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耐火断熱れんがの高品質化と環境低負荷製造技術の開発

■化学食品部 ○佐々木直哉 豊田丈紫 北川賀津一 田畑裕之

1.目 的
 耐火断熱れんがは,軽量で熱伝導率が低く,900〜1500℃と広範囲に亘る炉壁の断熱材として鉄鋼やガラス溶解炉など様々な分野で利用されている。900〜1000℃域の低温用耐火断熱れんがには能登珪藻土が利用され,「珪藻土れんが」として古くからその地位を築いてきた。産地の七尾市,珠洲市ではこの珪藻土れんがは主要産業の一つであるが,業界の課題として従来から珪藻土原料の質によって1000℃域のれんがの再加熱収縮率にバラツキがあることや,焼成時にわずかに発生する亜硫酸ガスのにおい対策があった。
 本研究は,珪藻土にカルシウム源を添加し,焼成時に発生する亜硫酸ガスと反応させることでれんが中に石膏(CaSO4)を析出させ,再加熱収縮率を2%以下に抑えるとともに亜硫酸ガスの発生を50%以上削減させる製造技術の確立を目標として取り組んだ。

2.内 容
2.1 テストピースによる基礎試験
 カルシウム源には,水酸化カルシウム(Ca(OH)2)と炭酸カルシウム(CaCO3)を用い,珪藻土100gに対しそれぞれ5,10,20%ずつ外割りで添加した。これらの試料とおが屑80mlを混合機により水分50%で混合後,φ50mmの円盤状にプレス成形し1000℃で焼成を行った。焼成後の試料についてかさ比重,焼成収縮率,再加熱収縮率などの物性評価を行った。また亜硫酸ガスの測定については,同様の割合で珪藻土とカルシウム源を混合後0.2g秤量し,管状炉にて10℃/minの昇温速度で焼成を行いながらポータブルガス分析計により発生した亜硫酸ガス濃度を測定した。脱硫率は,それぞれ焼成中に発生した亜硫酸ガス濃度を積算し,無添加品との比較により算出した。
 図1より再加熱収縮率(1000℃,12時間保持)は,水酸化カルシウムと炭酸カルシウムとも添加量の増加とともに減少し,どちらも5%以上添加することで目標の2%以下になることがわかった。かさ比重は,どちらの添加剤とも添加量による変化は認められず0.7付近で一定であった。焼成収縮率は,添加剤による違いは認められず、添加量の増加とともに減少することがわかった。また図2より脱硫率は,水酸化カルシウムを添加した方が高く,5%の添加量で亜硫酸ガスの発生を50%以上削減できることがわかった。これは,亜硫酸ガスが450〜500℃付近で一番多く発生するため,460℃で分解する水酸化カルシウムの方が820℃で分解する炭酸カルシウムより反応性が高かったと考えられる。

(図1 添加剤による再加熱収縮率の変化)
(図2 添加剤による脱硫率の変化)

2.2 実用化試験
 テストピースによる基礎試験の結果から,水酸化カルシウムの添加量を5%とし製造ラインでの試作を行った。水酸化カルシウムは凝集性が高いため,5%添加では基礎試験でのプレス成形とは異なり押出し成形時に亀裂が生じた。添加量を減らした結果,1.5%以下で押出し成形が可能であることがわかった。また炭酸カルシウムを2.5%添加した場合は,押出し成形時に発泡現象による亀裂が生じた。これは珪藻土が硫酸酸性を示すため,押出し成形時に炭酸カルシウムと反応し炭酸ガスが発生したと考えられる。そこで反応を事前に促進させるため,珪藻土粉砕前に炭酸カルシウムと混合し一晩放置した。その結果,発泡現象を抑えることができ,炭酸カルシウム5%と水酸化カルシウム1.5%添加による押出し成形が可能となった。
 成形した試料を乾燥後,当場の電気炉にて900,950,1000℃で焼成し,再加熱収縮率(1000℃,12時間保持)を測定した結果を図3に示す。950℃以上で焼成することにより目標とする再加熱収縮率を2%以下に抑えることができた。図4よりかさ比重は,カルシウム源を添加することにより0.1程度重くなったが,おが屑の添加量を増加させることで基準である0.7以下にすることができた。またれんが中の残留硫黄分を測定した結果,この配合割合における排煙中の脱硫率は,36.3%と推定できた。

(図3 焼成温度による再加熱収縮率の変化)
(図4 焼成温度によるかさ比重の変化)

3.結 果
 製造ラインでれんが形状に成形することができ,1000℃域のれんがの品質を満たす配合割合と焼成条件を見出すことができた。亜硫酸ガスの発生も3〜4割削減できることが推定された。現在,業界とともに実炉における焼成条件の最適化など残された課題解決に取り組んでいる。

謝辞
 本研究を遂行するにあたり,実用化試験として原材料や設備の提供,製造ラインでの試作にご協力頂いた冨士断熱工業(株),丸越工業(株),太成工業(株)の皆様に感謝します。