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陶磁器製品からの溶出規制値強化への取組みについて

■九谷焼技術センター ○木村裕之

1.背 景
  九谷焼は石川県を代表する伝統産業の一つであり,高い透明感と独特の色調を持つ「九谷五彩」と呼ばれる色鮮やかな和絵具による装飾がその大きな特長として知られている。九谷焼に限らず陶磁器の上絵具は,800℃前後で溶融する無色透明のフリットと呼ばれるガラスの粉砕物に,遷移金属元素や顔料等の着色剤を混合したものからできている。上絵具は,陶磁器表面に筆等で塗布し,電気炉で熱を加え焼付けすることで,陶磁器表面に融着させガラス中に着色剤が溶け込むことによって着色ガラスとして発色する。
  上絵具には,母材であるフリット成分として酸化鉛が使用されている。鉛は酸性の水に触れると僅かながら溶け出すことが知られている。鉛は重金属であり人体に影響を与える。このため,食品衛生法により「陶磁器製品からの溶出規格基準」が定められている。1999年にISOの溶出基準の改正(規制値の強化)が行われ,これを受けて食品衛生法の改正が昨年7月31日に告示された。1年間の移行期間が設定されており,平成21年8月1日から新規格基準(表1)が実施される。

(表1 陶磁器製品からの溶出規格基準)

 鉛の使用については,紀元前のメソポタミアやエジプト等で確認されており,2,000年を超える長い歴史を持っている。しかし,近年,人体への安全性や環境に対する意識の向上のため,多くの分野で鉛を使用しないという動きがある。例えば,電子部品等に使用するハンダにも鉛(金属鉛)が使用されているが,最近では無鉛ハンダが一般的に使用されている。無鉛化は時代そして世界的な流れといえる。このため,工業試験場では無鉛和絵具の開発・技術移転を行い,業界への普及を行ってきた。
  食品衛生法の改正期日が確定したことから,九谷焼業界でもこれに対応するための動きが活発になっている。ここでは,工業試験場の規制値強化の問題に関する業界支援について報告する。

2.内 容
2.1 相談・指導による支援
(1)上絵具製品の溶出試験
  期日は未定ながら数年前からISOに準拠した規制値の強化が予想されていたため,平成18年頃から,百貨店や消費地問屋等からは九谷焼の業者(生産者)に対して新規制値に対応するように要望が出されていた。このため,上絵具及び上絵具製品の溶出試験の相談件数が急増してきた。試験点数については,従来,年間2,000点前後であったものが,平成18年度 約3,100点,平成19年度 約3,400点,平成20年度 約3,200点となっており,今年度についても同程度が予想される。食品衛生法で定められている溶出試験方法とは,4%酢酸溶液(食酢と同濃度)を容器に満たし,22±2℃の恒温恒湿で24時間静置し,回収した酢酸溶液中に溶け出してくる鉛及びカドミウム濃度を測定する。試験方法の改正については,今回は行われなかった。

(2)耐酸和絵具の改良試験
  食器には,鉛を含んでいるが表1中の( )内に示される現行の溶出基準に対応するために開発された耐酸和絵具が使用されている。しかし,規制値が強化されると,耐酸和絵具では深さ2.5cm未満の製品については,焼成温度を20℃程度高く(従来は800℃)することにより対応可能であるが,深さ2.5cm以上の製品では対応が難しくなる。このため,鉛溶出量の低減を目的として耐酸和絵具の改良試験を上絵協同組合と共同で行った(平成18,19年度の2ヵ年)。
  耐酸和絵具は耐酸フリット,鉛白(塩基性炭酸鉛),ケイ石と色素から構成される。耐酸フリット及び各成分の調合割合について検討を行った。その結果,鉛溶出量が2.0μg/ml以下となる耐酸和絵具を得ることができた。

2.2 無鉛和絵具の研究,技術移転及び普及
  工業試験場では,ISO規格の改正が予定された平成8年から無鉛和絵具の開発に取り掛かった。「九谷五彩」といわれる基本色(青,紺青,黄,紫,不透明赤)の無鉛化,無鉛透明赤絵具,無鉛白盛絵具,無鉛黒盛絵具の開発を行い,業界へ技術移転を行ってきた。また,業界に対し,溶出基準強化の周知及び無鉛和絵具の使用方法等の説明を行ってきた。一昨年度辺りから,無鉛和絵具を使用した九谷焼製品の数が増えてきた。

(図1 無鉛和絵具を使用した九谷焼製品)

 現在,使用されている無鉛和絵具は,耐酸和絵具よりも50℃程度高い850℃〜870℃で焼成する必要がある。この温度差に関して業界からの要望を受け,耐酸和絵具と同じ温度帯(800〜820℃)で使用可能な無鉛和絵具の開発研究を行う。