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九谷焼原料としての河合陶石の可能性に関する研究
■九谷焼技術センター ○高橋宏,木村裕之
1.目 的
県内には白山市で産出する河合陶石があり,主に衛生陶器やタイル素地の原料として年間数千トン出荷されている。豊富な埋蔵量と安定した化学組成の陶石であるが,九谷焼の原料としては未利用である。本研究は,河合陶石を利用して磁器ハイ土製造のための技術開発を目的とする。河合陶石を九谷焼に利用できれば,県内産陶石の供給,品質,原料価格の安定化に資することができ,さらに河合陶石が九谷焼原料の一部を担うことで花坂陶石の保護にも繋げることができる。
2.内 容
2.1 河合陶石の分析と評価
本研究では,河合陶石の主要等級である1級を主に用いた。成分組成分析を蛍光X線分析で行い,鉱物組成分析を粉末X線回折で行った。さらに,耐火度と焼成収縮の測定及び,焼成呈色の測色を行った。同様の分析と測定を花坂陶石でも行い,それぞれの値を比較し河合陶石の特徴を明確化した。これらの結果を基にしてハイ土調整の方針を決定した。
2.2 試験ハイ土の調合と評価
試験ハイ土調合は河合陶石を主原料に,粘土鉱物,長石,珪石,アルカリ土類塩類等の一般的に入手可能な窯業材料を用いて行った。従来の花坂陶石ベースのハイ土に近い還元焼成用ハイ土と,河合陶石1級の高い白色度を活かした酸化白色ハイ土の二種類の調合を検討した。試験ハイ土は全体量100〜120gで調合し,φ70mm×t7mmの成形体を作成し成形性や乾燥キレ等の状況を評価した。また,この成形体を用いて焼成収縮等の測定を行った。素焼きは760℃/30分保持,本焼きは酸化焼成では電気炉1260℃/20分保持,還元焼成はガス炉SK8完倒(約1280℃),還元濃度(CO濃度)約4%の条件で行った。還元,酸化焼成ともに施釉サンプルも作成した。釉薬は市販の1号釉(日本陶料製)を用い,一部九谷焼技術センターで調合した釉薬も用いてハイ土との適合性を評価した。試験ハイ土の内,成形性,焼成呈色,収縮率などが基礎調合として有望な調合について,陶石100kgを用いて試作ハイ土を作製した。
2.3 製品試作
2.2で調合した試作ハイ土を用いた製品試作および評価を,地元窯元数社に依頼した。その評価は,ロクロ成形,ロクロ成形+型打ち成形,セラローラ+プレス成形,型起こし成形など,主に手作りによる成形性を中心に行った。成形後の焼成は,センターの電気炉で行った。
2.4 河合陶石の特徴
河合陶石の特徴を表1に示す。花坂陶石が長石,珪石を主に,カオリナイトを含んだ構成であることに対し,河合陶石はパイロフィライト,珪石を主に,セリサイトを含む構成であった。ロクロ用ハイ土の原料としては“粘り“が乏しいことや,耐火度が高いため焼き締りにくいという特徴が判明した。これより,調合は成形性向上や耐火度調整を中心に検討する方針で進めることとした。一方,河合陶石1級は白さが特徴である。特に酸化焼成において,花坂陶石では得ることのできなかった高い白色度のハイ土の原料として有望であった。
(表1 河合陶石の特徴)
2.5 試験ハイ土の調合
還元焼成用ハイ土は,収縮率が12.5〜15.5%の範囲で,従来ハイ土との焼成呈色の差(色差:⊿E値)が10以内を目標に調合を検討した。河合陶石1級50%,粘土鉱物40%及び長石10%の調合で目標を達成し,これを基礎的な調合とした。
酸化白色ハイ土は,収縮率が11%以上で,白色度(明度:L値)が85以上を目標に調合を検討した。粘土鉱物の他に珪石を用いた調合で目標を達成し,河合陶石50%,粘土鉱物40%及び珪石10%の調合を基礎的な調合とした。
2.6 製品試作による評価
ロクロやプレスによる成形性と,型打ち成形やカンナ削りなどの後加工性について評価した。どちらのハイ土も成形性は良好であった。還元焼成用ハイ土では,型打ち成形で縁部分にキレが発生し,加工性に課題が残った。酸化白色ハイ土では,ロクロやプレス成形以外に型起こし(置物)についても評価を行った。型に手で土を押し込む際に,型側の土表面に“しわ“が発生しやすいことや,土が手にくっつきやすく成形しにくいとの指摘があった。また,限定的ではあるが1号釉を薄く施釉した場合,焼成後の釉表面がマット状になるなど,釉薬との適合性について課題が見出された。今回の製品試作例を図1に示す。
(図1 製品試作品)
3.結 果
河合陶石を利用したハイ土を試作し,製造の技術を開発できた。また,試作ハイ土を用いた製品試作を行い,次の結果が得られた。
(1) 河合陶石を用いたハイ土は花坂陶石より白いことが特徴だが,耐火度が高いため焼き締まりにくい。
(2) 釉薬との適合性についての課題が見つかったが、ロクロやプレス,型打ち成形などにおける成形性は良好であった。
今後,原料の見直しや調合,粒度分布の調整などの改良を進めて早期に実用化を目指す。