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熱可塑性樹脂複合材料用繊維の研究開発

■繊維生活部 ○奥村 航 木水 貢 長谷部裕之

1.目 的
 繊維強化複合材料はプラスチックを繊維で強化した材料であり,軽量で高強度・高弾性率という特性から,車輌の軽量化等において鉄代替材料として注目されている。繊維強化複合材料に用いられる樹脂には熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂があり,前者は従来から使用されている熱で硬化する樹脂であり,後者は熱で軟化し冷却して固まる樹脂である。成形時間を短縮でき,リサイクルが容易ということから,近年,後者の熱可塑性樹脂を使った繊維強化複合材料の開発が盛んに行なわれている。しかし,一般に熱可塑性樹脂は溶けたときの粘度が高い為,強化繊維間に含浸しにくい。そのため,繊維と樹脂との間に空隙(ボイド)が多くなり,物性が十分に発現しないという課題がある。
 そこで,本研究では,熱可塑性樹脂を繊維化し,この熱可塑性の繊維を強化繊維の間に配置させ,成形時に熱可塑性繊維のみを溶かすことで複合材料化するコミングル法について検討した結果を報告する。

2.内 容
2.1 溶融紡糸
 当場保有のマルチフィラメント製造装置等を用い,ポリプロピレン(以下,PP)樹脂とポリフェニレンサルファイド(以下,PPS)樹脂の繊維化を行った。複合材料の成形で繊維を溶かす際に繊維の熱収縮率が高いと,強化繊維の配列を乱す可能性がある。そのため,熱収縮率が高くならないように,PP繊維は300 m/min,PPS繊維は200 m/minと低速で紡糸を行った。得られた繊維の繊度とフィラメント数はPP繊維が400dtex,56fであり,PPS繊維は270dtex,24fであった。また,得られたそれぞれの繊維について熱物性評価を行なった。

2.2 コミングル糸の試作
 熱可塑性繊維として上述のPP繊維あるいはPPS繊維を用い,強化繊維として220dtexのアラミド繊維を用いてコミングル糸を作製した。コミングル糸を作製する方法としてダブルカバリングとエア混繊の二通りを検討した。前者の作製条件は撚り数500 T/m,スピンドル回転数4000 rpmであり,撚り留めの為にカバリング線上で180℃の非接触式ヒータを通してセットした。後者の作製条件は糸速度50 m/min,撚り数60 T/m,空気圧0.8 MPaのエアジェットノズルを通し,フィード率を0〜2%に変化させて試料を作製した。フィード率が1%以上の時,繊維の交絡が確認できた為,1%の試料について後述のプレス成形を検討した。

(図1 電子制御ダブルカバリング装置)
(図2 エアジェット式コンポジットワインダ)

2.3 プレス成形による繊維強化複合材料の試作
 上述のコミングル糸を図3の様に鉄板に巻きつけ,鉄板ごと加熱・ホットプレス成形することにより繊維強化複合材料を試作した。また,ホットプレス成形に先立ち,融点以上の予備加熱の有無で樹脂の含浸性についても検討した。

(図3 コミングル糸の複合材料化)

3.結 果
 図4に本手法で得られた繊維複合材料の外観とSEMによる断面観察像を示す。PP繊維の場合,予備加熱しすぎると樹脂の流動性がよくなり,アラミド繊維が繊維軸と垂直方向へ流されている様子が確認できる。また,SEM断面をみるといずれもアラミド繊維との境界に隙間が生じている。これはPP樹脂の接着性の悪さに起因すると考えられ,PP樹脂の改質あるいはアラミド繊維の表面加工の検討が必要であると分かった。一方,PPS繊維の場合は,予備加熱無しの場合アラミド繊維との境界に隙間が生じているが,融点以上で予備加熱すると,エア混繊,ダブルカバリングいずれの場合でも隙間が無くなり,樹脂が良く含浸されていることが確認できる。従って,熱可塑性樹脂による繊維強化複合材料のボイド低減を図る為には,コミングル法のみならず,(1)熱可塑性樹脂毎に接着性向上等の対策と,(2)融点以上の予備加熱を組み合わせる必要があり,これらを満たすことでボイドの低減が図れる可能性が示された。
 今後,これらの知見を基に複合材料のボイド率低減について検討し,生産技術の確立と製品化,事業化を目指す予定である。

(図4 繊維複合材料の外観とSEMによる断面観察)