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封止膜コート基板における銅マイグレーションの抑制について
■電子情報部 ○筒口善央,米澤保人,奥谷潤,的場彰成
1.目 的
電子機器や部品の小型化が進み,プリント配線基板の配線間隔が狭くなり,銅マイグレーションと呼ばれる配線の銅の溶出による短絡故障が発生しやすくなっている。特に,空調機器,給湯機器,制御盤などは,屋外等の高温多湿環境下で使用されるため,銅マイグレーションが発生しやすく対策が必要である。これらの機器では,一般に,防湿および防虫対策のための樹脂製封止膜をコート(塗布)しているが,封止膜は銅マイグレーション対策を考慮して選定されていないため,銅マイグレーションによる短絡故障が発生することがある。これまでに封止膜をコートした場合に生じる銅マイグレーションの発生原因を解析し,封止膜の銅マイグレーション抑制性能を明らかにした研究はほとんど無い。本研究では,封止膜をコートした場合の銅マイグレーションの発生原因を解明し,抑制に必要な封止膜性能を明らかにする。
2.内 容
2.1 封止膜の性能評価
銅マイグレーションは,プリント配線基板の電極間で,水分,金属イオンの溶出(水及びイオン溶出を助長する不純物),電界の3つの要素により発生する1)。そのため,封止膜の性能と銅マイグレーション発生の関係を評価する上で,封止膜の1)吸湿率,2)透湿性,また,特に銅イオンが移動するプリント配線基板と封止膜の3)密着性,4)温水密着性,そして,封止膜中の5)銅イオン溶出物質について評価を行った。1)〜5)について,これらの性能が異なるエポキシ系,ウレタン系,ポリエステル系(膜厚の異なる2種),アクリル系,ブチラール系,シリコーン系,フッ素系,ポリオレフィン系,ポリアミド系と市販防湿材の11種類を評価した。
2.2 銅マイグレーション評価試験
評価用プリント配線基板は,図1に示すような間隔0.3mmで対向した銅電極が10組あり,電極部以外は,はんだレジストが塗布されている。これらに前述した11種類のコート材を評価用基板全体に塗布し,60℃90%rh高温高湿環境下で400Vを印加し,銅マイグレーション評価試験を行った。この評価試験条件では,銅マイグレーション発生による短絡が最も早かったアクリル系封止膜コート基板で,1ヶ月程度を要した。試験の長期化は水分供給の不足が原因と考え,図2に示す結露サイクル試験(低温と高温高湿の繰り返しにより結露が発生する試験)を最大で100サイクル(200時間)まで行った。結露サイクル試験で評価することにより,アクリル系封止膜コート基板では,1ヶ月を要した短絡発生時期を24時間以内に短縮できた。
(図1 評価用プリント配線基板)
(図2 結露サイクル試験)
2.3 銅マイグレーションの抑制と発生原因の解析
(1) 封止膜性能と銅マイグレーション抑制
表1に,11種類の封止膜コート基板における封止膜性能と銅マイグレーション発生についてまとめた結果を示す。主成分分析を用いて相関を解析した結果,銅マイグレーションの抑制には,封止膜中に銅イオンを溶出させる物質がないことが重要であり,シリコーン系やフッ素系が優れていることが分かった。
(表1 銅マイグレーションの発生結果)
(2) 銅マイグレーション解析
銅マイグレーションが発生した対向電極間(図3上面図)の基板断面における銅,塩素の強度面分布をEPMA(電子線マイクロアナライザ)で調べた。その結果,図3に示すように,銅マイグレーションによる短絡が発生した樹脂では,正極で銅溶出イオンとなる塩素が確認された。また,封止膜とはんだレジスト間に沿って銅マイグレーションが生じることが分かった。
(図3 短絡発生基板の強度面分布像の例(アクリル系封止膜コート基板))
(3) 発生原因
封止膜コートを施したプリント配線基板では,封止膜とはんだレジスト間での水の経路形成により,銅マイグレーションが進行する。発生原因としては,封止膜中の塩素成分が水と反応して酸となり,銅イオンを溶出させることが大きく寄与しており,塩素成分が多いほど銅マイグレーションの進行が促進されたものと考えられる。
3.結 果
封止膜の銅マイグレーション抑制性能の評価と発生原因を解析し,以下のことが分かった。
(1) 銅マイグレーションの抑制には,水と反応し,銅イオンを溶出させる塩素等の物質が封止膜に含まれていないことが最も重要である。
(2) 封止膜コートを施したプリント配線基板では,銅イオン溶出及び封止膜とはんだレジスト間での経路形成により,銅マイグレーションが進行する。
参考文献
1) プリント基板の試験と評価,電気学会・イオンマイグレーションの発生特性と防止方法調査専門委員会編,オーム社,2007,p.32