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組紐技術を用いたCFRP製品の開発

■繊維生活部 ○吉村治 笠森正人 森大介 守田啓輔
■企画指導部 山本孝

1.目 的
  石川県は,我が国における合繊織編物の中心産地であり,特に組紐(組物:ブレード)をはじめとした繊維資材(伸縮性細幅織編物等)の一大産地である。組紐は連続した長繊維を円筒状に組んだものであり,武具,馬具,刀や鎧の装飾品から,着物の帯締めやアクセサリー,さらには工業製品として靴紐やロープ等に利用が広がっている。一方,産業資材,運輸,航空分野等において今後の需要の伸びが期待される材料として,炭素繊維強化材料(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)が注目されている。工業試験場では,繊維業界の新しい取組みである「衣料分野に加えて,非衣料分野における新商品開発」を支援するため,「繊維技術を用いた複合材料開発」の研究を行ってきた。この中で,県内企業,大学との共同研究「地域資源活用型研究開発事業」(経済産業省;平成19,20年度)として,地域の代表的な技術である組紐技術を用いて炭素繊維強化材料の開発を行ったので報告する。

2.内 容
2.1 組紐構造
  組紐は,図1に示すように製品の長手方向に対して,二群の繊維が互いに軸対象に傾斜配向し,繊維が切断されることなく交差することによって形成され,一般には,平打ちと呼ばれる平板形状と,丸打ちと呼ばれる円筒形状がある。基布の生産性が高く,組角,組数等組紐構造の設計が容易であり,この特徴を活かすことで,生産コストが低く,しかも高強度なCFRP製品の開発が可能と考えられる。

(図1 組紐構造)

2.2 ブレード装置
  経済産業省の電源地域産業資源機能強化事業補助金の適用を受けた東レ(株)の要請により,平成19年9月にブレード装置(図2)が実験棟に設置され,地域企業に開放された。この装置には,64本の組糸用と32本の中央糸用のキャリヤーがあり,約1m強の長さの組紐を作製することができる。使用可能な糸種は,炭素だけでなく,ガラス,アラミド,ポリエステル等,ほとんどの繊維に対応できる。また,組糸,中央糸に別の種類の糸を用いることや,96個あるキャリヤーの糸種を変えることも可能である。本装置を実験に用い,各種構成の組紐を試作した。

(図2 ブレード装置)

2.3 組紐技術を用いた長尺FRP製品の開発
  本研究では,高弾性率で生産性の良好なCFRP製品の製造技術を確立することを目的とし,具体的な製品として液晶ガラス基板搬送用ロボットのアームを目指した。表1に示すように,炭素繊維の種類や比率,組紐構成等を考慮した強度解析モデルを作成し,シミュレーション解析と実験値との比較・実証試験によって高弾性率化に最適な組紐構造を検討した。また,最適な成形材料の組成を明らかにするために,表2に示すようにマトリックス材であるエポキシ樹脂,硬化剤,硬化促進剤等の添加剤の種類及び量と強度等諸物性との関係を検討した。

(表1 筒型CFRP試験片の曲げ試験結果)
(表2 樹脂,硬化剤等配合比率)

3.結 果
  組紐構成を検討するため,筒型試験片の組糸の錘数や角度,中央糸の種類を変えて3点曲げ試験(図3)により弾性率を求めた結果,組角度を低くしたり,高弾性率糸であるPITCH系を用いると弾性率が高くなることがわかった(表1)。実測値をシミュレーション解析で得た値と比較すると80%以上合致しており,精度の高い設計方法を構築することができた。また,マトリックス材に関しては,エポキシ樹脂には汎用的なビスフェノールAタイプを選び,硬化剤にはポットライフ(樹脂粘度が上昇して使用できなくなる時間)を基に市販のアミン系硬化剤を用いた。ゲルタイム,粘度の測定結果も合わせて表2に示す。良好な成形条件を満足させるために40種以上の組成が異なる材料の調製を行い,硬化剤,添加剤等に関する種々の知見を得ることができた。試作した3.1mのCFRP製品を図4に示す。

(図3 筒型試験片の曲げ試験)
(図4 試作CFRP製品)

今後も継続して検討を進め,生産技術の確立と製品化,事業化を目指す予定である。