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楕円振動アクチュエータによるガラスの割断加工

■機械金属部 ○廣崎憲一 山下順広 高野昌宏 根田崇史 吉田勇太

1.目 的
 液晶テレビ用フラットパネルやハードディスクの基板など情報産業を支える素形材としてガラスが多用されている。これらの板ガラスを所定のサイズに分割する方法としては,従来より割断加工が行われている。産業用として一般的に用いられる割断方法は,ガラス基板表面に微小なV溝を形成し,次いで曲げ応力を加えて破断させる手法である。近年では,後工程となる曲げ破断工程を省くために,V溝形成時に発生する垂直クラックをより深く入れる手段として,突起状工具をミシン目状に押し込む手法が開発されている。そこで本研究では,圧電素子を用いた楕円振動アクチュエータを試作し,硬さ試験用圧子の加振によるガラスの割断加工を試みた。また,圧子の摩耗抑制における楕円振動の効果について検証したので報告する。

2.内 容
2.1 圧子工具とガラスとの相対運動
 硬さ試験に用いるヌープ圧子(ダイヤモンド製)を板ガラス表面に適度な間隔で深さ数μm押し込むと,板ガラスの板厚方向に深いクラックが連続的に発生する。この方法により生産レベルでガラスを割断する場合,加工テーブル上のガラスは一定の速度で送られる。この際,圧子を垂直方向に降下させると,圧子はガラスを引っ掻くように摺動し,その結果,圧子先端で摩耗が生じてしまう。この摩耗を抑制するためには,圧子がガラスに接触している時の相対的なすべりを抑える必要がある。そこで,送り方向へのすべりを緩和する対策として,図1に示すように圧子先端を送り方向に対しても正弦波運動を与える,つまり,楕円軌跡で駆動することを提案した。

(図1 工具先端の楕円軌跡)

2.2 楕円振動アクチュエータの試作
 圧子先端が任意の周波数で楕円軌跡を描くアクチュエータの概略図を図2に示す。アクチュエータは,平行板ばねと圧電素子を用いた微小変位構造をそれぞれ有する水平加振用フレームと垂直加振用フレームで構成した。双方の圧電素子に同一周波数で位相差90°の正弦波を印加することにより,垂直加振用フレームに取り付けられた圧子工具は楕円軌道を描くことができる。フレームは,材料としてアルミ合金A7075を用い,有限要素法による静解析及び固有値解析によりユニットの最小共振周波数が約2kHzとなるように設計した。また,それぞれのフレームは印加電圧150Vにおいて,約12μm変位する。

(図2 楕円振動アクチュエータ)

2.3 液晶ガラスの割断加工実験
 楕円振動アクチュエータを用いたガラス割断ユニットを構成し,液晶ガラスの割断加工を試みた。
(1) 加工装置
図3に実験装置を示す。実加工においては圧子が一定の押し込み量を維持するために,板ガラスの数μmオーダの表面うねりに倣う必要がある。そのため,ユニットを精密リニアガイドに取り付け,エアシリンダによって重量的平衡を保ち,割断加工に必要な荷重は錘りによって与える構造とした。また,ガラス材の送りはリニアモータ駆動のテーブルにより行った。
(2) 加工条件
 加振条件は,周波数が1kHz,振幅量は片振幅で垂直方向に6μm,水平方向に5μmとした。したがって,圧子の最下点における送り方向の速度成分はVx=2π・5・1×103≒30mm/sとなるため,ガラスの送り速度は30mm/sとした。この場合,圧子の打ち込む間隔は0.03mmとなる。加工に供したガラス材料は板厚0.7mmの液晶用無アルカリガラスとした。
(3) 加工結果
 図4に圧子荷重7Nにおけるガラスの加工状態を示す。ヌープ圧子の圧痕が0.03mmの間隔で打ち込まれている様子が観察される。斜めからの観察にみられるようにクラックは板厚方向に深く浸透しており,この状態では軽く触れるだけでも確実に分割が可能であった。図5は圧子荷重5N,加工距離12m(80mm×150ライン)における振動モードの違いによる圧子の摩耗状態を示す。楕円振動における工具先端の後退量は,垂直振動のみの場合に比べて約50%と小さく,摩耗が抑制されたことがわかる。また,振動の無い(摺動状態)場合は著しい摩耗が観察されることから,原理的に摺動が生じる加工手法は摩耗を促進させてしまうことが認識できる。また,図6は,回転テーブルを使用して,板ガラスからディスク形状に加工を行った事例である。

(図3 ガラス割断ユニット)
(図4 液晶ガラスの加工状態)
(図5 ヌープ圧子の摩耗状態)
(図6 ガラスディスクの割断)

3.結 果
(1) 楕円振動アクチュエータおよびヌープ圧子を用いたガラス割断ユニットを試作し,それにより液晶用ガラス(板厚0.7mm)の割断加工が行えることを確認した。
(2) 圧子工具の軌跡が楕円振動の場合は,単振動の場合に比べて工具摩耗が小さくなった。
(3) 加工速度の高速化には圧子振幅量の確保と振動周波数の高周波化が必要である。
(4) 実用的には振動状態における圧子の加振力の制御と送り速度の制御が課題と考えられる。