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食器洗浄機に対する和絵具の耐久性に関する研究

■九谷焼技術センター ○木村裕之,高橋宏

1.目 的
 近年,一般家庭へも食器洗浄機が普及するようになってきた。現在,九谷焼では,生産量の約半分近くが食器類となっている。このような中,「九谷焼(上絵製品)は食器洗浄機で洗えますか?」という問い合わせが増えている。これまでに,九谷焼の和絵具に対して食器洗浄機を想定した耐久性試験は行っていないため,明確な解答ができないのが現状である。食器洗浄機ではアルカリ性洗剤を使用して高温(70〜90℃)で洗浄が行われる。このため,九谷焼で使用する和絵具に関して,食器洗浄機に対する耐久性について知見を得る必要がある。
 九谷焼に使用されている上絵具は,和絵具と呼ばれ高い透明感と独特の表面光沢を持っている。和絵具は,800℃前後で溶融する着色ガラスである。ガラスは化学的に安定な物質と考えられているが,アルカリに対しては影響を受けやすいことが知られている。本研究では,九谷焼において食器用に使用されている無鉛和絵具と耐酸和絵具(鉛含有和絵具)について食器洗浄機を想定した耐久性試験を行い,九谷焼の和絵具の特徴である表面光沢の変化について観察した。また,無鉛和絵具については,食器洗浄機に対しての耐久性向上についても検討した。

2.内 容
2.1 浸漬法による和絵具の耐久性試験
 食器洗浄機を擬似的に想定した浸漬法により,和絵具の耐久性試験を行った。浸漬法は,食器洗浄機に使用する洗剤(JWS-10DHG)の0.3%溶液に,試料を浸漬させ75℃で耐久性試験を行った。無鉛和絵具(高温型,低温型)と耐酸和絵具([1],[2])の4種類の絵具について耐久性試験を行った。高温型無鉛絵具の試料は,850℃,870℃,890℃の3種類の温度で焼成し,低温型無鉛絵具と耐酸和絵具の試料は,790℃,810℃,830℃の3種類の温度で焼成して耐久性試験の試料とした。耐久性は,光沢度計で上絵具表面層の光沢度を測定した。

2.2 無鉛和絵具の耐久性の検討
 無鉛和絵具は,「無鉛フリット(ガラス粉末)+色素+添加剤」から構成されている。ここでは,絵具の主材料である無鉛フリットの化学組成を変化させることによる耐久性向上について検討を行った。ガラスの耐アルカリ性を向上させる成分として,ZrO2,Al2O3が知られている。本試験では,低温型無鉛和絵具に使用している無鉛フリットの1つであるAフリットに対し,Al2O3,ZrO2を添加したフリットを作製し,その効果について検討を行った。

2.3 浸漬法による和絵具の耐久性試験
 浸漬法で試験を行い,反応時間は40時間(洗浄機800回洗浄相当)と100時間(洗浄機2000回洗浄相当)とした。洗浄回数は1日1回の洗浄で年間約400回洗浄を行うとし,800回は2年分,2000回は5年分の洗浄回数を想定した。表1に40時間,表2に100時間の試験結果を示す。高温型無鉛和絵具の試料は,850℃,870℃,890℃(表中790℃,810℃,830℃の欄に結果を記載)の温度で焼成を行った。一般的に,光沢度が60を下回ると目視でも光沢が失われたことが明確に認識できるようになる。光沢度が60を下回った試料については表面光沢が失われたものと評価した。表中,数値は試験後の表面光沢度であり,光沢度が59以下の試料は×,60〜69の試料は△,70以上の試料には○と表記した。
 無鉛和絵具と耐酸和絵具を比較すると,無鉛和絵具の劣化が顕著であるという結果になった。100時間後において,無鉛和絵具では高温型及び低温型の何れも表面光沢を失う(60を下回る)結果となった。これに対し,耐酸和絵具では100時間後においても,90以上の光沢を保っている。これは,無鉛和絵具は鉛成分を含んでいないので,溶融温度を低くするため耐酸和絵具に比べアルカリ金属成分を多く含有しているためだと考えられる。
 また,無鉛和絵具において高温型と低温型を比較すると,低温型の劣化が顕著であるという結果になった。特に,低温型無鉛和絵具の青絵具は,40時間(800回洗浄相当)において,3種類の焼成温度いずれにおいても表面光沢を失い,試験した絵具では最も影響を受け易いという結果となった。

(表1 40時間(800回洗浄)の試験結果)
(表2 100時間(2000回洗浄)の試験結果)

2.4 無鉛和絵具の耐久性の検討
 2.3の耐久性試験により,低温型無鉛和絵具の青絵具がアルカリ性洗剤の影響を受け易いという結果を得た。
 表3に,Aフリット組成にZrO2及びAl2O3を添加した無鉛フリットを用いて作製した青絵具の,浸漬法による40時間(800回洗浄相当,2年間使用)の試験結果を示す。比較試料としてAフリット(青),低温型(810℃焼成)及び高温型無鉛青絵具(870℃焼成)の結果も示す。Aフリットに対しZrO21.0〜3.0%,Al2O33.0〜7.0%を添加した組成範囲において,光沢度が70を超える耐久性の良好な結果を得ることができた。

(表3 40時間(800回洗浄)の試験結果)

3.結 果
 以上より,Aフリットを用いることで,食器洗浄機に対する良好な耐久性が得られることを確認した。今後は,得られた知見を活用し,耐食器洗浄機性を改善した無鉛和絵具の開発を行っていく。