平成10年度研究報告 VOL.48
石炭灰を用いた耐火物素地の開発 |
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3.結果と考察
3.1 断熱レンガ試験片
焼成前の石炭灰とおが屑のボールミル混合物の示差熱重量分析を行った。図1に示すように300℃と500℃付近に2つの発熱ピークと重量減少が観測された。この2つの温度域の発熱ピークはおが屑と成形助剤であるグルカン単味でも同種のものが観測された。おが屑はセルロースを主体とした化合物から構成され,グルカンも類似の化学構造式をもつので,この2つの発熱ピークはおが屑とグルカンの骨格構成有機物が分解燃焼して重なり合って生じたものと推定される。
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図1 石炭灰とおが屑の混合物の示差熱重量分析 |
図2 断熱れんが焼成体の収縮率 |
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図3 断熱れんが焼結体のかさ比重 |
図4 断熱れんが焼結体のX線回折パターン |
断熱レンガ試験片のかさ比重を下げることを目的に原料に対するおが屑の添加を検討した。おが屑の混合量を変えた焼成体の物性を以下に示す。図2にはおが屑の混合量と収縮率の関係を示す。おが屑を混合すると30%までは比較的収縮が進行しやすくなるが,混合比が30%以上では収縮の増加率は鈍くなった。
かさ比重の測定値を図3に示す。おが屑を入れない状態のかさ比重は1.4であった。かさ比重は収縮率の増加が鈍くなる30%以上から大きく減少をし始め,50%のおが屑を混合した場合の焼成体のかさ比重は0.99にまで減少した。おが屑を入れることで約30%の気孔が形成された。吸水率はかさ比重と逆の関係を示し,30%以上のおが屑添加量から増加が顕著になった。圧縮強度はおが屑を混合することで低下するがJIS
R2611に規定されるB類2種の耐火断熱れんがの規格値以上となった。吸水率が増加して,かさ比重が大きく低下するおが屑の混合量30%以上から圧縮強度の低下がみられた。
X線回折パターンの結果を図4に示す。おが屑を入れずに焼成した場合の結晶相の主成分は石英とムライトであり原料粉末と同様の回折パターンを示した。一方おが屑を入れた焼成体は石英,ムライト,クリストバライトから構成されていた。おが屑の蛍光X線分析によると,有機物の中に,一部カルシウム,カリウム,重金属が検出された。
3.2 コーディエライト質耐火物素地
図5に成形物の示差熱重量分析(TG-DTA)を示す。これより250〜280℃と,850〜900℃にかけて重量減少がみられる。この重量減少に対応して吸熱ピークが観測された。これは原料の一つである水酸化アルミニウムの逐次的な脱水反応と推定される。図3には焼成体のX線回折パターンを示す。断熱れんがの場合に観測されたグルカンの分解燃焼に伴う発熱ピークは水酸化アルミニウムのピークと重なり明瞭に観察されなかった。
焼成体のX線回折分析結果を図6に示す。1000℃及び1100℃では石英,ムライト,クリストバライトの結晶相が観測される。コーディエライト化は1200℃以上で生じ,1300℃以上ではコーディエライト化が顕著になった。
焼成体の物性測定を以下に示す。焼成温度と収縮率の関係を調べたところ,1100℃で収縮率は約2%となりほぼ一定値を示した。かさ比重と焼成温度の関係を図7に示す。かさ比重は1100℃において1.63となりほぼ一定値を示した。かさ比重と収縮率の結果はよく対応し,コーディエライト化は1200℃以上で進むことがわかる。コーディエライトの理論密度を2.50とすると気孔率は35%となった。
BET表面積は0.6m2/gであった。コーディエライトの曲げ強度は一般的に245MPaであると報告されているが4),緻密な焼結体を得ることが難しいことも報告されている。本実験の試作品では気孔,不純物,ガラスを含むため,試作品の最大曲げ強度は1300℃焼成の試料の50MPaであった。熱膨張係数を調べると,1300℃と1350℃焼成で最も低い熱膨張係数(2.1×10-6/℃)が得られた(図8)。既報値4)よりも大きいのはアルカリ金属などの不純物の含有によるものと考えられる。以上よりコーディエライト素地の作製には1300〜1350℃が最適であることがわかった。走査型電子顕微鏡で焼成体表面を観測すると,結晶粒界は明瞭ではなくガラスが共存していた。
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図5 コーディエライト質耐火物用混合体の示差熱重量分析 |
図6 コーディエライト質耐火物のX線回折パターン |
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図7 コーディエライト質耐火物のかさ比重 |
図8 コーディエライト焼結体の熱膨張係数 |
4.結言
石炭灰を主原料とする無機系産業廃棄物の利用研究を行い,以下のことが明らかになった。
(1)石炭灰に炭酸カリウムを2wt%,グルカンを1.0wt%,更におが屑を加え1000℃で焼成を行うと,石英,ムライト,クリストバライトからなる,かさ比重0.99,気孔30%の断熱材が形成された。
(2)石炭灰にタルクと水酸化アルミニウムを配合し,1300〜1350℃の焼成で,気孔率35%のコーディエライト素地を作製できた。この素地の熱膨張係数は2.1×10-6/℃となった。
謝辞
本研究は工業技術院名古屋工業技術研究所との重要地域技術研究開発共同研究,及び,石川県工業試験場石炭灰有効利用実用化検討会の成果である。
参考文献
1)環境技術協会・日本フライアッシュ協会編:石炭灰ハンドブック(第2版),環境技術協会・日本フライアッシュ協会,(1995)
2)ファインセラミックス事典編集委員会編:ファインセラミックス事典,技報堂出版,pp.177-186,(1987)
3)通商産業省工業技術院総務部地域技術課,通商産業省工業技術院名古屋工業技術研究所編:重要地域技術研究開発制度,陶磁器の成型法を利用したファインセラミックスの成形技術研究成果報告書,通商産業省工業技術院総務部地域技術課,通商産業省工業技術院名古屋工業技術研究所,pp.369-433(1999)
4)B.H.Mussler and M.W.Shafer:Ceram.Bull.,Vol.63,pp.705-14(1984)