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軸受用鉛フリー青銅合金の開発

■機械金属部 ○舟木克之

1.目 的
 鉛青銅鋳物は,工作機械やディーゼル機関等の軸受ブッシュ,ライナーや高圧油圧ポンプ部品など中高速・高荷重用途の摺動部材として広く使用されている。近年,RoHSやELV指令等により,部材中の鉛やカドミウムなどの特定有害物質の含有を禁止・減少させる動きが急速に広まっており,環境配慮型代替材料が産業機械メーカ等から切望されている。本研究では,工業的に多用されている鉛青銅CAC603(LBC3:10%Pb)の代替として,共析変態を利用した金属組織制御の手法により,耐焼付性や機械的性質に優れた鉛フリーおよび低鉛(3%以下)組成の軸受用銅合金の開発を行った。

2.内 容
2.1 実験方法
 元湯としてリン青銅(CAC502)35kgを高周波溶解炉で溶解し,種々の合金元素を添加して表1の組成に調整した。それぞれの合金を直径52mm,高さ120mmの円柱金型へ鋳込んで試料とした。摩耗試験は,図1に示すようなリングオンディスク方式のトライボット試験機を用い,60℃に保ったエンジンオイル(SAE 10W)を循環させた油槽中でS45Cの回転板に試験片を10MPaで押付け,焼付限界PV値を求めた。なお,焼付きの判定基準は固着停止の他,トルク計指示の摩擦係数が0.2以上,または摩擦熱によって試験片の温度が200℃を越えた時点とした。

(表1 各種合金の化学組成)
(図1 摩擦摩耗試験)

2.2 開発材の金属組織
 本研究では,金属組織の形態的特徴を利用した摩擦摩耗特性の改善に着目した。例えばフェライト組織の球状黒鉛鋳鉄は延性に富み,衝撃力が加わるような構造体に利用されている。一方,フェライトとセメンタイトが積層した共析組織(パーライト)が主体の材質は,適度な耐摩耗性や耐焼付性を持つことから,軸受や摺動材として使用されており,基地組織によって用途や特性が大きく異なっている。このことから,青銅にパーライト状組織を出現させることで,鉛フリーでも優れた摩擦摩耗特性が得られることが期待でき,合金化による共析変態の制御方法について検討した。
 表1に示す組成の青銅合金の金属組織を図2に示す。合金A及びCは鉛フリー組成であり,合金BとDがRoHS指令の許容範囲内で鉛添加した低鉛組成,LBAとLBC3は鉛青銅系の実用銅系の実用合金である。このうち,合金C,DとLBAにおいては層状の共析組織(濃く見える部分)が観察された。これらの合金ではNiとBiの両方が含まれている。また,鉛フリーより低鉛組成とした方が,共析組織の量が増加していることがわかる。

(図2 各種合金の金属組織)

2.3 開発合金の摩擦摩耗特性
 図3に各試料の焼付限界PV値を示す。LBC3の3000MPa・m/min弱に対して,共析組織の出現した鉛フリー合金Cと低鉛合金Dでは5000MPa・m/min以上と高く,LBAと同レベルの耐焼付性を示した。
 一方,合金A,Bでは,合金C,Dと固溶強化元素のスズやニッケル量に差がないもののPV値に大きな差が認められたことから,共析組織出現の有無が耐焼付性に深く関係していると考えられる。
 また,層状共析組織が出現した合金C,D,LBAとLBC3について,摩擦面圧5MPa,すべり速度5m/sの一定負荷条件下で36000mの摩擦試験後,各試料の質量減を測定した結果を図4に示す。なお,各試験値は3個の平均値である。LBC3の質量減0.397gに対し,鉛フリー材C,低鉛材Dともに0.2g前後と小さく,LBAと比べても遜色のない耐摩耗性が得られた。

(図3 各種合金の耐焼付性)
(図4 耐摩耗性の比較)

2.4 開発合金の機械加工性
 層状共析組織が出現した鉛青銅LBA,鉛フリー系開発合金,低鉛系開発合金の3種類について旋削試験を行い,その切削抵抗から機械加工性を評価した。表2に示したように,いずれの開発合金も鉛青銅と同等の切削抵抗であり,特に低鉛系合金では,鉛青銅よりも1割程度低い値を示した。また,いずれの合金も切屑は細かな砂状となることから,量産時に機械加工での問題を生じることがない快削材であると言える。

(表2 切削抵抗の比較)

3.結 果
 層状共析組織を出現させた銅合金は,鉛青銅LBC3を上回る耐焼付性と耐摩耗性を示すとともに快削性を持ち,鉛青銅代替の鋳造用銅合金として有望と考えられる。得られた主な結果は,以下の通りである。
(1) スズを10%含む青銅合金にビスマス,ニッケル,硫黄を添加したCu-Sn-Bi-Ni-S系合金では,δ相の粗大化とそれを取り囲むように大量の層状共析組織が出現した。
(2) この組織が出現した青銅では,トライボット試験での焼付PV値が飛躍的に向上するとともに,良好な耐摩耗性を示した。また切削抵抗は,鉛青銅と同レベルの低い値であった。