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微細加工に適した快削性セラミックスの結晶制御技術の研究

■化学食品部 ○佐々木直哉 豊田丈紫 北川賀津一

1.目 的
  快削性セラミックスは,機械加工性とともに電気絶縁性,断熱性に優れていることから半導体検査用に利用されている。一方で半導体製品の高密度化に伴い,検査用部品に対してもより微細な加工特性が求められてきている。工業試験場では,約20年前に県内産陶石を原料とし,溶融・結晶化法(図1)を用いた快削性セラミックスを開発し,現在(株)フェローテックセラミックスにて「ホトベール」という商品名で製造・販売が行われている。この材料は,母材であるホウ珪酸ガラス中に高アスペクト比で無配向のマイカ(フッ素金雲母)結晶と微細なジルコニア結晶を均一に析出させることで,優れた加工特性を発揮するものである。この材料の加工特性はマイカ結晶の析出量や大きさに依存するため,加工特性の向上には微細なマイカ結晶を多数析出させる必要がある。
  本研究では,快削性セラミックス中に含まれるマイカやジルコニア結晶の析出量や大きさを制御することで,微細加工に適した材料開発を行うことを目的とする。これまでに,マイカの結晶化工程において圧力をかけながら熱処理を行うこと(HIP:Hot Isostatic Press)でマイカ結晶の微細化処理に関する知見を得ていることから,本技術をマイカ結晶成分を増加させた組成において適用し,結晶組織へ及ぼす結晶化時の圧力効果や各種熱処理後の機械的特性について検討を行った結果を報告する。

(図1 快削性セラミックスの製造方法(溶融・結晶化法))

2.内 容
2.1 実験方法
  ガラス組成は,マイカ(フッ素金雲母(KMg3(Si3AlO10)F2))結晶の析出量を調整するため,FやMgO成分を変化させた。原料粉末を所望組成になるように秤量し,ボールミルで乾式混合した後,仮焼を行った。仮焼粉末を電気炉にて1,350℃で溶融し,グラファイトルツボに流し込んだ後,徐冷することによりガラス化処理を行った。HIP結晶化処理はアルゴンガス置換により圧力を30〜150MPa,核形成は780℃で4〜6時間保持,結晶成長は1,050℃で10〜20時間保持の条件で行った。得られた材料について,SEMによる組織観察,X線回折による結晶相の同定,ビッカース硬度や3点曲げ強度による機械的特性について評価を行った。

2.2 HIP結晶化処理効果
  X線回折の結果,FやMgOの組成増に伴いマイカ結晶の最強線ピーク強度が増加し,約1.7倍析出量が増加することが分かった。図2に大気結晶化処理とHIP結晶化処理を行った後の微細組織を示す。大気結晶化処理で現れた閉気孔が,HIP結晶化処理を行うことで消失することが分かる。これは,HIP結晶化処理によるマイカ結晶の微細化(2〜3μmのマイカ結晶が増加すること)と圧力による緻密化の相乗効果によるものと考えられる。閉気孔の消失により,曲げ強度は大気結晶化処理と比べバラツキが小さくなることが分かった。またビッカース硬度はマイカ結晶の析出量増加に伴い低下し,見掛密度は増加することが分かった。セラミックスの機械加工性を示すマシナビリティー(快削性)指標である(ビッカース硬度(Hv)/破壊じん性(KIC))2値を計算した結果,10μm-1以下となり,良好な快削性を示すことが分かった。またマシナビリティー値は,マイカ結晶の析出量増加に伴い下がることから,加工性の向上はマイカ結晶量に依存することが分かった。マイカ結晶量の増加に伴うマシナビリティー値の向上により,実験試作レベルで,径50μm,間隔60〜70μmのドリルによる穴開け加工が可能となった(図3)。

(図2 快削性セラミックスの微細組織)
(図3 微細加工品)

3.結 果
  微細なマイカ結晶を多数析出させることが可能な原材料の調合とHIP結晶化処理の最適な条件の組合せを得ることができた。また,最大で1.7倍のマイカ結晶量を増加させても緻密な材料が開発できた。現在,本研究成果をもとに(株)フェローテックセラミックスと製品化に向けて取り組んでいる。

謝 辞
  本研究を遂行するにあたり,企業参画型研究として原料粉末の提供や加工性の評価にご協力頂いた(株)フェローテックセラミックスに感謝します。