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小型ハイブリッド油圧システムの研究

■機械金属部 ○中島明哉 根田崇史 舟田義則 廣崎憲一
■金沢大学理工研究域 関啓明

1.目 的
  油圧は大きな力を迅速かつ正確に伝達・制御できることから,建設機械などの重厚長大な分野に利用されてきた。一般的な油圧システムは,主にポンプ・バルブ・アクチュエータから構成され,ポンプで常に高圧油を流しながら途中の弁を開閉することでアクチュエータを駆動している。そのため,アクチュエータの停止中でも常にポンプを一定速で回転させる必要があり,無駄なエネルギーを大量に消費しているといった問題がある。一方,近年の電気制御技術や情報処理技術などの発展に伴い,油圧システムもセンサやコンピュータが搭載され知能化・高機能化が図られてきた。その一つとしてハイブリッド油圧システムが注目されている。
  ハイブリッド油圧システムはポンプの動きを電動モータなどで精密に制御することで,必要な動きの分だけの油圧をアクチュエータに供給するシステムである。そのため無駄なエネルギーの消費が少ないばかりでなく,油量が必要最小限で済むことから,小型・軽量化が可能である。しかし,油圧=ハイパワー・重厚長大という従来のイメージが強いためか,小型・軽量なものはほとんど無いのが現状である。そこで,油圧システムの特徴である機器配置自由度の高さや防錆性が良いといった油圧機器の長所を生かした応用製品の開発を目的として,管内(φ300mm以下)作業など狭小空間かつ水関連の環境下で作業をおこなう移動型ロボットへ適用可能な小型ハイブリッド油圧システムの試作を行った。

2.内 容
  管内作業の主な仕事には樹脂性パイプの穴加工があり,この作業を行うためには工具を回転させながら送る必要がある。そこで,(1)工具を送るための直動型システムと(2)工具を回転させるための回転型システムについて試作を行った。

2.1システム概要
(1)直動型
  図1(a)に示すように,工具送り用の油圧シリンダに油圧供給源として油圧シリンダを接続した機構とした。その油圧供給用の油圧シリンダは電動モータにて制御可能な機械的な直動機構と連結しており,電動モータによる直動機構の位置決めにより,工具送り(位置)を制御するシステムである。
(2)回転型
  図1(b)に示すように,油圧ポンプと油圧モータを直結した構造とした。回転工具は油圧モータに接続し,電動モータの回転数を制御することで工具の回転数(トルク)の制御を行うシステムである。

(図1 ハイブリッド油圧システム)

2.2システムの設計と試作
  システム設計に必要な油圧を決めるため,穴加工に必要な加工力の測定を行なった。加工力は,工作機械に専用工具(φ80mm,6枚刃)を取り付け,軸方向への切り込みと半径方向への切り込みの2方向について測定した (図2参照) 。
  加工力測定の結果を基に,最大トルク4.5Nm(油圧20.6MPa)の回転型システムと最大推力392N(ストローク140mm)の直動型システムの試作を行なった。その上で,回転型を工具回転に,直動型を工具送り用に使用した加工試験システムを試作した (図3参照)。
  なお,試作したシステムをロボット搭載用に構成した場合の最小寸法は805×370×195mm(長さ×高さ×幅)である。

(図2 加工力測定)
(図3 加工試験システム)

2.3性能評価
  図4に直動型システムについてステップ送りしたときの変位(位置)測定の結果を示すが,約0.05mmの位置決め分解能を得られている。また,加工試験システムにφ80mmの工具を取り付け図5に示すような加工実験を行った。回転数により工具回転が不安定になることもあったが,工具回転速度3,000rpm,送り速度0.2rpm/secの条件の下で,厚さ9mmの塩化ビニルが加工可能であった。

(図4 ステップ送り時の変位)
(図5 加工実験の様子)

3.結 果
(1)小型ハイブリッド油圧システム(回転型,直動型)の試作を行った。
(2)φ300の管内作業ロボットに十分な位置決め分解能を有していることを確認した。
(3)厚さ9mmの塩化ビニル管の加工が可能なことを確認した。
  今後は,ストロークを多段階にすることによる小型化や,油圧タンクを搭載することによる回転の安定化などシステムの高機能・高性能化を図るとともに,介護・福祉分野などその他多くの分野へ応用展開を図ってく予定である。