平成10年度研究報告 VOL.48
快適性衣料素材の開発研究
繊維部 守田啓輔 中村清光 松本義隆


 本研究では,織物の快適機能と糸の種類・組織との関連性について明らかにするために,ポリエステル仮より加工糸,ポリエステル中空糸,コアヤーン(ポリエステルと綿もしくはベンベルグ)などの糸を用いて,計11種類の織物を製織した。その中から,「軽い,暖かい,蒸れにくい,肌触りが良い,動き易い」などの快適機能を兼ね備えた織物を選び出すために,各生地の物理特性(目付,厚さ,通気性),風合い特性,熱水分移動特性(保温率,K値)を測定した。その結果,綿などの親水性繊維を含んだ織物は蒸れにくく,起毛加工を施した生地は保温性は高いが蒸れやすいことが明らかになった。また,衣服として着用したときの快適感(暖かさ,蒸れ感,風合いなど)を評価するために,20〜50歳代の男女9人を被験者として着用実験と官能評価を行った結果,たて糸にポリエステル仮より加工糸,よこ糸にポリエステルと綿のコアヤーンを用いた生地が,衣服内の蒸れが小さく,主観評価による快適性も高いことが明らかになった。これらの基礎データを活用し,最終的に6種類の織物を用いて,高齢者向け室内用衣服(ブラウス,シャツ,ジャケット,ブルゾン)を製作し,評価を行った。
キーワード:快適性,熱水分移動特性,着用実験,官能評価

Development of Fabrics for Comfortable Clothes
Keisuke MORITA, Kiyomitsu NAKAMURA and Yoshitaka MATSUMOTO

 In this study,eleven types of fabrics made of several yarns (polyester false-twist yarn with regular fibers or hollow fibers,polyester/cotton/cupra core yarn and so on) were woven to clarify relationship between comfortability of the fabrics and kinds of yarn and structure. In order to select some fabrics with good comfortability such as light,warm,not stuffy,good handle,easy to move,physical properties (weight,thickness,air permeability),mechanical parameters and hand values,thermal/moisture transfer properties (warmth retainability,K) of the fabrics were measured. It was found that the fabrics with hydrophilic yarns such as cotton or cupra were difficult to be stuffy and raised fabrics were inclined to be warm and stuffy. In order to evaluate subjective comfortability (warm,stuffy,handle) of clothes made of the fabrics,wearing test and sensory evaluation was carried out using nine panels aged 20s to 50s. It was suggested that the clothes made of polyester false-twist yarn and polyester/cotton core yarn was less stuffy than the other fabrics and subjectively comfortable. Clothes such as blouse,jacket,shirt,blouson for aged person were made using six types of fabrics selected above.
Key Words:comfortability,thermal/moisture transfer property,wearing test,sensory evaluation

1.緒言
 衣服を着用した時の快適感を左右する要素は,[1]生地の風合い・接触温冷感,[2]衣服による身体への圧迫感,[3]衣服内の温度・湿度(衣服内気候)に大別される1)。一般の衣料においては[1]と[2]が重視され,スポーツウェアなどを除くと,[3]の快適性が考慮されることは少ない。しかし最近は,屋内の冷暖房条件に対応した衣服に代表されるように,[3]の温熱生理学的快適性を備えた衣服の需要が高まっている。特に高齢者の場合,身体の発汗機能の衰えや産熱量の減少により,外気の変化に応じて体温を調節することが困難であるため,高齢者用衣服の条件として,衣服内気候を常に適度な状態に保つことが第一に挙げられる2)。また,年齢に伴う体型の変化を補正し,かつ動きやすいデザインを有することも重要である。
 そこで本研究では,健常高齢者の快適性要素を,「軽い,暖かい,蒸れにくい,肌触りが良い,動き易い」の5項目とし,これらの特性を兼ね備えた快適性衣服素材を開発することを目的とした。そのために,ポリエステル加工糸を中心とした各種素材を用いて計11種類の織物を試作し,それらについて風合い・温冷感・蒸れ感など種々の快適性要素に関連する物性値を測定して,織物の糸使いと快適性との関連について考察した。さらに,実際に衣服を着用したときの主観的快適性を評価するために着用実験を行い,これらの結果をもとに総合的に快適性が高いと判断された織物を用いて,高齢者向け室内着を縫製した。

