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色弱者が見分けにくい色をチェックするシステムの開発

■電子情報部 ○前川満良

1.目 的
  日本人男性の20人に1人が色弱者といわれる現在,色弱者に配慮したモノ作りが求められている。しかし,色弱でない人には色弱者がどのような配色を分かりにくいと感じているかが理解できなかったため,その具体的な対応が遅れていた。そこで,色弱者の色の見分けにくさを擬似体験できる色覚擬似変換技術を開発した。これにより主観的ではあるが見分けにくさの判断が可能となり,色弱者に配慮した製品が作られるようになってきた。
  しかし,色弱でない人が色覚擬似変換後の配色を主観的に判断していたのでは判断基準の個人差が大きいという課題があった。さらに,色弱でない人と色弱者の感じる色差が異なっていれば判断基準が異なることから,色弱者の感じる色差の特性も加味した客観的な判断基準が求められるようになってきた。そこで,色弱者の色差特性を反映して見分けにくいと感じる色をチェックする「カラーバリア・チェックシステム」を開発したので報告する。

2.内 容
2.1 システムの概要
  本システムは,色弱者にとって分かりにくいと感じるデザインの不具合箇所を指摘するものである。本システムの概要を図1に示す。本システムでは,まず評価したいデザイン画像を色弱者の見え方に色覚擬似変換し,次に変換したデザインの中で隣接する色が色弱者にとって十分な色差であるかを判断し,色差が不十分な箇所を指摘する。
  このシステムを開発するためには,大きく2つの課題がある。1つは色弱者の見え方に高精度で色覚擬似変換する技術であり,もう1つは色弱者の感じる色差の特性を明確にし,見分けにくさの判断基準を作ることである。

(図1 システムの概要)

2.2 色覚擬似変換精度の向上
  これまでの色覚擬似変換はsRGB色域のすべての色を図2のように,ある平面に投影している。しかし,モニターで表示できる色域がsRGBからAdobeRGBへ拡大しており,拡大した色域に対応した新たな投影平面を求める必要があった。そこで,ある軸を中心に回転させた各候補平面に対して,色弱者が色覚擬似変換前後の色の違いを認識できるかという評価を,AdobeRGB色域を均等に分割した729色について行った。変換前後の違いが認識できない色の割合を変換精度とし,投影平面を評価基準とした。実験結果は表1に示すとおり,0.1平面が最も高い精度で変換しており ,AdobeRGB色域では0.1平面を採択すべきであることが分かった。

(図2 色覚擬似変換前後の色域)
(表1 各平面の色覚擬似変換の精度)

2.3 色弱者の色差特性
  色覚擬似変換では3次元空間上のすべての色を特定の平面に投影し,平面上の点として表している。したがって,3次元空間上の2つの色の距離は,色弱者にとっては図3の投影平面上の2点間距離に置き換えて考えることができる。しかし,この投影平面上の距離が色弱者の感じる色の差と同じとは限らない。そこで,投影平面の距離と色弱者の感じる色差の関係を求める実験を行った。実験では,平面上の9色を選び,その色を中心に16方向でどこまでが見分けにくい色であるかを6人の色弱者が判断した。
  図4に被験者Aの実験結果を示す。この図から,L軸(明るさ軸)方向では明るい色の差が敏感であり,b軸(青−黄軸)では青よりも黄に対する差が鈍いことが分かる。
  この結果より,平面上の任意の2点間距離と色弱者の色差が同じになるように,平面の座標軸を変換する式を求めた。色弱者にとって均等な色差平面を図5に示す。これにより,この平面上の距離で色弱者の見分けにくさを判断することが可能となった。

(図3 色覚変換後の投影平面)
(図4 色弱者の色差特性の例)
(図5 色弱者にとって均等な色差平面)

3.結 果
  本研究では,色弱擬似変換の精度の向上と色弱者の色差特性を明らかにすることによって,デザインの中で色弱者が見分けにくいと感じる配色箇所を客観的に見つけ出すカラーバリア・チェックシステムを開発した。そのチェック例を図6に示す。色の境界は薄い灰色で示し,その中でチェック結果として悪い箇所を黒色で示している。
  今後,チェックシステムの信頼性を十分に検証し,実用化を目指す予定である。

(図6 チェック例)