簡易テキスト版

簡易テキストページは図や表を省略しています。
全文をご覧になりたい方は、PDF版をダウンロードしてください。

全文(PDFファイル:67KB、2ページ)

塑性加工における形状予測技術の研究

■機械金属部 ○新谷隆二 高野昌宏

1.目 的
  大きな変形を伴う塑性加工では形状の予測が難しく,実物により試行錯誤の実験を繰返し行っているため,所望の形状を得るためには,コスト及び時間を多く費やしている。
  近年ではコンピュータシミュレーションによる金型設計や形状解析も取り入れられるようになってきているが,塑性領域を含むCAE(コンピュータ援用エンジニアリング)では,材料特性が非線形であることや部品同士の接触条件など理論的に不確定な部分もあることから,解析条件を変えて繰返し解析することで実験結果と合わせこみを行っているのが現状である。
  そこで,複雑な塑性加工の形状予測を迅速に実施することを目的として,非線形解析に多く用いられている陽解法の有限要素法を用いた塑性加工解析における材料モデルおよび要素モデルの適性について検討した。

2.内 容
2.1 材料モデル
  有限要素法で塑性加工解析を行うには,弾性解析で用いるヤング率だけでなく,材料の応力−ひずみ曲線の塑性領域の近似関数を求める必要がある。今回解析に使用したソフトウエアでは塑性領域の近似式として,直線近似,多直線近似や指数近似など6種類があり,解析対象によって使い分けられている。
  図1に冷間圧延鋼板を引張試験して得られる応力−ひずみ曲線を示す。実線は変形に伴う断面積変化を考慮しない公称応力であるが,CAEではこれを補正して,真応力(太い破線)を用いる必要がある。冷間圧延鋼板を例として,直線近似したとき(点線)の傾きは623.3MPaであり,指数近似したとき(細い破線)の指数値は0.213であった。

(図1 材料の応力−ひずみ曲線)

2.2 曲げ加工への応力−ひずみ近似式の適用
  板厚1.6mm,幅120mmの板を金型の形状に沿って曲げる加工について,上記で得られた各近似式の係数を用い,近似式の違いによる解析形状の違いを比較検討した。図2は,2次元で板幅半分のモデル形状である。金型が点線の位置まで移動するとして解析した。
  解析結果を比較すると塑性領域を多直線で近似した場合が,実験結果と良い一致を示した。しかしながら,様々な材料の破断までの応力−ひずみ曲線が与えられることは少なく,実用上,直線近似を簡易的に使用する必要があると考えられる。

(図2 曲げ加工の解析モデル)

2.3 異なる要素モデルによる円筒深絞り加工の解析
  有限要素法の解析で扱える主な要素は,2次元ソリッド要素,3次元ソリッド要素,シェル要素の3種類である。要素モデルによる解析形状の違いを比較検討するために,図3に示す円筒深絞りの解析モデルを用いて,各要素モデルで絞り率(D3/D1)を変化させた解析を行った。
  図4は,解析結果から得られた絞り高さを示している。図中の実線は,Romanowskiが提案している円筒深絞りの高さを求める実験式であり,一般的な絞りの設計に用いられている。実験式より下側の領域(絞り率の小さいところ)でのプロット点は,円筒絞り解析が不可能であり,つば付き円筒の解析とした。
  円筒絞り形状となった解析に対しては,どの要素モデルを使用しても絞り高さは,実験式より大きな値を示しており,その値には大きな差がないことが分かる。
  各要素モデルでの大きな違いは,計算時間であり,3次元ソリッド要素は,2次元ソリッド要素と比較して,10倍以上の要素数となることから,計算時間も10倍以上となる。今回の解析では,2次元ソリッド要素では約80秒で解析が終了するが,3次元ソリッド要素では,約30分必要であった。

(図3 円筒深絞りの解析モデル)
(図4 絞り高さ)

3.結 果
  複雑な塑性加工の形状予測を迅速に行うことを目的として,陽解法の有限要素法を曲げ加工及び円筒深絞り加工へ適用して,材料モデル及び要素モデルの適性について比較検討した。
  その結果は,以下のとおりである。
(1) 応力−ひずみ曲線の近似式として多直線近似が実験結果と良い一致を示した。
(2) 絞り率0.6未満の円筒深絞りは,どの要素モデルを用いても解析不可能であった。
(3) 2次元モデルは,要素数が少なく計算も速いため,実用上,加工条件の設定に有利である。
  今後は,得られた知見を塑性加工業界への支援に活かしていきたい。