平成10年度研究報告 VOL.48
中能登地域における織物設計・製造技術の指導事例
繊維部 新谷隆二 新保善正 中村清光 浜出三郎


 中能登地域織物業は,個々の企業が持つ製織技術力を高めるとともに,多様なニーズに対応できる企画力と商品開発力を身に付ける必要がある。そこで,「商品の企画開発」と「製品の品質評価」を支援することにより,新製品を開発し,提案できる企業群の育成を図る。商品の企画開発支援のため,ドビー付織機で織物を製造するときの設計図となる織方図を作成するパソコン用ソフトウェアの開発と電子ジャカードシステムを用いた壁装材の試作および織物組織サンプル帳の製作を行った。
 開発した織り方図作成ソフトウェアにより,組織図から紋栓図,引込図を迅速に描くことが可能となった。また,たて糸とよこ糸の密度に合わせたデザイン図を描くことができるため,製織する前に織物の外観を把握することが可能となった。
キーワード:織物,ドビー,組織図,ソフトウェア

Guidance on Textile Design and Weaving Technique in the Naka-Noto Area

Ryuji SHINTANI, Yoshimasa SHIMBO, Kiyomitsu NAKAMURA and Saburo HAMADE

 The medium and small size of weaving companies in Naka-Noto area should have a plan and a development of new textile for various needs with improving their own weaving technique. These weaving companies will be possible to develop a new product by supporting the design and the quality evaluation of textile. The software that makes a stitch diagram for Dobby textile was developed. The stitch diagram is a design for weaving fabric made by a loom with Dobby. The lifting diagram and the looming diagram will be able to analyse quickly from the stitch diagram by using the developed software for Dobby textile. The style of the textile can be understood by a colored picture of the stitch diagram that adjusted the density of warp and weft before weaving. Samples of wall cloth and stitch pattern are made by using a loom with electric controlled Jacquard system. The weaving companies in Naka-Noto area develop a new product by utilized the developed software and samples of stitch pattern.
Key Words:textile, Dobby, stitch diagram, software

1.緒言
 中能登地域(1市15町)の織物業は,素材的にはポリエステル長繊維,用途的には衣料用が大半を占めており,広幅織物の産地を形成している。また,賃加工形態が多いことと,近年のアジア諸国製品の品質向上により,従来からの生産品では競争力を失ってきている。
 この状況の中で地域の織物業が活性化するには,企業の持つ製織技術力を高めるとともに,多様なニーズに対応できる企画力と商品開発力を身に付ける必要がある。そこで,中能登地域織物業に対して「商品の企画開発」と「製品の品質評価」を支援することにより,新製品を開発し,提案できる企業群の育成を図ることを目的としている。
 今回,商品の企画開発支援のため,ドビー付織機で織物を製造するときの設計図となる織方図を作成するパソコン用ソフトウェアの開発と電子ジャカードシステムを用いた壁装材の試作および織物組織サンプル帳の製作を行った結果を報告する。

2.織方図作成ソフトの開発
2.1 織物設計の概要
 図1にドビー付織機で織物を製造する際に行う織物設計の概要を示す。織物の設計にあたっては,使用する糸の種類,織物の幅と長さを決定し,糸量を計算する。
 ドビー付織機で織物を製造するには,織物の組織図から織機開口装置であるドビー装置を動作させるための紋栓指示書とたて糸を綜絖枠に装着するための引込指示書を作成する必要がある。
 この時の組織図,紋栓図および引込図をまとめて織方図と呼ぶこととし,この織方図をパソコンで作成可能としたものが織方図作成ソフトである。図2に織方図の概略を示す。図は1/2の綾織りの組織図を綜絖枠12枚使いで引込を順通しとして,紋栓図と引込図に分解したものである。ここで,紋栓図と引込図の描画点を綜絖枠の番号に置き換えたものが紋栓指示書と引込指示書となる。

