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アラミド繊維の高機能化に関する応用研究

■繊維生活部 ○守田啓輔 沢野井康成

1.目 的
 アラミド繊維は,汎用合成繊維に比べ機械的強度,耐熱性,耐薬品性等に優れており,その特性を活かした特殊用途(産業資材や防護服など)を中心に展開されている。同繊維の用途を従来の特殊分野以外にも展開して需要を広げる上で,いかに付加価値を高めるかが課題である。しかし,アラミド繊維は表面構造が安定かつ強固なため,後加工における樹脂の密着性が低く,機能化や樹脂との複合化を行う上で支障となっている。このため,これまでに様々な機能加工方法が試みられてきたが,効果やコスト面で課題があり,実用化に至った事例は殆んどない。
 本研究では,アラミド繊維に対して,活性ガスを用いた気相処理法による表面改質を行うことにより,種々の後加工に関する耐久性を高める方法について検討した。

2.内 容
2.1 気相処理
 アラミド繊維布帛を,活性ガス(フッ素ガス,二酸化硫黄ガス),窒素ガス及び酸素ガスを所定濃度含む気相中で曝露処理した後,水洗・乾燥した。気相処理時の速度は5水準(v1,v2,v4,v6,v8),処理時間は4水準(t1,t2.5,t5,t10)に設定した(vとtは係数で,数字は相対比を示す)。

2.2 機能加工
 気相処理アラミド布に対して機能加工(撥水,帯電防止,防汚)を個々に行った後,繰返し洗濯による耐久性を評価した。機能加工は,所定濃度の溶液にアラミド布を浸漬した後,パッドキュア(180℃)により行った。繰返し洗濯試験は,JIS L0217 103法に準拠した。気相処理後に機能加工した試料(C)以外に,比較用として未処理布(A)と,Aに後加工のみ行った試料(B)についても洗濯試験を行った。撥水性評価はJIS L1092 6.2(スプレー法)に準じて行い,撥水率(%)と撥水度(級)を求めた。

3.結 果
3.1 気相処理
 気相処理速度の異なる試料C(v1〜v8)及び試料Bについて,撥水加工後の撥水率と洗濯回数の関係を図1に示す。ここで,CはいずれもBより洗濯耐久性が高く,中でも速度が最小であるC(v1)の耐久性が最も高かった。また処理時間で比較した場合,t1よりt2.5の方が耐久性が高く,2.5t以上ではほぼ一定であった。
従って,アラミド繊維の気相処理は,処理速度が最小で処理時間が2.5t以上の場合に最適と考えられる。

(図1 気相処理条件と撥水性)

3.2 機能加工
 3.1の結果に基づく処理条件(v1,t5)で気相処理した後に撥水加工した試料の撥水性結果を図2に示す。Bは,洗濯回数と共に撥水率が減少し,撥水度は初期の4級から洗濯50回後に2級に低下したのに対し,Cでは撥水率の減少はわずかであり,50回後の撥水度も4級を維持していた。また,洗濯50回後の表面状態を比較すると,図3のように,AとBは毛羽立ちが発生したのに対し,Cでは毛羽が殆んど認められない。これは,気相処理によりアラミド繊維と撥水剤との密着性が向上したことで,繰返し洗濯後も撥水性及び耐摩耗性が保持されたためと考えられる。
 帯電防止剤を加工したアラミド布の洗濯耐久性を図4に示す。A,Bに比べてCが最も帯電防止性が高く,かつ洗濯に伴う効果の低減が最も少ないことが分かる。
 さらに,図5に示すように,防汚加工したアラミド布の場合,汚染・洗浄試験を行った後の汚染度(ΔE*ab:汚染前との色差)はCが最も小さい。また,Bが洗濯により次第にΔE*abが増大する(汚れやすくなる)のに対し,Cは洗濯後も防汚効果が持続する傾向がある。

(図2 撥水性結果)
(図3 洗濯50回後のアラミド繊維表面)
(図4 帯電防止性結果)
(図5 防汚性結果)

 以上の結果から,アラミド繊維を気相処理することにより,上記3種類の機能加工のいずれも密着性が増大し,洗濯耐久性が向上することが確認できた。
 気相処理後に機能加工したアラミド繊維を用いて,繊維製品(手袋,消防服,作業着,靴)を製作した。本研究の成果を,今後の機能性アラミド繊維製品の普及に活用する予定である。