平成10年度研究報告 VOL.48
インテリア・ニーズに対応した建具デザインの指導事例
製品科学部 志甫雅人 梶井紀孝 近岡和英


 近年の消費者ニーズの多様化や住宅様式の洋風化に対して,県内建具業で生産される製品が,十分対応していないことが問題点として上げられている。そこで田鶴浜建具工業協同組合の組合員を対象に,計12回の建具デザイン研修会を開催し,建具デザインに関する技術指導を行った。その結果として次のような成果を得た。
(1)研修会を通じて,新しい素材の活用,伝統建具のモダン化,新領域の製品開発の3つの視点から,今日のインテリア・ニーズに対応した具体的なデザイン開発と4種6点の製品試作を行った。
(2)三次元CG技術を利用してデザイン案の検討を行う合理的なデザイン開発技術を,建具デザインに応用した。
(3)合評会の開催や全国建具展示会への出品展示など,研修会成果の普及を行った。
キーワード:建具,デザイン,CG

Guidance of Fittings Design Which is Conformable to the Needs for Interior Design

Masahito SHIHO, Noritaka KAJII and Kazuhide CHIKAOKA

 Recently, while the needs of a consumer become various and the Western-style houses increase,it is problem that the fittings made in Ishikawa prefecture do not conform to the needs for interior design. So we held the training course of fittings design for Tatsuruhama-machi joiner's union and educated the union members. As the result,
(1) In the following three points of view, practical use of new material, modernization of the traditional fittings and design development of new category, we developed new design and manufactured six trial models.
(2)We applied the technology of the rational design development to fittings design by using 3D-CG simulation.
(3)We diffused the result through the presentation in Tatsuruhama-machi joiner's union and the exhibition in the Japan Fittings Show.
Key Words:fittings, design, CG

1.緒言
 近年の消費者ニーズの多様化や住宅様式の洋風化に対して,県内建具業で生産される製品が,十分対応していないことが問題点として上げられている1)
 そこで,今日のインテリア・ニーズに対応した新しい建具デザインの開発を目的に,田鶴浜建具工業協同組合の組合員を対象とした,計12回の建具デザイン研修会を開催した。研修会では,インテリア・ニーズやデザイン開発の方向性について検討を行い,それを踏まえて田鶴浜建具産地の特徴を生かしたオリジナル・デザインを開発し,最終的には4種6点の試作品を製作した。またCG技術を利用して,研修会でのデザイン案の検討を行った。以下にその内容及び経過について報告する。

2.内容
 研修会では,産地技術者が,今後のデザイン開発に必要な知識や技術を習得し,研修会を通じて具体的なデザイン開発と製品試作を行うことを目標とした。ここでは研修会での指導経過について説明する。

2.1 建具デザイン研修会の概要
 研修会の参加者,指導体制,場所,経過は次のとおりである。
(1)参加者
田鶴浜建具工業協同組合組合員17企業17名
(2)指導体制
工業試験場
田鶴浜町教育委員会社会教育課
田鶴浜建具工業協同組合

外部講師:
石川県インテリア産業協会会員
村上建築設計研究所所長  村上章彦
(株)タクミ環境デザイン研究所専務取締役  尾山淑朗
八千代化工(株)統括部長  斉藤重美
(株)サカエ工務店代表取締役  大島正之
(株)浦建築研究所企画デザイン室長  小杉俊雄
金沢美術工芸大学助教授  角谷 修
(3)場所
田鶴浜町ふるさと交流センターOA学習室
田鶴浜建具工業協同組合会議室
田鶴浜町農村環境改善センター多目的ホール
(4)経過
平成10年
9月29日 インテリア空間の動向について(1)
9月30日 インテリア空間の動向について(2)
10月8日 消費者ニーズと建具について(1)
10月9日 消費者ニーズと建具について(2)
10月22日 デザイン開発の方向性について(1)
10月23日 デザイン開発の方向性について(2)
11月21日 デザイン開発の方向性について(3)
12月12日 試作アイテムの決定
平成11年
2月5日 試作品の製作打ち合わせ
2月26日 建具デザイン調査(京都市)
2月27日 建具デザイン調査(京都市)
3月19日 試作品の合評会
 研修会受講者は,連続して出席できることを前提に組合が募集した17名で,産地の若手技術者が中心となった。また指導体制としては,外部講師に石川県インテリア産業協会理事長はじめ協会メンバー6名が参画し,工業試験場と連携をとり指導にあたった。外部講師はいずれも,実際の住宅設計や商業空間設計に関して豊富な経験を持ち,インテリア空間の設計者の立場から,実質的な指導協力を得た。さらに研修会開催場所としては,産地内の研修施設及び組合会議室等を利用した。
 研修会では,(4)経過で示したテーマに関して講師側から話題提供を行い,質疑応答や討議を通じて,受講者がデザイン開発に関する理解を深めるように務めた。また通常の製造業務に支障が無いように,夜学の形式で研修会を開催した。図1に研修会風景を示す。

