と試作品製作の打ち合わせを行った。結果として,曲面組子の照明を除く,4種6点の実物試作を行うことを決定した。曲面組子は製作する上で解決しなければならない技術上の問題点が数多くあり,今後の課題とした。
 実際の製品試作には,研修会受講者の若手メンバーが中心となり,二人一組となって取り組んだ。図4〜7は,今回作製した試作品の写真である。

2.7 成果の普及
2.7.1 試作品の合評会の開催
 研修会成果の普及を目的に,産地内で組合員を対象とした,試作品の合評会を開催した。合評会では,今回製作した試作品を展示し,講師と受講者の両方からデザイン開発の意図や製作上苦労した点などについて発表を行った。また合評会参加者から,試作品に関する意見を頂くとともに,商品化への課題について協議した。図8に合評会風景を示す。

図4 超軽量不燃ボード組子障子 図5 変則摺り上げ障子

2.7.2 建具展示会への出品
 同じく成果の普及を目的に,次に示す建具展示会で出品展示を行った。
(1)「いしかわの建具展」
会期:平成11年5月27日〜6月7日
会場:石川県地場産業振興センター展示ホール
内容:石川県建具協同組合参加企業の新作建具の展示
(2)「第33回全国建具展示会」
会期:平成11年6月11日〜6月13日
会場:石川県産業展示館4号館
内容:全国建具産地の新作建具の展示
 特に全国建具展示会には,全国建具組合連合会石川大会が開催されたため,県内外から数多くの業界関係者が来場し,研修会の成果品に注目が集まっていた。図9に全国建具展示会での展示風景を示す。
 また現在,試作品は,田鶴浜町のサンビーム日和ヶ丘ホール・ロビーで常設展示されている。

図6 乱れ組子透かし戸 図7 多機能パーティション

2.8 建具デザイン調査
 研修会の一環として,受講者と講師が,京都市で建具デザインに関する視察調査を行った。日程及び内容は次のとおりである。
平成11年2月26日
・角屋(すみや)
 江戸期の町屋建築の建具デザインについて
・京都市工業試験場
 京都市の工芸振興に関する指導,研究について
・(株)森本錺(かざり)金具製作所
 寺社,仏閣の釘隠や襖引手について
平成11年2月27日
・京都駅ビル
 新しい複合商業施設のインテリアについて
・シムス
 インテリア空間での創作和紙の利用について
・唐長(からちょう)
 京からかみについて
・細見美術館
 茶の湯の室礼(しつらえ)について

図8 合評会風景 図9 全国建具展示会での展示風景

3.結言
 田鶴浜産地での建具デザイン研修会を通じて行ってきた指導の成果をまとめると次のとおりである。
(1)研修会を通じて,新しい素材の活用,伝統建具のモダン化,新領域の製品開発の3つの視点から,今日のインテリア・ニーズに対応した具体的なデザイン開発と4種6点の製品試作を行った。
(2)三次元CG技術を利用してデザイン案の検討を行う合理的なデザイン開発技術を,建具デザインに応用した。
(3)合評会の開催や全国建具展示会への出品展示など,研修会成果の普及を行った。
 なお,今回,健康住宅やバリアフリーへの対応といったデザイン開発の方向性に関して,具体的なデザイン開発を行わなかった。今後,機会があれば,是非取り組みたい課題である。

参考文献
1)田鶴浜町編:田鶴浜町建具デザインシミュレーション事業報告書,1997


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