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伝統発酵食品から分離した機能性乳酸菌を用いた新しい食品の開発
■化学食品部 ○辻篤史,勝山陽子,道畠俊英,中村靜夫
■石川県立大学 熊谷英彦,金沢大学 太田富久
1.目 的
石川県央・北部地域では,カブラ寿し,こんか漬け(魚類の塩糠漬け),アジなれ鮨等の農水産物を原料に使用した多種類の発酵食品が伝統的に製造されてきた。工業試験場では,これらの豊富な発酵資源に着目し,石川県立大学や金沢大学と連携して新しい機能性食品開発への応用を模索してきた。まず,発酵食品の製造過程で消長する微生物の分離と種の同定を大規模に行い,次に,分離した微生物の中で特に機能性が期待される乳酸菌について,各連携体が分担して生理活性物質高生産株や腸管免疫に関与する菌株の探索を網羅的に行った(図1)。本研究では,伝統発酵食品において発見された機能性乳酸菌とその性質について報告する。
さらに当場では,見出された機能性乳酸菌株を様々な食品素材へ添加し,新しい発酵食品への応用の可能性を検討してきた。今回は,免疫賦活作用のあることが示された乳酸菌ANP7-1株を用いて,県内食品メーカーとともに新しい発酵食品の製造工程を検討した内容についても報告する。
(図1 研究プロジェクトのイメージ図)
2.内 容
2.1 石川県固有の伝統発酵食品からの乳酸菌株の分離と機能性評価
まず,石川県の様々な伝統発酵食品を入手し,主に機能性が期待される乳酸菌に絞って分離を行った。カブラ寿し,ダイコン寿し,アジなれ鮨,山廃酒母,こんか漬け,いしりを中心に300株以上の乳酸菌株を分離し,16s-rDNA解析により各菌株の菌種を同定した(石川県立大)。次に,石川県立大,金沢大,当場で協力・分担し,分離した乳酸菌株の培養液や菌体について機能性を評価し,GABA(γ-アミノ酪酸)生産能,ACE(アンジオテンシンⅠ変換酵素)阻害活性能,抗酸化能やプロテアーゼ活性の高い乳酸菌株を約60株選抜した(表1に例を示す)。また,マウスを用いた動物実験により,抗アレルギー作用や腸管パイエル板リンパ球細胞中の免疫関連タンパク質量(サイトカイン,免疫グロブリン)の評価を行い,免疫系を活性化する複数の乳酸菌株を選抜した(金沢大による評価)。中でも,アジなれ鮨由来のANP7-1株は,マウス腸管パイエル板細胞中の免疫関連タンパク質であるインターフェロン-?量を有意に上昇させることが明らかとなり,免疫賦活作用を有する可能性が示唆された。
さらに,これら乳酸菌株は石川県立大で凍結保存され,機能性情報等とともにライブラリ化されており,必要時に簡易に取り出すことが可能となった。
(表1 分離された機能性乳酸菌株の例)
2.2 免疫賦活乳酸菌Lactobacillusplantarum(ANP7-1)株を使用した新しい発酵食品の開発
機能性評価の結果,見出したANP7-1株(アジなれ鮨由来)を様々な植物系素材に添加し,乳酸菌数の増加,酸生成,風味の変化等の経時的な変化を評価した。その中で,県内食品メーカー各社と共同して製品の試作評価を行った事例(図2)を示す。
(1) 糖化液米の乳酸発酵食品
米糖化液の発酵試験を行い,30℃で約24時間発酵させてpHを3.5付近まで低下させた後に殺菌を行うことで,甘味と酸味のバランスに優れた乳酸発酵物となることを明らかにした。また,カップ型ヨーグルト様製品の開発を目指して殺菌条件の検討を行い,100℃で15分のレトルト殺菌を行うことにより長期の保存が可能で好ましい色調を持つ製品を試作した。
(2) 能登産海藻発酵ドレッシング
青のり,カジメ,わかめ,神馬藻(ギバサ),つるもの5種類の能登産海藻に,乳酸発酵の前処理として酵素処理を検討した結果,プロテアーゼにより遊離アミノ酸量の大幅な増加が見られた。また,その後乳酸発酵を行うことにより生成した乳酸を生かし,海藻らしい風味と爽やかな酸味を持つ青のり発酵ドレッシングを試作した。
(3) 発酵ブルーベリーフローズンヨーグルト
まず,原料ブルーベリーに存在する微生物の殺菌条件を設定し,その後,乳酸発酵条件について検討した。ブルーベリー乳酸発酵物中のANP7-1株を生菌のまま摂取することを前提に,フローズンヨーグルトの試作を行った。
(図2 試作した新しい発酵食品)
3.結 果
石川県固有の伝統発酵食品より,300株以上の乳酸菌を分離・同定し,その中から約60株の機能性乳酸菌株を選抜してライブラリ化した。また,免疫賦活作用を有するANP7-1株を使用して各種素材を発酵し,米糖化液の乳酸発酵食品,能登産海藻発酵ドレッシング,発酵ブルーベリーフローズンヨーグルトを試作開発した。現在,これらの試作品について,共同研究を実施した企業において事業化に向け検討を進めている。