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非接触3次元測定における撮像位置推定法の研究

■電子情報部 ○笠原竹博 上田芳弘 米沢裕司

1.目 的
 鋳造や樹脂の成型品の形状測定には,非接触3次元測定装置(以下,装置)が用いられている。この装置はスリット光投影法などを応用し,部品を撮像することで表面形状を測定するものであり,短時間で多くの面状点群データを取得することができる。全周データを得るためには,任意の位置から試料の撮像を開始し,異なる位置からの撮像を繰返すことにより得られた複数の形状データを,装置の持つ機能によって合成する。現在,撮像位置の決定は作業者によって行われており,試料が複雑な形状の場合にすべての面のデータを得るためには,隠れた面を何度も繰返して測定する必要がある。すでに取得したデータから,次の撮像位置の推定を行うことができれば,次の撮像位置の決定が自動化され,さらに試料と装置の移動が自動化されれば,測定機能と測定結果の合成機能を組み合わせることにより,非接触3次元測定の大幅な簡易化が可能となる。
 本研究では,撮像位置決定の自動化を実現するため,まずは視方向φとθの2自由度の決定法について検討し,提案手法の有効性について評価を行った。

2.内 容
2.1 提案手法
 図1上のような形状の試料を位置aから撮像すると,障害なく認識される面と,手前のブロックの死角となって認識されない箇所が発生する。この認識されない箇所を効率よく認識するには,図1下のように認識面と未認識箇所の境界を縁とする仮想面を想定し,この面に対向する向きから撮像すれば新たに認識面が増えることが期待される。このような仮想面の算出方法を検討した。なお,装置の測定データ形式として,複数の三角形ポリゴンからなるSTL(STereo Lithography)形式を採用した。
 まず,測定で得られたSTLデータから,他と共有しない三角形の辺を抽出し,エッジとする(図2)。このエッジが認識面と未認識箇所との境界となり,仮想面の縁となる。図3のように,このエッジがn個の辺から成るとすると,i番目の辺をベクトルLiで表す。Liの始点の平均点を点Cとし,CからLiの始点までをベクトルRiで表し,RiとLiで作られる三角形をTiとすると,仮想面はn個の三角形Tiで埋められることとなる。また,三角形Tiの向きと面積は,RiとLiとの外積ベクトルPi=Ri×Liの向きと大きさによって表され,n個のPiのベクトル和をとったPsum=ΣPiは,仮想面全体の向きと面積を表す。そこで,このベクトル和Psumを仮想面ベクトルと呼ぶ。ある未認識箇所を測定するには,このように算出された仮想面ベクトルの視方向から撮像することが有効だと考えられる。

(図1 面認識の可否)
(図2 エッジ抽出)
(図3 仮想面計算)

2.2 複数の仮想面ベクトルへの対応
 上述した仮想面ベクトルは,仮想面のエッジがどんなに複雑な場合でも,未認識箇所1つにつき,1つのベクトルが算出される。そのため,複数の未認識箇所が発生した場合は,複数の仮想面ベクトルが存在する。これらから,できるだけ多くの仮想面を一度に撮像できるような最適撮像位置を推定するため,クラスタリングの手法を用いることにした。すなわち,仮想面ベクトルは図4のようにφとθで表すことができ,図5のようにすべての仮想面ベクトルに対して,φとθから計算できる2ベクトル間のなす角度をパラメータとして,階層型クラスタリングを用いて分類した。なお,クラスタリングに用いる距離は最長距離法とした。
 上記をまとめた測定シーケンスは,以下のようになる。
(1) 初期位置(φ,θ)=(0°,45°), (180°,45°)の2箇所から撮像し,STLデータD1,D2を得る。
(2) D1とD2を合成したものを,M1とする。
(3) M1について,全ての仮想面ベクトルを計算する。
(4) 仮想面ベクトルをクラスタリングにより分類し,最も多くの仮想面ベクトルを含むクラスタ(図5の黒線)の重心を撮像位置とする。
(5) 算出された位置から撮像して得られたデータD3とM1を合成し,M2とする。
(6) (3)〜(5)を未認識箇所がなくなるまで繰り返す。

(図4 φθ表記)
(図5  クラスタリング結果)

2.3 評価方法
 検討した手法を評価するため,簡単な形状の評価試料を作成した(図6)。また,得られたφ,θに応じて試料を移動するため,ターンテーブルにブランコ構造を追加したφθステージを作成した(図7)。試料は本ステージ上に固定し,装置は斜め45°上方に固定して,撮像を行った。上記シーケンスにより外周の測定を行い,推定された撮像位置を用いて,撮像回数を評価した。

(図6 試料)
(図7 ステージ)

3.結 果
 簡単な形状の試料を用いて構築したシーケンスに従い計算を行ったところ,測定データから推定位置を計算することができ,これに従って全周測定を行うことができた(図8,図9)。また,測定回数を,初心者が手作業で行う回数よりも低減することができた。一方,複雑な試料では,原理的に撮像できない位置を繰り返し推定されて,測定が継続できないことがある。この課題を解決するため,3DCADを用いることによって本手法を改良する予定である。

(図8 測定データとPsum)
(図9 全周測定結果)