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FRP製薄板パネル用穴あけドリルの開発

■機械金属部 ○廣崎憲一,山下順広
■東興産業(株) 辻谷正彦,間戸朋之

1.目 的
 炭素繊維やガラス繊維のシートを積層し樹脂で固めた繊維強化プラスチック(FRP)は,軽くて強い材料として近年注目されている。これらのFRP材料を切削する場合には,繊維の毛羽立ちや表層の剥離が問題となる。特にパネル部品用途などで板厚が薄い場合には,材料がたわみ易くなるため,ドリルによる穴あけ加工を施す際には反動による跳ね返りが大きく,これらの加工不良が生じ易くなる。そこで本研究では,たわみの要因となる穴あけ加工時の切削抵抗を小さく抑え,かつ,毛羽立ちや表層剥離を防ぐことが可能なドリル形状を考案し,ドリル加工試験によりその加工性能について調べた。

2.内 容
2.1 開発ドリルの設計概念
(1) 薄板パネルの加工における課題
 航空機の主翼におけるパネル部品の製造には,外縁のトリミング加工と取り付け用の穴加工が必要である。主翼を構成するパネル部品ではその形状がすべて異なることや,局所的な応力により表層剥離を生じ易いことから,加工時のパネルの固定には図1に示すパネルの内のりの吸着位置を可変できる治具を使用している。しかし,外縁部のドリル加工を行う際には,切削抵抗により材料がたわみ易く,貫通間際にたわみの跳ね返りを生じて毛羽立ちや表層剥離が起こり易くなる。したがって,これを回避するためにはドリル加工時のスラスト荷重(軸方向の切削抵抗)をより小さくし,たわみを抑えることが有効であると考えられる。

(図1 外縁部の穴あけによるたわみの発生)

(2) 段付き複合アングルドリルの開発
 本開発では,スラスト荷重の最大値を抑え,かつ,毛羽立ちや表層剥離を防ぐことを目的に,図2に示すような先端部に突き出した小さなドリルを備え,後段には鋭角の切れ刃を持つ「段付き複合アングルドリル」を考案した。これは,下穴加工と仕上げ加工の2工程により切削抵抗を分散させる方法を,1本のドリルで行う段付きドリルを基本としている。一方,工具長は2倍程度に長くなるため,加工能率を維持するには,送り速度を通常条件の2倍にしなければならない。これによる材料への応力負荷を低減するため,切れ刃直角に対する実質的切込み量,及びスラスト荷重の抑制を目的として,後段の仕上げ部の切れ刃には,60°の鋭利な角度を有する仕上げ用外周刃を付けた。

(図2 開発ドリルの形状)

2.2 開発ドリルの加工性能評価
 薄板FRP材料の穴あけ加工試験を行い,開発したドリルの性能を評価した。
(1) 加工試験方法
 ドリル加工試験は,加工物を完全に固定した場合と,図3のように片持ち固定による場合について行った。加工物には板厚3mmのガラス繊維強化プラスチックを用い,切削動力計により加工中の切削抵抗を測定した。加工試験には図2に示した開発ドリルに加え,比較対照用に先端角130°の標準型ドリルも使用した。
 加工条件は切削速度を80m/minとし,送り速度については標準型ドリルの場合には0.04mm/rev,開発ドリルではその2倍の0.08mm/revとした。

(図3 片持ち固定による加工試験)

(2) 加工試験結果
 図4にスラスト荷重の挙動を示す。標準型ドリルを用いた場合,片持ち固定加工時のスラスト荷重は完全固定加工に比べて緩やかに立ち上がり,最大約35Nまで上昇した後,急激に除荷された。これは,加工中にたわみを生じ,穴の貫通直前の板厚が薄くなった時に加工物が跳ね返ったためと思われる。一方,開発ドリルでは,片持ち固定加工時のスラスト荷重の推移は完全固定加工時に比べて時間的遅れがほとんどなく,たわみ量が極めて小さい。最大スラスト荷重は約20Nと小さく,標準型ドリルの57%にまで抑制されている。
 図5に加工穴の出口側の状態を示す。標準型ドリルを用いた片持ち固定加工では,跳ね返り現象による表層剥離やアンカットファイバが生じている。一方,開発ドリルでは,片持ち固定加工においても完全固定加工と同様に良好な加工品位が得られていることがわかる。

(図4 スラスト荷重の挙動)
(図5 加工穴の状態)

3.結 果
 FRP製薄板パネルのドリル加工において,板材の跳ね返りによる加工不良を防ぐため,スラスト荷重を抑制できるドリル形状について検討した。以下に,その結果をまとめる。
(1) 先端に小さなドリルと後段に鋭角の切れ刃を有する段付き複合アングルドリルを考案した。
(2) 開発ドリルのスラスト荷重の最大値は,標準型ドリルに比べて57%に抑制された。
(3) 板材の片持ち固定加工において,標準型ドリルでは跳ね返りに伴う表層剥離が生じたが,開発ドリルではその現象を抑制でき,良好な加工品位が得られた。