図1 田鶴浜産地での建具デザイン研修会


2.2 インテリア・ニーズ調査
2.2.1 手順
 デザイン開発の方向性を決定していく前提として,インテリア・ニーズ調査を行った。研修会の事前に工業試験場と外部講師メンバーが協議し,インテリア空間の動向及び消費者のインテリア・ニーズの変化といった視点から,文献調査の方法をとった。調査を行った文献は,インテリア,住宅,商業空間,建築,建具関連の雑誌,図書で,代表的なものを次に示す。
(1)雑誌
1)新建築,(株)新建築社
2)コンフォルト,(株)建築資料研究社
3)商店建築,(株)商店建築社
4)建築画報,(株)建築画報社
5)住宅に生かす和風のディテール 木原千利特集,(株)彰国社
6)木原千利作品集,(株)建築資料研究社
(2)図書
1)角屋,(株)中央公論新社
2)数寄屋建築意匠集成,毎日新聞社
 文献調査では,最近のインテリア・デザインの傾向やインテリアに対する消費者ニーズを良く表していると思われる写真を収集し,整理を行った。また外部講師メンバーがこれまで担当した設計事例の写真も併せて収集,整理を行った。
 次に,これらの写真をスキャナーでパソコン入力し,プレゼンテーション・ソフト(Microsoft Power Point)を用いて,コンピュータ上に147枚のプレゼンテーション・パネルで構成されるインテリア・ニーズに関する資料を作成した。図2に作成した資料のコンピュータ画面を示す。

図2 インテリア・ニーズの資料画面


2.2.2 結果
 文献調査で,最近のインテリア・ニーズやインテリア空間の動向に関して次のことが明らかとなり,研修会で話題提供と検討を行った。
(1)OSB,MDFなどの木質系ボードを内装仕上げ材として用いる設計事例が多い。
(2)伝統的素材の和紙が見直されており,壁装や建具に利用されている。
(3)金属,アクリル,ガラス,シート素材の新素材が数多く開発されており,木質材料と組み合わせて建具に利用されている。
(4)ポリカーボネート・ボードや超軽量不燃ボードなどの軽く透光性のある素材を開口部や壁に用いて,やわらかく空間をつないでいる。
(5)質感のある加飾塗装で製品の付加価値を高めている。
(6)換気,防音,防臭,防火,断熱,気密などの点で快適,健康,安全住宅への配慮が高まっている。
(7)バリアフリー・デザイン住宅への要望が高まっている。
(8)屋外に面した開口部の建具を利用して,外光を調整,演出する和風建築の伝統が見直されている。
(9)建具を用いて部屋と部屋または室内と屋外の空間の一体感を意図した設計事例が多い。
(10)伝統的な組子,格子,桟を生かしたモダンなインテリア・デザインが多い。
(11)和風建築に使われてきた伝統的な建具デザインの中に,現在でも十分にモダンと感じられ利用できるものが多い。
(12)和室と洋室の境で使える建具が少ない。
(13)広い空間をパーティションなどで間仕切って,空間をフレキシブルに使っている。
(14)開口部及び建具のモジュールが多様化している。
(15)建具に収納機能を付けるなど,新しい機能を付加した商品が見られる。
(16)金具,引手,ハンドル,飾り金具などで,建具,家具のデザイン性を高めている。
(17)曲線,曲面を採り入れた建具デザインが数多く見られる。
(18)色のグラディエーションや対比など,色彩計画が考えられている建具が多い。
(19)組子や桟などの建具製造技術を利用した,照明,間仕切り,ガーデニング用品の新商品が見られる。
(20)欧米や韓国などの様々な様式を建具デザインに採り入れている。


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