平成10年度研究報告 VOL.48
快適性衣料素材の開発研究


3.結果と考察
3.1 織物の物性値の比較
 試作した20点の生地(起毛加工した生地も含む)に関する物性値のうち,快適機能としての「軽さ,暖かさ,蒸れにくさ,肌触りの良さ」に対応する物性値は,表3のようになる。厚さ,ふくらみ,保温率,K値のデータを図3〜6にそれぞれ示す。

表3 快適機能と関連する物性値

快適機能 関連する物性値
軽さ 目付、厚さ
暖かさ 保温率
蒸れにくさ K値,通気性
肌触りの良さ ふくらみ,しなやかさ


以下では,これらの物性値に着目しながら,各生地の素材と快適性との関連について比較・検討を行った。
 たて糸がポリエステル通常糸(1A〜5A)の場合,ポリエステル中空糸(6A〜9A)に比べて,保温率は若干低くなっているが,しなやかさが高く,K値はあまり差がみられなかった。また,たて糸がポリエステル糸で,よこ糸に綿やベンベルグなどのセルロース系繊維を含む生地(1A〜3A)では,これらの繊維を含まない生地(4A,5A)に比べて,保温率とK値が高くなっており,親水性繊維を用いることによって,生地の熱水分移動特性が向上することが分かる。
 一方,起毛加工した生地(1B〜9B)の場合,起毛していない生地(1A〜9A)に比べると,厚さ,保温率,しなやかさは高いが,K値はやや小さくなる傾向が見られた。これは,起毛加工によって生じた毛羽が織物の表面に微小空気層を形成し,保温性と風合いの向上に寄与するものの,逆に毛羽によって組織間の隙間が覆われて水蒸気の透過が阻害されるために,蒸れやすくなると推測される。
 一方,(b)の織物(10,11)に関して,厚さは(a)より小さいが,保温率とK値は(a)より高い値を示した。これは,(b)の生地に空気含有率の高いポリエステル糸(高異収縮混繊糸,中空糸)が用いられており,かつ(a)よりも薄地で通気性が高いために,綿などの親水性繊維を使用していないにも関わらずK値が比較的高いと考えられる。
 以上の結果より,空気含有率が大きく,綿などの親水性繊維を含んでいて,かつ起毛加工を施していない生地が,総合的に快適性が高いことが示された。なお,ポリエステルの中空糸を使用すると,保温性は若干高くなるが,蒸れ感には特に影響しないと思われる。

図3 厚さ 図4 しなやかさ
図5 保温率 図6 K値


3.2 衣服内温湿度と主観評価値
 3.1で快適性が高いと評価した生地(1A〜3A,6A〜8A)の中から,保温率とK値が特に高い1Aと7Aを選んで着用実験を行った。なお,起毛加工による着心地への影響を検討するために,起毛した生地(1B,7B)についても同様に実験を行った。
 着用実験中の衣服内湿度の変化を図7に,衣服内温度の変化を図8に示す。被験者によって発汗量や平均体温などの生理的指標が異なるため,データに対する個人差の影響を小さくする目的で,各々の生地に関して被験者全員の温湿度データを平均化した。図7で,運動中の衣服内湿度は1Aが最も低くなっており,蒸れにくいことが判る。ただし,7Aと7Bで特に大きな違いは認められなかった。また衣服内温度は,起毛した生地(1B,7B)の方が,1A,7Aに比べて僅かに高い傾向がみられる。従って3.1での考察と同様に,生地を起毛加工することによって衣服内の保温性は高くなる反面,蒸れ感は増大すると考えられる。

図7 衣服内湿度変化 図8 衣服内温度変化

表4 快適性主観評価値

主観評価項目 1A 7A 1B 7B
暖かさ 1.33 0.778 1.222 1.222
蒸れ感 -0.222 -0.556 -0.444 0
肌触り 0.667 -0.333 0.556 0.444
総合評価 0.778 0 0.111 0.222


 表3の快適機能に関連する主観評価項目(暖かさ,蒸れ感,肌触り,総合評価)について,被験者全員の平均値を表4に示す。1Aと1Bを比較すると,全項目において1Aの方が高い数値を示しており,総合的な快適性を兼ね備えていることが判る。また,7Aに比べると7Bの主観評価値が高くなっている。図6において,K値では7Aがわずかに上回っているが,通気性,風合い,保温性に関しては7Bの方が優れており,この結果が主観評価に反映されたものと思われる。

3.3 衣服の縫製
 3.2で快適性が高いと評価された1A,7Aに加えて,K値が高い3A,9Aの生地を用いて,ジャケット,ブルゾンをそれぞれ男女用各1着ずつ,計8着製作した。さらに10,11の生地を用いて,女性用ブラウスを2着製作した。図9と図10は,それぞれ7Aと11の生地を使って縫製したジャケットとブルゾンである。
 服のサイズは身体より一回り大きくしてゆとりを持たせ,服側面の裾にスリットを入れて動きやすくした。また着脱しやすいように,大きめのボタンやマジックテープ,ファスナーを採用した。デザインは,現代感覚を取り入れつつ,高齢者の体型に合わせるように配慮した。なお,これらの衣服は,高齢者向け室内着として各種の展示会に出品した。

図9 ジャケット(男性用) 図10 ブラウス(女性用)

4.結言
 本研究では,ポリエステル素材を主に使用して,高齢者を対象とした快適性衣料素材および衣服を開発した。試作した織物生地について,快適機能に関連する物性値を測定し,実際の着心地を確認するために着用実験を行った。本研究で得た結果を以下に要約する。
(1)今回試作した織物生地の中で,たて糸にポリエステル仮より加工糸,よこ糸にポリエステルと綿のコアヤーンを用いた織物が,「軽い,暖かい,蒸れにくい,風合いが良い」などの快適性要素を兼ね備えていることが明らかになった。
(2)織物に起毛加工を施すことによって,風合いと保温性は向上するが,通気性が小さくなるために,衣服内の蒸れ感はむしろ増大する傾向が認められた。
(3)今回試作した6点の織物生地を用いて,ジャケット,ブルゾン,ブラウスなど計10着の高齢者用衣服を作製し,展示会等に出品した。

謝辞
 本研究の遂行にあたり適切なご助言を頂いた,金沢大学教育学部教授 松平光男氏に感謝します。また,衣服の製作にご協力頂いた高瀬由紀氏に感謝します。

参考文献
1)原田隆司,土田和義,日本繊維製品消費科学会誌,Vol.25,No.12,p.615-621(1984)
2)通商産業省生活産業局監修:高齢社会対応型産業の研究,東京,通産資料調査会,1996
3)川端季雄:風合い評価の標準化と解析,第2版,大阪,日本繊維機械学会 風合い計量と規格化研究委員会,1980
4)松本義隆,新保善正,中村清光,日本繊維機械学会誌,Vol.41,No.11,p.566-575(1988)
5)松本義隆,新保善正,中村清光,繊維加工増刊捺染手帳29,Vol.43,p.631-636(1991)


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