2.実験
2.1 織物の設計・製織
 今回,表1に示す11種類の織物を試作した。
(a)に関しては,前述した5種類の快適性要素を兼ね備えた織物にするために,素材を以下のように設定した。
 軽さと暖かさを出すためには,織物に多くの空気層が含まれていることが必要である。そこで,1〜5の織物についてはポリエステル仮より加工糸をたて糸に使用し,生地にふくらみを持たせるために組織は5枚朱子織を採用した。6〜9についても,空気含有率を高めるために,たて糸にポリエステル中空仮より糸を用い,組織は平二重織とした。なお,ポリエステル仮より糸は,織物に伸縮性を付与する役割も兼ねている。
 衣服内の水蒸気を吸着して蒸れを緩和する目的で,1〜3,6〜8の織物のよこ糸に,親水性を有するセルロース系繊維(綿,ベンベルグ)とポリエステルのコアヤーン,もしくは綿糸のみを用いた。また,風合いを高めるために,全ての生地に対してアルカリ減量加工(15%)を施し,起毛の有無による快適性への影響を検討する目的で,起毛しない生地(1A〜9A)と,起毛加工を施した生地(1B〜9B)を準備した。
 さらに,ブラウス用の薄地織物として,(b)に示す2種類の生地(10,11)を製織した。10のよこ糸は,収縮率が大きく異なる2種類のポリエステル糸を混繊したもので,組織を綾織の一種である破れ斜文織とすることで,表面に滑らかさを出すように工夫した。11のよこ糸にはマカロニ型の中空糸を用い,軽さと保温性を兼ね備えるようにした。

2.2 織物の物性値測定
 風合い特性測定システム(KES FB1〜4,カトーテック(株))を用いて,表1に示した織物生地の基本力学特性(引張り・剪断特性,曲げ特性,圧縮特性,表面特性)を測定し,専用回帰式(KN-201-LDY)によって,婦人外衣用薄地織物に関する基本風合い特性(こし,はり,ふくらみ,しゃり,きしみ,しなやかさ)に変換した3)。また,工業試験場で開発した熱水分移動特性特性装置((株)東洋精機製作所製)4)を使用して,生地の保温率とK値を測定した。

表1 織物の設計表

織物 たて糸 よこ糸 組織・織密度
(a) 1 ポリエステル仮より加工糸
83dtex/36F Z350T/m
[1]ポリエステル×綿(30/70)
 32S/1 コアヤーン
5枚朱子
(5枚3飛)

207×96(本/2.54p)
(中厚地)
2 [2]ポリエステル×ベンベルグ×綿 (30/35/35) 30S/1
3 [3]綿 30S/1
4 [4]ポリエステル仮より加工糸
 167dtex/48F
5 [5]ポリエステル中空仮より加工糸 206dtex/48F
6 ポリエステル中空仮より加工糸
206dtex/48F Z350T/m
[1]ポリエステル×綿 (30/70)
 32S/1 コアヤーン
平二重
132×91
(本/2.54p)
(厚地)
7 [2]ポリエステル×ベンベルグ×綿 (30/35/35) 30S/1
8 [3]綿 30S/1
9 [5]ポリエステル中空仮より加工糸 206dtex/48F
(b) 10 ポリエステル糸
56dtex/36F 無撚
ポリエステル高異収縮混繊糸
 (収縮率40%,7%)83dtex/60F S400T/m
破れ斜文(薄地)
11 ポリエステル中空糸(カスク)
 156dtex/36F 1500T/m S,Z2本交互
平(薄地)
図1 熱水分移動特性測定装置
図2 着用実験の様子


装置(測定部)の断面図を図1に示す。水温は36℃に保持されており,テフロン製の模擬皮膚膜を透過する熱・水分の発生量は,人体の発熱・発汗量にほぼ一致するように調整されている。試料の上下および外気の温湿度を測定するために3本のセンサが取り付けられ,単位時間あたりの水の重量減少量より水蒸気透過量が算出される。本装置の大きな特長は,生地を通過した熱を顕熱(輻射熱)と潜熱(水の気化熱)に区別できることである。水蒸気透過抵抗に対する顕熱透過抵抗の比をK値と呼び,保温性が同等の場合,K値が大きいほど蒸れにくいことを意味する5)
 織物の通気度は,通気性テスター(FX3300,Textest社製)により測定した。
2.3 着用実験
 表1の試作生地を用いて長袖の実験用衣服を作製し,20℃,65%RHに設定した環境試験室において着用実験を行った。被験者は20〜50歳代の女性5人,男性4人とし,衣服を着用してしばらく安静にした後,エルゴメーターを用いて負荷60W,50rpmの条件で15分間運動を行った(図2)。このときの熱生産量は3.5〜4.5kcal/minで,うっすらと汗をかく程度の運動量に相当する。運動終了後,衣服内の蒸れが減少するまで椅子に座って安静にし,衣服内湿度が減少してほぼ一定になったところで実験を終了した。実験の間,被験者の背中中央に貼り付けたセンサにより衣服内の温湿度を連続的に計測した。運動終了後に,SD法による官能検査表(表2)を用いて,被験者自身の着用時の主観的快適感を5段階評価(−2〜2)により定量化した。数値が大きいほど,快適性が高いことを示す。


表2 着用感に関する主観評価調査表(SD法)

主観評価項目
非常に やや どちらとも
いえない
やや 非常に 不快
2 1 0 -1 -2 
暖かさ 暖かい           寒い
蒸れ感 蒸れない           蒸れる
さらっとしている           ごわごわしている
肌触り 肌触りが良い           肌触りが悪い
しなやかである           ごわごわしている
やわらかい           かたい
ちくちくしない           ちくちくする
総合評価 良い(快適)           悪い(不快)

* トップページ
* 研究報告もくじ
 
* 次のページ