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能登大納言小豆を用いた新規機能性食品の開発
■化学食品部 ○武春美,笹木哲也,勝山陽子,中村靜夫
■(株)六星 高宮大助,輕部英俊
1.目 的
能登大納言小豆は,石川県の戦略作物として栽培及び製品への利用が積極的に進められている。その一方で,規格外品等,粒のままでは流通できずに廃棄されている大納言小豆を含めた有効活用が求められている。これまでに,煮汁利用等の既存飲料とは異なる甘酒様乳酸飲料の開発に取り組み,複数の酵素の併用処理により小豆の糖化条件を確立した。さらに,小豆糖化液にグルタミン酸ナトリウムを添加し,γ-アミノ酪酸(GABA)生成能の高い乳酸菌により乳酸発酵を行うことでGABAを含む機能性小豆乳酸発酵飲料を試作した。しかし,この小豆乳酸発酵物はアルデヒド類及び脂肪酸類由来のアルコール類等,いくつかの不快臭が発生し風味の点で課題が残った。そこで本研究では,これらの不快臭低減について検討した結果を報告する。
2.内 容
2.1 小豆乳酸発酵物の香気成分分析
小豆乳酸発酵物の香気成分について,GC-MS(アジレントテクノロジー(株)/ゲステル(株)製,7890A,5975C/MPS2)により分析した。その結果,2-Pentyl-Furan(カビの臭い,ろうの臭い),2-n-Butyl Furan(メボウキ油,ベイ葉油の臭い)に加え,1-Pentanol(レモン様の不快臭),Acetic acid(刺激臭)が多く含まれ,この他,2-Heptanone(ブルーチーズ様の臭い),1-Hexanol(芝の臭い),1-Heptanol(みかん様の香り),1-Octanol(カビの臭い)の7成分を確認した。
2.2 小豆乳酸発酵物の不快臭低減の検討
(1) 各種シクロデキストリン(CD)による不快臭低減効果の検討
小豆乳酸発酵物の不快臭低減に最も適した処理方法の確立を目的として,香気成分を空洞部分に包接する効果があるCDを用いた不快臭成分の低減を検討した。CDは,塩水港製糖(株)製のα-100(空洞内径0.5〜0.6nm),β-100(空洞内径0.7〜0.8nm),γ-100(空洞内径0.9〜1.0nm)及びこれらの混合物であるK-100(α-CD:60%,β-CD:30%,γ-CD:10%)とCDの混合品にマルトースを付加させた分岐型のCDであるイソエリートPを用いた。その結果,殆どの不快臭成分はいずれのCDも10%添加でα,β,γの順によく包接される傾向がみられた。さらにαの含有量が多く,β及びγが含まれるK-100及びイソエリートPについては,α単独と比べ包接効果が高く,K-100に対しイソエリートPの包接効果の方が高かった。
(2) CDイソエリートPの添加濃度の検討
(1)において,最も効果が高かったイソエリートPの添加濃度0,1,5,10,20%処理物をそれぞれ作製し,不快臭7成分の低減効果について検討した。その結果,不快臭成分のうちAcetic acid以外の成分は,イソエリートPの添加濃度の増加とともに減少する傾向がみられた。イソエリートPの添加濃度が1%では2-Heptanone,1-Hexanol,5%では1-Octanol,2-n-Butyl Furan,10%では2-Pentyl Furanが1/10以下の濃度となった。しかし,20%ではいずれの成分も10%と比べて殆ど差がみられなかった。ここで,濃度の減少が確認された成分については,イソエリートPの添加濃度の増加とともに,空洞部分に包接される成分量が増加し一定量以上で飽和に達したためと考えられる。一方,Acetic acidは,イソエリートPの添加濃度に関わらず,濃度の増減がみられた。これは,低分子であることから,空洞の出入りが多く安定化しなかったことや揮発性が高いことが原因であると考えられる。以上の結果より,イソエリートPの添加濃度の増加に伴い,主な不快臭低減効果は高まるが,イソエリートP20%で流動性の低下が見られ低減効果も差が無いことから,添加濃度10%を最適添加濃度とした。
(3) 不快臭低減処理物を用いた小豆乳酸発酵飲料の試作及び評価
図1に,小豆乳酸発酵物をイソエリートP10%,CD等の添加剤に頼らない方法として豆乳及び牛乳により不快臭低減処理した試作飲料の香気成分分析結果を示す。図1からAcetic acidについては,これまでの結果と同様でバラツキがみられたが,その他の成分については,いずれの処理においても低減する傾向がみられた。このうち,1-Hexanol,1-Heptanol,1-Octanolについては,イソエリートP10%の低減効果が最も高く,ついで牛乳,豆乳であった。また,2-Heptanoneでは豆乳,2-Pentyl-Furanでは牛乳が最も高い低減効果がみられた。イソエリートPによる低減は,空洞の包接によるものであるが,豆乳及び牛乳についてはこれらに含まれるタンパク質の影響により不快臭が低減されたものと考えられる。以上の結果より,CDの利用が最も効果的であるが,コスト面の考慮や添加剤に頼らない場合に豆乳及び牛乳との組み合わせが有効であることが示唆された。図2に試飲アンケートで最も高評価を得た豆乳を用いた試作小豆飲料を示す。
(図1 イソエリートP10%,豆乳,牛乳による処理物を用いた試作小豆乳酸発酵飲料の不快臭低減効果)
(図2 豆乳を用いた試作小豆乳酸発酵飲料)
3.結 果
本研究では,小豆の乳酸発酵物の飲料や食品への利用の妨げとなった不快臭低減を目標に取り組み,以下の結果を得た。
(1) 小豆の乳酸発酵物の不快臭成分の低減には,CDによる不快臭成分の包接を検討した結果,空洞径が小さいα-CDを主成分とし,溶解性の高いイソエリートPが最も有効であった。
(2) 添加剤に頼らない不快臭低減方法として,豆乳又は牛乳による処理がコスト面からも有効であることがわかった。
今後は,県内の食品メーカーに技術移転を図り,能登大納言小豆の新たな用途拡大を図るとともに新製品の開発を支援していく予定である。
尚,本事業は平成23年度独立行政法人 科学技術振興機構・研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラムの一環として実施した。