図1 織物設計の概要
図2 織方図


2.2 織方図作成ソフトの基本仕様
 近年のパソコンの進歩はめざましいものがあり,安価で性能の良いパソコンが中小企業においても導入されている。そこで,最近のパソコンのオペレーティングシステムであるウィンドウズで使用可能なドビー織物用の織方図作成ソフトウェアの開発を行った。開発した織方図作成ソフトの基本仕様を以下に示す。
(1)動作環境
OS:Windows 95
メモリ:8 Mbyte以上
ハードディスク容量:50 Mbyte以上
表示:800×600ドット以上
印刷:Windows対応プリンター
(2)機能
描画機能:マウスの左ボタンで描画,右ボタンで消去する。また,マウスの代わりにキーボードによる描画,消去も設定可能である。さらには,1点描画,ライン描画,BOX描画のツールが用意されている。

編集機能:領域指定をすることにより,領域内の描画点をコピー,切取することが可能である。また,描画点を反転(上下,左右,○×)する。ここで,○×は描画点と消去点を入替える操作を表す。

印刷機能:作成した織方図および紋栓指示書,引込指示書,色を付けたデザイン図を印刷する。

2.3 組織図解析機能
 図2に示したような簡単な組織の場合,組織図から紋栓図と引込図を描くことは容易である。しかしながら,梨地組織と呼ばれる複雑な変化平組織(例えば,組織サイズが120×120)の場合は,組織図から紋栓図と引込図を描くにはかなりの時間を要する。また,紋栓と引込の数値データしか分からない場合があり,どのような組織になるか理解することができない。そこで,次の解析機能を備えることにより,織方図の作成時間の短縮化を図っている。
(1)組織図から紋栓図・引込図の解析
 入力された組織図から異なる組織点となるたて糸を抜出し,紋栓図・引込図として描画する。この時引込図は順通しとなるように設定されている。
(2)紋栓図・引込図から組織図の解析
 入力された紋栓図と引込図に従い,組織図を計算・描画する。
 また,組織図と紋栓図から引込図を作図することや組織図と引込図から紋栓図を作図することも可能である。
 図3(a)と(b)は,組織図から紋栓図・引込図を解析した例である。図3(a)のとおり,組織図を入力した後,「ツール」メニューの「解析」−「紋栓・引込図」をマウスでクリックすることにより,図3(b)のように紋栓図と引込図が自動的に描画される。

(a)組織図 (b)紋栓・引込の自動描画
図3 組織図解析機能

2.4 組織の合成機能
 本ソフトは,複雑な織物組織の作成や二重織り組織の作成を容易にするために,既に作成されている組織図を合成する機能も備えている。図4に組織合成を行うためのダイアログ,図5に合成された組織を示す。
 図4は,組織合成する平組織と朱子組織の2つの組織を表示し,たて糸を1:1,よこ糸を1:1で組合せることを示している。この場合,二重織り組織を作成する時の元となる組織が合成される。表示されている組織図の下の参照ボタンをマウスでクリックすることにより,合成する組織を変更することができる。また,たて糸に0:0またはよこ糸に0:0を指定した場合は,たて二重織り組織またはよこ二重織り組織となる。
 図5は平組織と朱子組織をたて糸・よこ糸共に1本交互で合成したときの組織図である。ここで,織物の裏に相当するよこ糸と表に相当するたて糸との組織点を追加することにより,二重織りの組織図となる。
 組織合成では,合成後の組織サイズを計算する必要がある。平組織の組織サイズは2×2であり,朱子組織の組織サイズは5×5である。これらの組織を1本交互で組合せ,組織が繰返すようなサイズ(一循環サイズ)を算出しなければならない。この場合は20×20が一循環サイズとなる。

図4 組織合成ダイアログ 図5 合成された組織図

2.5 キーボード入力と数値入力
 組織図作成には,織物分解しながら組織点を描画することが多い。そのため,組織点の入力にはキーボードを用いた入力の方が,マウスクリックによる入力よりも容易となるため,任意のキーによる組織点の描画・消去が行えるようになっている。
 また,紋栓や引込の数値データを直接入力し紋栓図と引込図を描画することが可能である。


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