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染色余剰汚泥を有効利用した屋上緑化用セラミックス多孔基盤の開発

■化学食品部  ○北川賀津一 佐々木直哉 田畑裕之 中村静夫
■小松精練(株)   金田明久 奥谷晃宏  
■ (株)トーケン 玉井禎人
■(株)アースエンジニアリング 大西和弥 
■ 石川県立大学 長谷川和久

1.目 的
 北陸地域は国内の合繊織物の80%を生産している産業集積地で,大手,中小を含め多くの染色整理工場が立地している。これらの工場では多くの産業排水を活性汚泥法で処理しており,多量の余剰汚泥(以下汚泥)が発生するため産業廃棄物として処理に多額の経費を要している。
 一方,エアコンや自動車からの人工排熱の増加等が原因のヒートアイランド(熱の島)現象で,夏季の都市環境は高温化が進んでいる。この対策の一つが屋上ないし壁面緑化で,植物が水分を蒸散する際の潜熱による温熱環境の改善や,断熱性向上による人工排熱の減少が期待されている。
 小松精練(株),(株)トーケン,及び(株)アースエンジニアリングは汚泥を5〜10%配合した多孔基盤の開発に成功し,これを活用した屋上緑化材の販売を平成21年から開始している。同時に汚泥の配合率を高めた製品の開発と用途開拓を目指し,石川県立大学と工業試験場が参画し,経済産業省の地域イノベーション創出研究開発事業(H21-22)を実施した。
 本事業において工業試験場は汚泥の配合比率を30%に上げた多孔基盤の開発と評価を(株)アースエンジニアリングとともに担当した。その結果,汚泥の有効利用を図ることができたので報告する。

2.内 容
2.1 原料配合と試作条件
 汚泥は粒径が約3μmの粒子で,微生物と約80%の水が球形の細胞膜に取り囲まれ,この粒子が凝集し集合体を形成する泥状のものである。従来の配合比率や製造技術では,汚泥の混合率が10%を超えると急激に発泡倍率が悪化するとともに混練後の粘性がダウンし乾燥,焼成時に亀裂や湾曲が発生し,緑化に適した多孔セラミックス基盤は得られなかった。そこで汚泥30%の場合は汚泥10%に比べ鋳物スラグと成形,保形に優れた粘土を多く配合し,焼成珪藻土の添加量を少量にした。この原料を十分混練し,真空土練機で押出成形することで厚さ13mm,幅500mm,長さ1000mmのセラミックス平板を得た。
 混練成形物は,連続型焼成炉で焼成した。連続型焼成炉においては,対象物を一定速度で炉内を移動させ,中央部の最高温度(焼成温度)を1000℃付近に設定した。最高温度(焼成温度)のゾーンに到達するまでに,混練成形物からまず水分を蒸発させ,その後に余剰汚泥の有機物を燃焼熱分解した。その工程で,温度上昇(ヒートカーブ)を適正に管理することで,急激な水分蒸発及び有機物揮発を抑え,混練成形物の破壊(爆砕)が発生しないようにした。試作した汚泥混合率30%の多孔基盤を図1に示す。
 汚泥は混練,乾燥工程で臭気を,焼成で発煙を発生するので,スクラバーと誘引ファンを製造工程に設置し除去した。焼成した基盤はカッターで500mm角に切断した。

(図1 開発された汚泥混合率30%の多孔基盤)

2.2 開発した多孔基盤の物性
 開発された多孔基盤の主な物性値を表1に示す。汚泥10%基盤は鋳物スラグの発泡膨張による偏平状の気孔が観察される。汚泥30%基盤は原料に鋳物スラグを45%含有するが,発泡が抑えられ偏平状の気孔が減少した。厚さ,かさ比重,飽和含水率,曲げ強度,熱伝導率は目標値を達成し,屋上緑化材として使用可能であることを確認した。−20℃で5回の凍結融解試験を実施し,欠け割れの異常は発生しなかった。汚泥10%基盤は湿潤重量で45kg/m2と軽量であるが,汚泥30%基盤は更に1/2以下に軽量化できる。しかし,曲げ強度も汚泥10%基盤の約1/2で,強度向上が今後の課題である。
 基盤の気孔構造を水銀圧入法による細孔分布で調べた。測定は(財)ファインセラミックスセンターの機器を使用した。10〜100μmとサブミクロン付近に細孔分布のピークが観測された。汚泥量が10%から30%に増えると10〜100μm のピークは減少し,サブミクロン付近のピークは増加したことから10〜100μmのピークはスラグの発泡膨張,サブミクロン付近のピークは汚泥由来の気孔と考えられた。
 開発された緑化材用の多孔基盤は,飽和含水率が汚泥10%基盤と同様に高く,植物の蒸散効果だけでなく,基盤の断熱効果と,その保水性による基盤自体からの水分の蒸散などの複合効果を有する。また開発した多孔基盤の安全性は,土壌汚染に係わる環境基準(平成3年8月23日環境庁告示第46号)に基づき27項目の溶出試験により確認した。以上より,汚泥の単なる廃棄物処理でなく有効利用が図られたと考える。

(表1  汚泥含有率の異なる基盤の物性比較)

3.結 果
 汚泥を主原料とする緑化材用セラミックス多孔基盤の開発に取り組み,以下の結果を得た。
(1) 汚泥を30%に鋳物スラグと粘土,及び少量の焼成珪藻土を配合し,厚さ13mm,幅500mm,長さ1000mmの平板を押出成形した。この平板を最高温度約1000℃で焼成し多孔基盤を試作した。
(2) 多孔基盤は汚泥10%基盤と比較し厚さが15mmに減少するが,かさ比重,飽和含水率,熱伝導率は現行品と同程度であった。汚泥10%基盤より薄型,軽量で,新規用途の薄型緑化材用基盤として事業化が期待されている。

 本事業は経済産業省・地域イノベーション創出研究開発事業(地域資源型)として実施した。原料配合と焼成技術に対し,ご助言を頂いた独立行政法人産業技術総合研究所中部センターの長江肇氏に感謝します。