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ファイバ集積型半導体レーザによる金属樹脂溶着技術の開発
■機械金属部 ○舟田義則,廣崎憲一,吉田勇太
1.目 的
電気・電子製品や医療器具などには金属と樹脂を組み合わせた様々な部品が使用されている。近年,機器の小型化や多機能化に伴う金属樹脂複合部品の微細化が必要となったことから,レーザ加熱により金属と樹脂を精密に接合するレーザ溶着技術が注目されている。また,接着剤を使用しないことから,異物の混入を特に嫌う医療器具分野への応用が期待される。
これまでのレーザ溶着では,点に絞ったレーザ光を接合面に沿って移動させる必要があり,接合時間が長くなり,生産性に劣ることが課題であった。そこで,接合面に合わせて照射形状を設定することで,レーザ光を移動させずに短時間で加熱できるファイバ集積型半導体レーザ装置を試作し,金属と樹脂のレーザ溶着に対する適用性を検討した。
2.内 容
2.1 ファイバ集積型半導体レーザ装置の試作
ファイバ集積型半導体レーザ装置の原理を図1に示す。光ファイバが結合された半導体レーザ素子を複数個使用し,レーザ光を加工ヘッド内の光ファイバ集積部品に導光した後にレンズで絞ると,集積部品内の光ファイバの配列によって照射形状を任意に変更可能である。
半導体レーザ素子を6個使用した最大出力60Wのファイバ集積型半導体レーザ装置と光ファイバを直線に配列した場合の照射形状を図2に示す。焦点位置では,各素子に対応する集光点が長さ1.5mm,幅0.16mmの範囲内で直線的に配置された状態でレーザ光が照射される。
(図1 ファイバ集積型レーザの原理)
(図2 レーザ装置本体と照射形状)
2.2 レーザ溶着実験
(1) リン青銅板とナイロンシートの溶着実験
ケーブルコネクタに使用されるリン青銅板(2×0.5×t0.1mm)とナイロンシート(10×20×t0.3mm)についてレーザ溶着を試みた。実験では,図3のように石英板で押さえてリン青銅板とナイロンシートを密着させ,レーザ光を照射した。照射した光は石英板と半透明のナイロンシートを透過し,また,その照射形状が長さ1.5mmの直線であることからレーザ光の走査なしでもリン青銅板表面のほぼ全域を加熱できた。
レーザ光の照射時間は2秒で一定とし,レーザ出力を変えて実験した結果,図4のように出力が18W以上でナイロンシートの溶着が可能であった。溶着部の引剥がし試験を行った結果,図5に示すようにレーザ光出力が高いほど溶着強度が高く,出力が34Wでは5N/mm2を超えた。これは,ケーブルコネクタの抜き差しに必要な力(3N/mm2)に十分耐え得る値である。
(図3 レーザ溶着実験方法)
(図4 レーザ溶着後のサンプル)
(図5 レーザ溶着強度)
(2) ステンレス鋼パイプと樹脂チューブの溶着実験
カテーテルなど医療器具等への応用を検討するため,外径φ2mmのステンレス鋼パイプとナイロンチューブのレーザ溶着実験を行った。この場合,図6に示すように4台のファイバ集積型レーザ装置を配置し,同時にレーザ光を照射するマルチビーム式とした。
照射時間2.5秒で出力を変えながらレーザ光を照射したところ,図7に示すように総合出力が12W以上で円周方向にムラのない透明な溶着部が現れた。引張試験により溶着強度を調べた結果,図8に示すように溶着強度はレーザ出力が高いほど大きくなり,総合出力が36Wでは5N/mm2を超えた。これは,市販されている医療用接着剤の接合強度と同程度である。
(図6 マルチビーム式レーザ溶着)
(図7 レーザ溶着後のサンプル)
(図8 金属パイプと樹脂チューブのレーザ溶着強度)
3.結 果
照射形状を可変できるファイバ集積型半導体レーザ装置を試作し,金属樹脂レーザ溶着に対する適用性を調べた。その結果,レーザ光の走査を必要とせずに短時間で実用強度を有する溶着が可能であることを確認でき,その実用性を確認することができた。