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FPGAを用いた高機能信号入力ボードの開発

■電子情報部 ○米沢裕司 田村陽一

1.目 的
 検査装置や計測装置では,外部のセンサなどからデータを取り込み,さまざまな演算処理を行っている。演算処理にはパソコンやそれに類したもの(CPUボードなど)が使われる場合が多く,センサとパソコンとの接続に信号入力ボードを使う構成が一般的である。
 しかし,画像検査装置のように高速で大容量のデータを演算処理する場合には,パソコン等の処理能力が不足することがあり,課題となっている。また,検査装置や計測装置では,センサ信号に起因した不具合が生じることがあるが,不具合の再現(不具合発生時のセンサ信号の再現)ができずに,不具合の原因究明や動作検証に多くの時間を費やしてしまうことがある。
 そこで本研究では,このような課題を解決するために,用途に応じて回路構成を書き換えられるLSIであるFPGA(Field Programmable Gate Array) を用いた高機能な信号入力ボードの開発を行った。本ボードは,センサからの信号をパソコンに転送するという一般的な信号入力ボードの機能のほか,FPGAによる高速演算機能やセンサ信号を蓄積し再現する機能を有する。

2.内 容
2.1 ハードウェアの開発
(1)概要
  開発したボードの外観を図1に,ブロック図を図2に示す。ボードは2段構造になっており,下段のボードはザイリンクス社製の評価ボードSpartan-3ADSPスタータプラットフォームを使用した。このボードにはFPGA*の他,128MBのDDR2SDRAM(以下SDRAMと記す),ボタン,LEDなどが搭載されている。FPGAとは回路構成の書き換えができるLSIの一種であり,回路構成次第で様々な演算処理を高速に行えるという特徴がある。
  また,この下段のボードだけでは信号入力ボードとしては不十分であるため,USBコントローラやADコンバータ(8bit 80Mサンプル/s 2ch),USBコネクタなどを搭載した上段のボードを開発し,コネクタで接続した。

(図1 開発したボードの外観)
(図2 開発したボードのブロック図)

(2)USBによる高速通信
  本ボードとパソコンとは,USB通信により高速なデータの送受信を行うことを目指した。そこで本ボードでは,USB2.0のハイ・スピード伝送に対応したUSB通信コントローラであるサイプレス社製 EZ-USB FX2LP(以下FX2LPと記す)を用いた。また,FX2LPは通信の設定や制御を行うためのマイコン(インテル8051互換)を内蔵している。そのため,本開発ではこのマイコン用のソフトウェアを開発し,1)FPGAからセンサの信号データ等を受け,USB通信によって逐次パソコンに転送する, 2)パソコンからUSB通信によって送られてくるレジスタ設定値等を逐次FPGAへ転送する,といった通信を行えるようにした。

(3)FPGA回路
  ADコンバータからのセンサ信号データをFX2LPに転送するなどの機能を持つFPGA回路を開発した。FPGA回路は3つのモジュールから構成されている。このうち,SDRAM制御モジュールは,センサ信号データのSDRAMへの蓄積や,蓄積したデータの読み出しを行う。USB制御モジュールはFX2LPの動作状況や通信状況を監視しながら,SDRAMから読み出したデータのFX2LPへの送信を行う。そして,レジスタ値のFX2LPへの送信や,レジスタ設定値の受信も行う。レジスタモジュールは,レジスタ値を格納しており,センサからのデータ取り込みのタイミングやデータ取り込み数などを設定している。
  また,SDRAM制御モジュール内で,SDRAMの読み出しアドレスを制御することによって,一度転送したSDRAM内のセンサ信号データを何度でも繰り返し転送できるようにする機能を実装した。この機能は,信号入力ボードを用いる装置(検査装置や計測装置等)に何らかの不具合が発生した場合の原因究明に有用である。例えば,SDRAM内のデータを再度転送すれば,不具合の発生が入力データに起因するものであるかどうかを調べたり,入力データがどのような場合に不具合が発生するのかを調べたりすることができる。

2.2 パソコン用ソフトウェアの開発
  開発したボードをパソコンで取り扱う際に用いるインターフェース(API)を開発した。これはボードの初期化,信号データの受信,ボードの各種設定(レジスタ値の読み書き)などを行う関数群である。また,これらのAPIを用いてボードを動作させるプログラムも作成した。

3.結 果
  開発したボードとパソコン間でのデータ転送速度を実測した結果,約32MByte/sであった。これは,一般的なモノクロカメラであれば3台分の映像をコマ落ちなく転送できる速度に相当し,信号入力ボードとしては十分な速度である。
  また,前章で述べたFPGA回路の規模は小さく,今回用いたFPGAの約6%の回路を使用しているに過ぎない。残りの回路は,信号入力ボードの用途に応じて,センサ信号の高速な演算処理等に自由に利用することができ,パソコンの処理能力が不足する場合にそれを補うことができる。以上のことから,本ボードは,検査装置や計測装置等の高速化や高機能化,さらには装置の不具合の原因究明や動作検証作業の迅速化に役立つものであり,画像検査装置などへの応用を進めている。