石川県工業試験場

■繊維生活部　○神谷淳，沢野井康成，守田啓輔，長谷部裕之
■企画指導部　吉村治，林克明，木水貢，奥村航

１．目　的
　北陸は繊維，特に合成繊維製品の日本有数の産地であり，撚糸，製織，製編，染色加工などの諸工程で高い技術力を持つ企業が集積している。石川県工業試験場では，長年にわたり石川県内の繊維業者から持ち込まれる繊維の欠点解析を行い，クレームの低減化や再発防止に努めてきた。過去にはこれらの欠点事例をまとめた事例集も発行されている。
　今回，これまでの繊維欠点事例の資産を活用し，企業現場での原因究明，再発防止に役立てるため，インターネット上で検索・閲覧可能なデータベースを整備し，「せんい欠点データベース」として工試ホームページ上で公開した。また，工業試験場職員のノウハウ蓄積のためのデータ入力システムを「せんい欠点入力システム」として同時に整備したので，合わせて報告する。

２．内　容
２．１　せんい欠点データベースの整備
　これまでに公開された173件の欠点事例を電子データ化し，データ全文のテキスト検索を可能とした。データの検索項目として，「欠点名で探す」，「糸使いで探す」，「試験内容で探す」，「キーワードで探す」を用意した。「欠点名で探す」では，直感的に分かりやすいように，たて筋・引け，たて斑・段，風合い違い，汚れなどの7分類とした。「糸使いで探す」では，北陸地域で取り扱いが多い糸種である，ポリエステル，ナイロンの合成繊維の他，綿，絹とその他の5分類とした。「試験内容で探す」は，欠点解析に有効で，かつ多くの事例がある電子顕微鏡観察，マイクロスコープ観察，繊度測定，撚数測定，強伸度測定などの11分類とした。また，「キーワードで探す」では，電子化した事例中のテキストを全文検索する仕様とした。

２．２　せんい欠点入力システムの構築
　上記「せんい欠点データベース」とは別に，職員がデータを追加できる「せんい欠点入力システム」をデータベース作成支援ソフトであるFilemaker Proを使用して構築した。入力可能データは，欠点名や糸使い，発生状況などの文字情報の他，一般的な画像ファイル(jpg，bmp等)である。さらに，試料が残っている場合は，本システムの整理番号を利用して現物を保管する。

２．３　せんい欠点データベース及び入力システムの内容
　「せんい欠点データベース」の内容別集計結果の一部を図1に示す。欠点の割合では，たて筋・引け欠点が最も多く，糸使いでは，ポリエステルとナイロンで全体の6割以上を占めた。また試験内容では，電子顕微鏡，マイクロスコープ観察などの外観検査の他，強伸度や繊度測定，熱応力測定などの基本的な糸物性試験での解析が多い傾向があった。本データベースは，工業試験場ホームページ内に設置し，Internet Explorerなどのブラウザで検索，閲覧が可能である。その検索結果例を図2に示す。さらに詳細を閲覧したい場合は，画面内の「詳細表示」をクリックすることで，各事例が表示される。図3にこれら事例の一部を示す。この詳細表示では欠点発生の原因と考えられる工程や，改善方法も記載した。図4には「せんい欠点入力システム」の表示例を示す。基本的なデータ入力，閲覧は場内イントラ内のPCから可能である。

（図1　データベースの欠点内容の割合）
（図2　せんい欠点データベースの検索結果例）
（図3　せんい欠点データベースの詳細表示例）
（図4　せんい欠点入力システムの表示例）

３．結　果
　工業試験場の欠点事例集という資産を基に，せんい欠点データベースと入力システムを構築した。これにより，クレームの低減や再発防止が期待できる。8月現在，本データベースのアクセス件数は600件を超えた。今後も取り扱う依頼試験等で，公開の了解が得られた解析事例について随時追加していくことでさらなる活用，拡充を図り，繊維欠点の再発防止と繊維製品の品質向上に役立てていく。