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高周波回路における解析手法の研究

■電子情報部 ○橘泰至,吉村慶之,田村陽一,杉浦宏和

1.目 的
 近年,電子機器では,内部の電子回路を高周波で動作させることによる高性能化が進んでいる。高周波信号は電子基板配線の高周波特性の影響を受け,電圧波形が減衰したり歪んだりし易くなる。このため設計の際には,電子基板配線の高周波特性を反映した電圧波形解析が重要である。しかし,汎用の回路解析ツールでは,高周波解析に重要な因子となる基板を構成する絶縁体の誘電率や誘電正接の扱いが困難であり,高周波特性を反映できないため,高周波における解析精度が低下している。
 そこで本研究では,測定した高周波特性を反映させた電圧波形を解析する手法について検討し,高周波における解析精度の向上を目的とする。

2.内 容
 試料として,A-B間の線路長が200mmの基板配線(図1)を作製した。本研究では,信号をA点から入力し,B点へ伝播した際のB点の出力電圧波形を,A点の電圧波形にA-B間の高周波特性(以下S21特性:周波数軸における透過特性)を反映させることで解析する。以降,図2の流れに沿って説明する。
 まず[1]では,500MHzの矩形波を生成してA点に入力する電圧波形をオシロスコープで測定した。測定したA点の電圧波形は図3のように時間軸で表され,電圧の振幅は約0.225V,オフセット電圧は約0.245Vであった。
 次に[2]では,ネットワークアナライザを用いて,A-B間のS21特性を測定した。測定したS21特性は図4のように右下がりの特性となり,低周波の信号は配線を透過し易いが,高周波の信号は配線を透過し難くなることが分かる。例えば,A点に入力した5GHzの信号は約-6dB(=1/2)の電圧振幅しかB点まで透過しない。
 ここで,周波数軸で表されるS21特性との演算を可能にするため,時間軸の電圧波形(図2[1])をフーリエ変換(FFT)し,周波数軸(図2[3])に変換する。フーリエ変換によって算出される周波数軸における電圧波形の周波数分解能⊿f(Hz)は,式(1)のように,時間軸において測定した電圧波形の測定サンプル数N(個)とサンプリング間隔⊿t(s)の積の逆数となる。そのため,電圧波形の測定時にサンプル数及びサンプリング間隔を適切に設定することが重要である。ここでは,500MHzの矩形波を解析するため,周波数分解能を10MHz,サンプル数を16000,サンプリング間隔を6.25psとしてA点の電圧波形を測定した。この設定で500MHz矩形波が適切にフーリエ変換できることを確認するため,A点の電圧波形と式(2)に示す理想矩形波ν(t)をそれぞれフーリエ変換して比較した。図5に示す結果より,6GHzまでの周波数帯域においてA点の電圧波形は理想矩形波とほぼ一致しており,理想的な矩形波が再現できている。このことから,上記設定による電圧測定およびフーリエ変換は適切であると考える。なお,図5において各波形のピークは,いずれもA点と同一の周波数であったが,確認し易いように波形を周波数軸上でずらして表示した。
 次に[3]において,A点の電圧波形(周波数軸)と測定したS21特性(図4)の積をとることで,配線の特性が反映されたB点の電圧波形(周波数軸)が図5のように求まる。高調波の振幅は,S21特性が反映されることにより,減衰したことが確認できる。
 [4]に示すB点の電圧波形(時間軸)は,S21特性を反映したB点の電圧波形(周波数軸)を逆フーリエ変換(IFFT)することで求まる。本手法にて解析したB点の電圧波形と,オシロスコープで実測したB点の電圧波形を図3に示す。ここで,実測した電圧波形との一致度合いを確認するため,S21特性を反映して解析したB点の電圧波形と実測した電圧波形の1周期分を回帰分析すると,相関係数が0.97となり,非常に強い相関が得られた。なお,A点の電圧波形とB点の実測波形の相関係数を求めると0.72であり,S21特性による減衰や歪みの影響が現れている。従って,本手法によりS21特性を解析に反映させることで,従来よりも実測に近い電圧波形を解析できるようになったことが確認でき,解析精度を向上できたと考える。

(図1 試料基板配線)
(図2 S21特性を反映させる解析の概要図)
(図3 電圧波形(時間軸))
(図4 試料基板配線のS21特性)
(図5 電圧波形(周波数軸))

3.結 果
 本研究では,フーリエ変換を用いることで入力点の電圧波形に基板配線のS21特性を反映させ,出力点の電圧波形を解析する手法を検討した。本手法で解析した出力点の電圧波形は,実測した出力点の電圧波形と非常に強い相関(相関係数0.97)が確認できた。この値は,S21特性を反映する前(相関係数0.72)よりも相関が強く,S21特性を反映することによって従来よりも実測に近い電圧波形の解析が可能になり,解析精度の向上が図れた。