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鮮やかな色漆の開発と応用

■繊維生活部 ○梶井紀孝,江頭俊郎,藤島夕喜代

1.目 的
 漆(液)を乾燥した塗膜は濃い茶褐色であるため,酸化チタン等の白色顔料を配合した白漆塗膜は,ベージュ色(茶色味の強い暗目の白色)となる。また,青色顔料を配合した青漆の塗膜は,漆の茶褐色が影響して,色味の鈍い青色となるため,明るさと鮮やかさの向上が求められている。さらに,白漆や青漆塗りの漆器は日光により変色することが問題となっている。
 本研究では,白漆と青漆の色味を改善するため,光輝性顔料を用いて,その最適な配合方法を確立し,鮮やかで変色しにくい色漆を開発することを目的とする。また,調合した白漆や青漆を用いた新しい色彩の漆器を試作して,製品化への応用を図る。

2.内 容
2.1 実験手順
 光輝性顔料を用いた鮮やかな白漆と青漆の開発に係る実験手順を図1に表す。これら手順の中で,[1]顔料の種類と粒径,[2]漆と顔料の配合比,[3]塗膜における顔料の分散状態の3点が,漆の色味に大きく関与する。そこで,初めに38種類の顔料を同一の配合比と混練条件で漆へ配合し,従来使用してきた顔料の漆塗膜と比べて,色味の良い顔料を選定した上で,最適な調合方法について検討を行った。

(図1 実験手順)

2.2 漆と光輝性顔料の調合
 光輝性材料を漆に利用する場合,これまでの研究により,50μm以上の粒径は蒔絵と呼ばれる塗膜表面へ粉末を蒔いて彩色する技法が有効であった。本研究では,漆へ粉末を練り込み着色するため,粒径が50μm未満の微細な着色顔料を用いた。顔料の種類については,従来から白色系と青色系の漆に使用してきた着色顔料と,近年開発された雲母材や金属コーティングした光輝性顔料を中心に色味の良い顔料を用いた。
 漆と顔料の調合は,自転公転式撹拌機((株)シンキー製,小型混練機ARE-310)および3本ロールミル((株)小平製作所製,RⅢ-1CN-2)混練機を用いて,顔料が漆液中に均一に分散するよう混練した。その後,調合した38種類の色漆を塗布した漆塗り板を作製し,目視により鮮やかさを評価した。これらの中で,最も明るく,色味が鮮やかであった酸化チタンをコーティングした雲母材の顔料(パールホワイト)を用いて,最適な配合比について検討を行い,従来の白漆より明度(L*値)が10以上高く,光輝性のあるパール調の白漆を開発した。さらに,青色の着色顔料であるフタロシアニン(ピグメントブルー)を配合することにより,鮮やかな青味の青漆塗膜を開発することができた。

2.3 促進耐光性試験による変色の確認
 開発した漆(パール漆)について紫外線による変色を評価するため,産地企業で漆塗り板を作製し,キセノンランプによる促進耐光性試験を行った。
 以下に試験条件を記載し,図2に試験結果を示す。
・ 試験機器:キセノンウェザーメータ 米アトラス社製Ci4000,出力6.5kW
・ 試験条件:放射照度60w/m2,ブラックパネル温度63℃,槽内温度38±5℃
・ 試  料:調合漆の顔料および漆への重量配合比は図2下部に記載したとおりで,3本ロールミルを用いて混練条件は全て同一とした。その調合漆を木製黒漆塗り板の表面へ,スプレー塗装により2度塗装した。各2試料を作製。
・ 前 処 理:試験試料を温度20±2℃ 相対湿度65±10%RHの恒温室で1ヶ月保管。
・ 測色方法:簡易型分光色差計(日本電色工業(株)NF333)で2試料各3箇所を測色して,色差(ΔE*)の平均値を記載。

(図2 進耐光性試験における漆塗膜の測色値)

3.結 果
 漆に光輝性顔料を配合して,漆塗膜の明るさや色味の改善を図った。その結果,
(1) 酸化チタンをコーティングした雲母材を漆と配合することにより,白漆の明るさが向上した。
(2) 青色顔料を調合することにより,鮮やかな色味の青漆が開発できた。また,促進耐光性試験を行い,従来の塗膜と比べて紫外線による変色の低減を確認した。
(3) 光輝性顔料を用いた漆の調合技術を産地企業へ移転し,パールホワイト顔料やピグメントブルー顔料を用いた漆をパール漆として製品化への応用を前提に試作した。試作した漆塗りアクセサリー(図3)や蒔絵万年筆(図4)について,産地企業からはパール漆の特長である鮮やかな色味を活かすことができたと評価された。
 今後も,鮮やかな色味の特長を活かして,装飾性の高い漆製品への応用を図る。

(図3 パール漆塗りアクセサリー)
(図4 パール漆塗り蒔絵万年筆)